教育心理学研究
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「自我同一性地位面接」の検討と大学生の自我同一性
無藤 清子
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1979 年 27 巻 3 号 p. 178-187

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抄録

自我同一性の問題について, 自我同一性地位という操作的概念を提出しているMarcia, J. E. の手法を検討した結果, 日本では以下の修正が必要であった。 (1) 面接内容の修正: 宗教の領域を廃止し, 代わりに価値観の領域を設置した。評定結果からみて, 自我同一性の達成にとっては, 職業と価値観が重要な意味をもつ領域であり, 政治の領域はあまり意味をもたない場合が多い。従って, 価値観の領域を設けたことによって, その個人の自我同一性の問題への解決の核心的部分に迫ることができたと考えられる。 (2) 評定方法の修正: (1)基準の評定; 危機を程度によって4段階評定する。傾倒は, 程度によっ評定するのを原則とするが, 傾倒が欠如しているものの評定については, 欠如の仕方の様相によって3つに分け, そのいずれかに評定する。そのうち, 傾倒しないことに傾倒していてあらゆることを可能なままにしておこうとしているものによって, 同一性拡散の新しい下位地位が示唆された。(2) 自我同一性地位の評定; 第1に, 政治の領域の早期完了については, 明確な能動的選択の時期を経ずに, ある見解を自分のものであると明言してそれに安住しているという点を評定のポイントとした。第2に, 領域毎の自我同一性地位には, 必要なものには副評定をつけることとした。これによって, 全体的同一地位が単純合計として決定しやすくなり, 評定の根拠がより明確になったという点で, 有意義である。
これらの修正・改善に基づいて, 『自我同一性地位面接』とその評定のためのマニュアルを新たに作成したことによって, この枠組みの日本での適用を可能にした。
さらに, 背景的情報や価値観の内容との対応から, この評定の妥当性が示唆された。
以上述べたように, Marciaの操作的枠組みを用い, さらにそれを改善したことによって, 自我同一性の重要な問題にアプローチできた。即ち, 自我同一性の達成の程度一般というようなものではなく, 危機への対処の仕方そのものの分析を可能にしたといえよう。

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© 日本教育心理学会
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