教育心理学研究
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聴覚障害学生の心理社会的発達に関する研究
健聴者の世界との葛藤とデフ・アイデンティティの影響
山口 利勝
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1998 年 46 巻 4 号 p. 422-431

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抄録

本研究は, Schlesinger & Meadow (1972) に示唆を得て, 健聴者の世界との葛藤並びにデフ・アイデンティティが聴覚障害学生の心理社会的発達に与える影響について実証的な検討を行った。健聴者の世界との葛藤尺度 (山口, 1997), デフ・アイデンティティ尺度 (山口, 1997), エリクソン心理社会的段階目録検査 (中西・佐方, 1993) からなる質問紙を141名の聴覚障害学生に実施し, 健聴者の世界との葛藤が心理社会的発達に与える影響とデフ・アイデンティティが心理社会的発達に与える影響を重回帰分析により検討した。その結果, 対象全体では,(1) 健聴者の世界との葛藤が心理社会的発達に多様かつネガティブな影響を与えており, 障害の受容がアイデンティティ形成につながること,(2) デフ・アイデンティティが心理社会的発達に影響を与えており, 統合アイデンティティ'がアイデンティティ形成にポジティブな影響を与えていること, などが明らかになった。教育歴では,(1) ろう学校群においては, 健聴者の世界との葛藤が心理社会的発達に影響を与えていないが, デフ・アイデンティティが心理社会的発達に影響を与えていること,(2) 学校変遷群と普通学校群においては, デフ・アイデンティティが心理社会的発達に影響を与えていないが, 健聴者の世界との葛藤が心理社会的発達にネガティブな影響を与えていること, などが明らかになった。なお, 健聴者の世界との葛藤, デフ・アイデンティティ, 心理社会的発達の聴覚障害変数 (聴覚障害を被った時期, 聴力損失の程度, 教育歴, 発声の伝達度, 両親が聴覚障害者か否か) による差については, 健聴者の世界との葛藤とデフ・アイデンティティにおいては教育歴で, 心理社会的発達においては発声の伝達度で差がみられた。

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© 日本教育心理学会
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