教育心理学研究
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親子関係と幼児のパーソナリティの発達
津守 真磯部 景子横山 峰子下坂 雅子仁科 弥生長塚 和弥
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1961 年 9 巻 3 号 p. 129-145,186

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抄録

幼児のパーソナリティは, 親と子の力動的な相互関係の中で形成される。本研究は, 幼児のパーソナリティおよび母親の育児態度を諸種の方法によつて測定し, 親の育児態度と幼児のパーソナリティの発達との間にどのような力動的な関係があるかを考察した。被験者: 被験者は4, 5才の幼稚園児71名とその母親子どもの知能および家庭の社会経済状態は著しく高い。方法1.幼児のパーソナリティ特性をとらえるために次の方法を用いた。 [1] 自由場面における行動観察タイムサンプリングにより1名につき3分間20回, 計60分, 観察項目は, 攻撃, 優位, 非協力, 従属, 依存, 愛情, 活動量 (エネルギー) であり, 2名の観察者による一致度, および自己折半による信頼度は十分な信頼性を示しており, 教師の評価ともある程度一致している。 [2] 母親との面接により, 家庭における依存性と従順性とについて評価した。2.母親の育児態度をとらえるために次の方法を用いた。 [1] 面接法, 場面について略画図版を使用し, 面接後評価をした。評価項目は罰の厳しさと依存の受容度である。 [2] 質問紙, 母親の育児態度を測定するための質問紙を作成し, 肯定的否定的, 積極的受動的の2つの軸を考え, リッカート法によつて項目分析を行なつた。3.ドルプレイ20分2回ずつのドルプレイを実施し子どもの性差を考慮して, 男子実験者, 女子実験者を組み合わせた。記録のカテゴリーは, 攻撃, 否定的感情, 傍観, 操作, 依存, 愛情である。
結果と考察
I攻撃性の発達と親の態度について,.本研究から指摘される点は次の諸点である。
1.親が子どもにフラストレーションを多く与える場合すなわち, 罰が厳しい場合, 子どもの攻撃的傾向は大となる。 (Table8)
2.男児の場合, 罰が厳しくなくとも攻撃が大なるものがかなりみられる。 (Table14)
3.女児の場合, 罰が厳しいと攻撃性は逆に小になるものが多くみられる。 (Table8)
4.罰が厳しいために攻撃性が小になつているものは, ドルプレイの空想場面でより攻撃的でより活動的になる傾向がある。 (Table14)
5.母親の罰が厳しいために, 家庭で攻撃性をあらわさない場合には, 幼稚園およびドルプレイにおける攻撃が大になる。 (Table15)
6.攻撃性が大で, 従順性および愛情が大なる場合には親は厳格であつても受容的, 肯定的である。それに対して, 攻撃が大であつて, 従順性および愛情が小なる場合には親は厳格で否定的で受容度小である。 (Table22.23)
7.母親は男児に対してより厳格である。 (Table7)
8.攻撃は男児により大であり, 女児により小である。 (Table5.Table10)
9.ドルプレイにおいて, 男性実験者が女性実験者よりも攻撃性をより多く誘発し, 第2試行における攻撃性の増大も男性実験者の場合により大である。 (Table10)
以上の結果を総合して, 攻撃性の規定要因として次の諸要因をあげた。
(1) 社会的要因攻撃は男性の役割として社会が許容する。 (2, 7, 8, 9)
(2) フラストレーション・アグレッションの要因 (1, 6)
(3) 同一化の要因攻撃者と同一化される場合, 攻撃は大となる。 (6, 8)(4) 攻撃不安の要因攻撃することに対して不安のある場合には攻
撃は抑制される。 (3, 4, 5, 9)
(5) 空想表出の要因現実場面で抑制された攻撃は空想場面で表出される。 (4, 5)
II依存性の発達と親の態度について本研究から指摘される点は次の諸点である。
1.家庭でも集団場面でも依存性が大なるものは母親が否定的なものが多く, 家庭で依存性が大であつても, 集団場面で依存性が小なるものは, 母親が受容的で肯定的なものが多い。 (Tabl17)
2.男児は罰が大だと依存は小となり, 女児は罰が大だと依存は大である。受容度についても同様である。 (Table18)
3.親が否定的で罰が大であるものの極端なものをとると依存性は小となり, 肯定的で罰が小の極端なものをとると依存は大となる。 (Table20)
4.依存が大で攻撃性が大なるものは, 罰が厳しいものが多い。 (Table24)
5.依存は女児に大である。 (Tabl)
以上の結果を総合して, 依存性の規定要因として次の点をあげることができる。
(1) 依存が許容され, 依存が強化されると依存は大となる。 (3)
(2) 依存が拒否される場合, フラストレーションにより, 依存欲求は大となる。 (1, 2, 4)
(3) 社会的要因として依存が承認される場合, 依存は大となる。 (5)
III攻撃, 非協力, 優位, エネルギー, 従属, 愛情の諸行動変数の個人別プロファイルをつくつて検討した結果, 8行動類型に分けることができた。それぞれの行動類型と関係のある親の態度とあわせて要約すると次のとおりである。A1攻撃的で活発で, 優位に立ち, 従属度も大で愛情も大なもの-母親は子どもに対して肯定的で受身, 罰は厳しく受容度大である。 (Table22, Fig.2) A2攻撃的で活発で優位にあるが, 人の働きかけに対して従順に応じないことが多く, 愛情を示すことが少ない-母親は拒否的で, 罰が厳格で受容度小である。 (Table23, Fig.3) A3攻撃を示すが, 優位でなく, 従属的でなく, 愛情も示さない。依存は大である-母親は肯定的で積極的で厳格である。 (Table24, Fig.4) B1攻撃的でなく, 活発でなく, 従属的でなく, 愛情を示さず, 全般に動きが少ない-母親は否定的で, 積極的なものが多い。 (Table25, Fig.5) B2攻撃的でなく, 活発でないが, 従属的であり愛情深い-母親は肯定的受動的, 寛容で受容度大である。 (Table26, Fig.6)
C1全体に平均的で, 表面的には顕著な特徴が認められない-母親の態度は受容度大である。 (Table27, Fig.7)
C2全体に平均的だが優位でなく, 不活発である-母親は否定的積極的である。 (Table28, Fig.8)
D形の上でどれにも入らないもの (Table29, Fig.9)
以上の行動類型はドルプレイとも関連をもつことが示された。

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© 日本教育心理学会
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