教育心理学研究
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単身赴任の家族に与える影響
田中 佑子
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1988 年 36 巻 3 号 p. 229-237

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抄録

本研究は社会問題化している単身赴任が家族成員や家族関係に与える影響の一般的傾向を把握すること(研究I),及びこの影響の大きさを規定する家庭内外の要因を検討する(研究II)ことを目的とする。民間企業に勤務し,子を有する単身赴任者とその妻307組を対象に,郵送法による質問紙調査を実施した。研究Iでは夫250名,妻256名を分析し,得られた結果は次のごとくである。(1)家族成員の身体・精神面のストレス反応は家族関係のストレス反応に比べて大きく,成員では夫が最も大きく,妻,子の順に小さくなった。成員,特に夫妻の半数以上は現在の生活に不満足であるが,家族の統合機能が低下している家庭は僅かであった。成員個人でストレス反応を示した者は平均70-50%,家族関係上のストレス反応を示した者30―10%,統合低下の家族3%であった。(2)親子関係のストレス反応は,夫婦関係に比べ大きかった。しかし,この反応は子ども自身の意識や行動の変容に起因するというより,親側の不安感から生じていると考えられた。(3)夫婦関係のストレス反応は小さく,むしろ単身赴任は夫と妻が相互の必要性を再認識する機会となっていた。研究IIでは夫婦160組を対象に数量化III類及びII類を用いて分析し,得られた結果は次のごとくである。(1)ストレス反応を規定する要因としては,家族のデモグラフィックな条件と物理的条件が大きかった。(2)家族の統合を規定するのは,主に家族の心理的状態であった。つまり,家族のデモグラフィックな要因や物理的条件といった所与の条件が家族のストレス反応や生活満足度を規定し,それらの変化が家族の統合に影響を与えるという図式が仮定された。

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© 日本教育心理学会
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