教育心理学研究
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乳幼児の知的発達の階層的構造化に関する縦断的研究
宮原 和子
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1985 年 33 巻 4 号 p. 315-326

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抄録

最近, 乳幼児の精神発達・行動に関する研究は, 移動運動, 指差し行動, アタッチメント, 言語等の特定の領域については, かなりの研究がおこなわれているが, より広範な知的発達の領域を包摂する分野についての研究は, 必ずしも十分ではない。言うまでもなく, この広範な発達領域について, 人間の知性が, その感覚運動期の当初から, 主体と環境の相互交渉の営みのなかで, いくつかの既有のシェマが協応・分化し, 低次から高次へと階層的に構造化されていくのを初めて明らかにしたのは, Piaget, J.(1936) である。しかし, 準実験的観察に基づくこの感覚運動期についてのPiagetの研究は, その広範な発達領域を包摂するが故に, 観察研究の領域が多岐にわたり, それを網羅するかたちでの研究は困難を要する。さらにこの時期のPiagetの研究も, いくつかの間題を内包している。第1は, Piagetがおこなった感覚運動期の観察については, その発達領域をいくつかの下位領域にもっと明確に整理し, それぞれの領域での発達の道筋を明らかにする問題である。第2は, とくに発達研究を進めていく上で, そのそれぞれの発達領域における所定の発達のレベルを客観的に評価することの問題である。第3は, 近年数多く論証されている乳幼児の発達の可塑性 (Hunt, 1961, 1969) を加味すれば, Piaget が感覚運動期の6つの下位段階を発達段階として暦年齢と対応づけているのに対して, 発達のレベルを独立変数とし, 暦年齢を従属変数とする発達の階層的順序性を基本とする発達研究を展開することの必要性である。
Hunt, J. Mc肌とその共同研究者Uzgiris, I. C.(Uzgiris & Hunt 1975) は, Piagetの感覚運動期に関する観察に啓発され, 上に述べた理論的視点に立って, 所定の発達領域における発達の階層化を客観的に評価する順序性をもった6つの領域における7つの尺度を構成している。本研究は, 感覚運動期の6つの領域について作成されたUzgiris-Huntの順序尺度を用いて, 一人の子どもに対する縦断的研究をおこない, その尺度に基づくそれぞれの領域における発達の階層的構造化の過程を検討し, さらにそこで得られた結果から各発達領域の有機的関連とこの知的領域における発達の構造化について考察する。

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