教育心理学研究
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弁別逆転学習による言語機能の発達に関する研究
渡辺 弘純
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1979 年 27 巻 4 号 p. 262-271

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抄録

本研究で問題にされたのは, 第1に, 弁別学習における年齢的発達傾向の存在と言語化の効果である。
学習基準達成者の比率と学習基準達成までの試行数・誤数については, 明らかに年齢的発達が示されているといえる。平均反応潜時についても, その増加を新しい反応獲得期における1つの現象であると考えるならば, 発達的変化が指摘できる。初期と最後の誤反応後の第1試行から第5試行への減少傾向に関しても, 初期の試行で 3才児のみにみられる有意差は, スムーズな課題への接近における困難を示しており, 最後の誤反応後の試行で年長児にみられる有意差は, Miliward, R.(1964) の対連合学習に関する報告に基づき, 正反応の確実な成立に関係しているととらえるならば, いずれも, 年齢的発達のあらわれであるといえよう。
言語化の効果についていえば, 学習基準達成者の比率と学習基準達成までの試行数・誤数について, 年齢差を捨象する方向すなわち年少児により有効に作用している。平均反応潜時についても, 初期の試行においては同様に考えられるが, 最後の誤反応後の試行では7才児を除き一様に増加させる作用をしている。初期の第1試行から第5試行への減少傾向については, 3才児の減少を妨害し, 4才以上児の減少を促進するとみられる。反応潜時の増加や減少の妨害は, 必ずしも負の作用を意味するのではなく, 課題解決過程への自覚化を促したことの証左であると考えることも可能である。また, 年少児において, 最後の誤反応後の第1試行から第5試行への減少傾向の促進に効果的でなかったが, 学習基準達成や試行数・誤数の減少へと作用した効果が, いまだ反応潜時に反映するにいたっていない過渡的状況を示しているものともいえよう。
このようにとらえるならば, 反応潜時の結果を含めて, 仮説 (1) は支持され, 本研究で取り扱われた年齢段階の被験児は, 言語化が, 弁別学習に対して有効に作用する言語機能の獲得水準にあるといえよう。
第2の問題は, 逆転学習における年齢的発達と言語化が4才頃を境にして反対に作用することを明らかにすることである。
学習基準達成者の比率は, 年少児から年長児へと大きく変化する。しかし, 弁別学習の達成者のほとんどは, 年齢に関係なく逆転学習も達成している。学習基準達成までの試行数・誤数については, 一定の年齢的発達がみられるが, 直線的な傾向としては示されていない。反応潜時についても, 一部に年齢的変化があるともいえるが, 一般的傾向を指摘するのは困難である。
一方, 言語化の効果は, 学習基準達成者の比率と学習基準達成までの試行数・誤数について, 4才頃を境にして, きわめて対照的な作用を及ぼすことが明瞭に示されている。前者については, 3才児のみに負の作用を及ぼし, 4才以上児では正の作用を及ぼしている。後者については, 3・4才児とくに3才児に対して負の作用をし, 5・7才児に対しては正の作用をしている。これは, 統計的検討からもいえる。反応潜時については, 同様な作用の指摘できる箇所もあるが, その変化は非常に複雑で, 本研究における資料からは, 明瞭な説明が可能であるとは思われない。
以上から, 逆転学習の年齢的変化が確認されたとはいいがたいが, 反応潜時に関して更なる検討の必要性を指摘した上で, 仮説 (2) の言語化の効果に関する部分は支持されたということができよう。
第3は, 弁別学習と逆転学習の関連のしかたに対して, 言語化がどのような作用を及ぼすかという問題である。言語化しない場合には, 両者の関連に年齢による相違はみられず, すべての面で共通している。ただし, 初期の試行の反応潜時に関して, 4.5才児においてのみ両学習間の相違が有意である。
言語化の作用についていえば, 学習基準達成者の比率において, 一般に弁別学習と逆転学習の両者に正の作用を及ぼす (とくに4才児に対して) にもかかわらず, 3 才児に対しては, 弁別学習を促進し逆転学習を妨害する作用, すなわち弁別学習と逆転学習の相違を際だたせる作用をしている。学習基準達成までの試行数・誤数にっいても, 全く同様な作用が指摘できる。年少児の逆転学習に対する妨害は, 弁別学習成績によって3才児と4・ 5才児をマッティングして, 逆転学習成績を比較した資料によっても確認される。平均反応潜時については, 言語化が, 初期の試行で4才以上児の, 最後の誤反応後の試行で4才児の減少傾向を強める役割を果たしている。言語化した場合に, 逆転学習時の反応潜時が年齢によって異なることは, 弁別学習時にほぼ同様な反応潜時を示した3才児と4・5才児の逆転学習時のそれを比較した資料からもわかる。
これらは, 仮説 (3) を支持するものであり, 反応潜時の変化は言語化の作用する方向の転換とかかわっていると考えられる。
このような諸結果は, 4才頃までは, 第一次信号的基礎に基づく言語化が, その年齢段階までに獲得されている言語の分類子 (classifier) とでも形容されるような機能を強化するとし, 4才頃に言語の機能が分類子から媒介子としての機能を併せもつものへと変貌することによって, それ以後の年齢段階では, 第一次信号的基礎の下にばかりではなく, それを超える働きを獲得しているとの立場から説明しうるのではないかと考えられる。
なお, 反応潜時の増減については, より力動的な解釈が必要であると考えられる。また, 統計的有意差の存在箇所をみても, 5才児から7才児へかけての変化が顕著であり, この変化自体を中心的な研究対象とする実験的枠組の下に, さらに詳細に検討される必要があるといえよう。

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© 日本教育心理学会
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