教育心理学研究
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観察学習における動機づけと手がかりの明瞭性の効果
春木 豊
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1977 年 25 巻 3 号 p. 175-185

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抄録

この論文においては, 観察学習における動機づけの効果と手がかりの明瞭性の効果に関する実験が報告された。
第1実験は, 観察学習における動機づけの効果を分析することを目的としたが, 観察学習の場合, 他の学習と同じように, 課題解深への動機づけのほかに, 観察することへの動機づけが考えられる。本実験ではこの2つの動機づけの効果を比較することを目的とした。
1) 被験者は小学6年生男女で, モデルは女子大学生であった。課題は人形を手がかりにした前後の弁別学習であった。実験群は3群からなり, P群は課題解決へ動機づけるもの, 0群は観察することへ動機づけるもの, N群は特に動機づけを高める教示をしなかった。C群は統制群で観察試行なしであり, 実験群の観察学習の効果をみるためのものであった。
2) 観察学習成立の基準はテスト12試行を全て正解の場合, 内観の言語報告において正解の言えた場合, 及び言語報告も行動も共に上記の基準に達している場合の3 通りを設け, 群間の比較をした (基準に達した人数についてX2検定)。その結果は次のように要約される。
i) 行動で正解の基準及び行動と言語報告共に正解の基準においては, 実験群は統制群 (C群) と差があり,. 観察の効果のあったことが示されたが, 実験群間においては, P, O, N群の順で成績がよく, P群とN群の間で統計的な差が得られた。課題解決強調教示群に動機づけの効果のあったことが示された。
ii) 言語報告の正解の基準については, O, P, N, C群の順になり, 統計的に差のみられたのは, O群とC 群間とO群とN群間のみであった。観察強調教示群のみに動機づけの効果のあったことが示された。
iii) 男女差はみられなかった。また強調教示のないN 群で, 達成動機の高い者に観察学習の成績がよいことがみられた。iv) テスト時にモデルの反応を模倣しようという傾向はP, O, N群の順で多く, P群とN群に統計的差がみられた。
3) 以上のような諸結果から, 基準のとり方により結果に矛盾があるが, 言語報告の基準には問題があるので, 行動の基準を主にして考えるならば, まずP群の課題解決への動機づけが効果的であったといえるが, P~O群間に差がなかったので, 観察への動機づけより, 課題解決への動機づけの方に効果があるとは断言できない。また, P群の動機づけの効果は観察学習そのものではなく, 実行時での効果であるかもしれないということについて考察された。
第2実験は, 観察学習に対する手がかりの明瞭性の効果を分析するために, 左右相称の人形を手がかりに, 人形の左右の弁別課題と前後の弁別課題の観察学習の効率を比較した。前者は観察者にとってモデルの正反応の手がかりが不明瞭な場合であり, 後者は明瞭な場合である。
1) 被験者 (小学5年生, 6年生) はいずれも左右, 前後ともよく理解できる者に限った。
2) その結果は, 次のように要約される。
i) 観察試行8回または16回の理範囲内, 及び観察学習成立の基準を観察直後の実行テスト (12試行) で全て正反応という条件下では, 左右弁別課題では, 観察学習は成立せず, 前後弁別課題では成立した。
ii) 観察8回の条件下では, 前後弁別課題の方が, 左右弁別課題の観察学習より有意に成績がよい。しかし, 観察16回では有意な差がなかった。これは観察回数がふえると共に左右弁別課題の成績がよくなり, 手がかりの明瞭性の効果が意味を失ったためと考えられる。
3) 各群の被験者の左右, 前後の概念の理解の程度に相違がないこと, 及び知能差がないことから, 上記の結果は課題の困難度や被験者の能力差によるのではなく, 課題の手がかりの明瞭さによるものと考えられた。

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