教育心理学研究
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進路に関する自己効力研究の発展と課題
廣瀬 英子
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1998 年 46 巻 3 号 p. 343-355

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抄録

本論文はこれまでの進路に関する自己効力の研究を取り上げた展望論文である。自己効力理論を進路関連の領域に応用したキャリア・セルフエフィカシー研究はHackett & Betz (1981) が女性の進路発達を理解するために自己効力理論からアプローチしたことに始まった。その後研究の関心は進路選択に対する自己効力, 進路選択過程に対する自己効力, 進路適応に対する自己効力の三分野に向けられてきた。進路選択に対する自己効力とは, 自分の進路選択についてどのような分野に対してどの程度自信を持つかを指す。初期の頃は男性中心の職業・女性中心の職業に対する自己効力の性差を論じていたが, 最近ではHollandやKuderなどの職業興味理論に基づいた興味分類に対応した形での自己効力の測定と, 関連する要因とのつながりの研究に発展している。進路選択過程に対する自己効力とは, 進路を選択していく過程そのものについての自己効力を指し, Taylor & Betz (1983) に代表されるいくつかの尺度が開発され, また進路不決断など他の要因との関連が注目されている。進路適応に対する自己効力とは, 選択した職業に適応し満足や成功を得ることについての自己効力であり, まだあまり研究が蓄積されていないが, 進路決定後の適応状況を予測できるという意味で重要である。今後の課題としては, 新たにLent, Brown & Hackett (1994) の社会・認知的進路理論で提唱された, 職業興味・進路選択・進路に関わるパフォーマンスについての3モデルの実証的な検証を進めること, これまで用いられてきた様々な測定尺度を見直して信頼性・妥当性を検討すること, 性差の比較から個人差の比較へと重心を移すことなどがあげられる。さらに, 研究対象者の拡大や縦断的研究, 進路指導・進路カウンセリングでの自己効力理論の応用, 進路適応に対する自己効力の研究の充実が期待される。

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© 日本教育心理学会
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