教育心理学研究
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女子双生児における依存の発達
高橋 恵子
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1973 年 21 巻 4 号 p. 242-247

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抄録

同年齢, 同性のきょうだいを持つという特殊な状況にある双生児の依存では, 次のような特徴が指摘された。
1 依存構造
双生児が一般児にくらべ, 理論的にもっともよい構造とみなされるF型の出現率が低いということはなかった。しかし, 双生児では得点 (調査Iの) からは親友型, 愛情の対象型などとみなされたものでも, 調査IIによればそれらが真の焦点としての機能を果たしているとはいえず, 対の相手や母親が真実は中核的機能を担っているかたちになっていた。これらの対の相手や母親が機能分化された上での焦点といえるか, 未分化な“中心”であるのかについての問題が残されている。
2 依存要求の強度
双生児が一般児にくらべ依存要求が強い, あるいは弱いということはなかった。
3 依存構造の内容
双生児においては, 何よりも対の相手が依存の対象として重視されている。双生児の相手は単独で, あるいは, 複数の中の1人として焦点になることが多いしまた, どの型においても重要な対象である。そして, 次に重要な対象は母親であった。父親はさして重要な対象とはされていないが, これは一般児の傾向と同様である。対の相手や, 母親が重視される半面, 同性の友人や愛情の対象, あるいは尊敬する人は重要とされないのが一般的傾向であった。この傾向は対の相手との結びつきが強いほど顕著であった。
4 発達に伴なう内容の変化
2年間おいた2時点でみてみると, 双生児の対の相手との結びつきは, わずかながら, 成長につれて同性の友人や愛情の対象とのそれに移行していく傾向がみられたが, 一般児ほど顕著ではない。
このような双生児の依存の状態は, われわれの依存の発達の理論に対して, 次のようなことを示唆していると思われる。
第1に, 依存の対象の交替は, よく似た機能をよりよく果たすものが選ばれるという原理にしたがうであろうということである。その証拠としては, 双生児においては, きょうだいでありながら, 同年齢, 同性で, いつも側にいるという対の相手が, 多くの場合, 同性の友人が果たす機能をある時期実際の友人よりもよく果たすために, 友人関係の発達が遅滞してしまうと考えられること, そして, 対の相手とは異なる機能をもつ母親や父親への依存行動は双生児の相手の存在とは関係がないために一般児と変わらないこと (三木ほか, 1969), があげられる。
第2に, 双生児の依存の対象として同性の友人よりもさらに発達がおくれているとみられたのは, 愛情の対象や尊敬する人への依存行動であった点は興味深い。われわれの文化における依存の対象の変化は一般には, 家族→仲間, 友人→愛情の対象へと, 依存行動のむけられる対象の範囲が拡大していくと考えてきた。そして一般児でいえば, 高校生段階は, 仲間・友人にむけられる依存行動が多いのである。
双生児の資料によれば, 再びこの発達の規則性が確認されたばかりか, どこかで発達がつまづくと, 次の段階への移行が困難であるという新しい規則性が見出されたと思われる。すなわち, 典型的には双生児型にみられるような対の相手と母親を重視していて仲間を必要としない場合には, それを媒介にして発達していく愛情の対象との関係がスムーズにはいかないらしいのである。治療, 教育という面で考えれば, ある関係がつまついている時には, その以前の関係から調整する必要があるということになろう。
第3に, 依存構造の類型は, 大きくわければ双生児型に典型的にみられるいわゆる家族中心型 (一般児では母親型) と, 親友や愛情の対象を焦点とする他人型にわけられるであろう。われわれが得てきた資料では, どの型がより望ましいかについての知見は得られないのであるが, 双生児の資料は, 家族型における問題を示唆してはいないであろうか。
すなわち, 家族型の場合には, 単に焦点が家族であるだけにとどまらず, この型では, 愛情の対象や尊敬する人が実際に存在もしないし, 仮定することもできないといった問題がある。このことは次のような点で問題だと考えられないであろうか。すなわち双生児であるといえども対の相手との分離が成長につれておこること, 一般児でも双生児でも母親からの離脱もやがておこることを考えると, 大部分の人々においてはいつまでも家族がすべての機能を果たしうるとはいえないであろう。双生児の対の相手が親友の機能を代替しうるといってもそれは一時期でしかない。だとすれば, 家族以外の対象に依存行動を向け難いという家族型では, 家族がその機能を代替的に果たすには無理な時期にきても, 交代する対象を求めることが難しいという問題がおこる。それは対象がみつからないという意味でも, また, 家族以外の対象へ依存要求をむけるための適当な行動様式の学習の機会がないという意味でも, 困難になろう。したがって, 家族型ではある時期をすぎると, 依存行動の発達がおくれ, ひいてはそれを通じて「自我」の発達が困難になりかねない, と考えられる。

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