教育心理学研究
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青年期の社会的態度に関する縦断的研究
個人の変化過程の分析
久世 敏雄浅野 敬子後藤 宗理二宮 克美宮沢 秀次宗方 比佐子大野 久内山 伊知郎
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1985 年 33 巻 1 号 p. 11-21

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抄録

本研究では1960年代の時代背景に基づいて設定された 3つの態度枠組を基礎にして1970年代の青年が個人の水準でどのような態度変化の過程をたどるかについての分析を行ってきた。得られた結果は以下のように要約できる。
(1) 保守, 革新, 大衆社会の3つの態度のいずれでも, 6年間で態度が比較的安定している個人と変動している個人がいる (TABLE1, 2)。しかしこの安定と変動のしかたに関して3つの態度は比較的独立している (男子の保守的態度と大衆社会的態度の間でのみp<. 05 で関連が認められる)。
(2) 保守的態度と革新的態度の間には負の連関が, 保守的態度と大衆社会的態度の間には正の連関があると仮定すると, 6年間, ほぼ一貫してこのような仮定された態度間の関連を維持している個人, そのような関連の成立へ向かう個人がいる一方, 6年間のいずれの時点でもこのような関係のみられない個人, およびはじめは成立していた仮定された関係が不明確化していく個人がいる (FIG1, 2)。
(3) 保守的態度および大衆社会的態度それぞれでは, 著しい保守化, 大衆社会化または反保守化, 反大衆社会化の傾向を示す個人がいるが, 革新的態度ではそのような一定方向への顕著な変化を示すものはいない (FIG. 1, 2)。
(4) 男子の特徴としては大衆社会的態度で安定しているものが少ないこと, 保守化, 大衆社会化の方向へ著しい態度変化を示す個人がいるばかりでなく反保守化, 反大衆社会化の方向へも顕著な変化を示す個人がいること, これらの個人ではその多くで保守化と大衆社会化, 反保守化と反大衆社会化が並行して現われていることなどが挙げられる。一方女子では保守化, 大衆社会化の方向へ顕著な変化を示す個人はみられるが, 反保守化, 反大衆社会化の方向への変化については, 男子の場合と異なりそのような個人はみられないこと, これらの個人で保守的態度と大衆社会的態度の変動方向の相関関係は明らかではないこと, しかしながらこの2つの態度でともに安定して否定的水準を維持する個人が存在することが特徴となっている。
以上の分析は3つの態度それぞれの態度枠組を固定した上で行ってきた。これらの態度の内容が項目水準でみてどのようであるのか, あらかじめ設定した仮説的な枠組を均質に代表するものであるか否かについては, 別の検討を必要とするであろう。また態度間の関連に様々なタイプが見出されたこと, 特に多くの場合一次元上で対極にあるものとして扱われる保守的態度と革新的態度との関連においても齟齬が見られたこと, それぞれの態度と大衆社会的態度の間に異なる関連のタイプが見出されたことについても, 各態度の項目水準での分析, 態度を特定の枠組で分解 (例えば大衆社会的態度の「無関心」成分と「他人志向」成分) した上での分析などの方法で明示化してみる必要があるだろう。
われわれは, これらの態度がいかなる支持基盤によって支えられているかについても考察を試みてきた。社会的態度を, 個人が所属する集団との関わりの内でとらえようとする試みは様々な方面から進められている。一般的な, 家族, 学校, 友人集団等という枠組ばかりでなく, それぞれの態度を代表するような集団がどのように存在しており, それが個人にどのような影響を及ぼしていくかを検討していくことも必要かもしれない。既にみてきたように, 1960年代の態度枠組について, 何らかの変更が必要とされるのであれば, 現代の青年が帰属すべき集団の枠組として, 従来とは異なるものを用意すべきであるのか, あるいはそれぞれの集団そのものに変質が生じているのかいずれかであるだろう。

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© 日本教育心理学会
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