教育心理学研究
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画面の力動的均衝に関する一研究
美的観照に関する研究-第II報告
林 美樹雄
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1969 年 3 巻 1 号 p. 11-17,2

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抄録

美的観照を力動的な対象把握過程と考え, その力動性を画面の均衡把握について吟味するために成人及び中学校生徒男女587名を対象としてテストを行つた。テストの内容は単純図形を, 画面としての矩形の内部に定位し中央位及び両側偏位の3種の構図について順位づけを求めた。被験者が幾何学的均衡 (中央構図) と力動的均衡 (偏位構図) との何れを選ぶかを18図形につき分析した結果を要約すれば次の通りである。
(1) 一般的傾向として中央位構図の選択率%は略々50%を占め相称構図が支持せられる。これは特に相称図形において著しい (80%)。
(2) 図形が方向性緊張をもつ場合には方向性と逆方向の偏位構図が支持せられる。抽象幾何図形群においても方向性が把握せられるがそれが意味づけによつて強化せられた場合に偏位支持率が顕著となる。
(3) 上下方向の偏位図形においては下方偏位構図が支持せられる。
(4) 構図選択傾向を数値化した場合発達差よりも性差が著しく又その値は略々一定している。この差は主として男子群の方向性偏位支持率が集中的であるのに対し好群のそれが稍瞹眛である点によると思われる。
(5) このテストと他種アートテストとの相関は極めて低い。知能テストとの相関は0.318であつた。
以上の結果はこのテストが諸条件を単純化しているために一般的な構図選択や複雑な画面の観照に適用することは出来ないが, 而もそれは幾何学的図形においても相貌的方向性が認められそれが構図的均衡に影響を与えること, 偏位は図形の方向性と逆方向において支持せられる等の点を明らかにし力動的異質的均衡を分析する手掛りを提供する。この発展としては稍複雑な図形と連続的偏位法を用いて画面の均衡点を見出す操作により群差及び姓差を一層明瞭に規定することと, 画面諸要素の重さ及び方向性を精細に吟味することによつて力動的均衡の特性を明らかにする側面とが残されている。但しこの様なテスト形式では画面の左右上下による重さの不等性を含む力動性の分析には不適当でありこの目的のためには瞬間露出法が有利であると考えられる。

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