教育心理学研究
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ルール適用の促進要因としてのルールの方向性と適用練習
経済学の「競争と価格のルール」の教授法に関する探索的研究
進藤 聡彦麻柄 啓一
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1999 年 47 巻 4 号 p. 462-470

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抄録

本研究の目的は, 経済学のルールを日常現象に適用可能にするための教授要因を明らかにすることにあった。取り上げたルールは「企業間に競争があれば価格は低くなる (なければ高くなる)」であった。大学生に, ある駅間の運賃が同距離の他の駅間より低いのはなぜかという価格の差の理由を問う問題を出題した。正解は, 他の私鉄と競合するためである。路線図から競争事態を読みとらなくてはならない問題条件や, 競争事態が文章で明示されてはいてもストーリーの中で出題される条件下では, 彼らは先のルールを用いて解答することができず, 大部分の被験者は「乗客数」や「鉄道敷設費・運転経費」といったコストの差異に着目して解答した。そこでこのルールを適用可能にする要因を探るために3つの実験を行った。実験Iでは具体的事例を用いてルールを教示し, 事後テストとして上記問題を出題したが効果はなかった。用いた事例が企業の視点から書かれていた点に原因を求め, 実験IIでは消費者の視点からの事例を用いてルールを教示したが効果はなかった。実験IIIではルールの記述の方向性とルールの適用練習という2つの要因を取り上げた。前者の要因に関しては, 上記のルールを教示する群と,「価格が低いのは競争がある証拠」というように前件と後件を入れ替えたルールを教示する群の2群を設定した。その結果, 後者の群で当該ルールの適用が促進された。また適用練習も有効であった。課題解決の際に被験者が求められる推理 (今回は「価格の差違」に着目して「競争の有無」を推理) の方向と, ルールの記述様式が一致している場合には, ルールの適用が促進されることが明らかになった。

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