2019 年 58 巻 2 号 p. 135-146
本研究では,東日本大震災の発生以降,日本社会が直面する最大の防災課題として位置づけられた津波からの避難行動を研究対象として,以下のことを示した。まず,避難訓練を支援するために開発したスマートフォンアプリ「逃げトレ」について紹介した。次に,「逃げトレ」が,避難行動の分析・改善の鍵を握る人間系(避難行動)と自然系(津波挙動)との相互関係を,実際に避難する当事者に対して可視化するためのインタラクション表現ツールであることを示した。その上で,「逃げトレ」の効果性,とりわけ,これまでの避難対策や手法―たとえば,ハザードマップや従来型の集団一斉訓練など―に対する優位性を,「コミットメント」(特定のシナリオを絶対視し,そこに没入する傾向性)と「コンティンジェンシー」(それを相対視し,そこから離脱する傾向性)を鍵概念として明らかにした。最後に,人間科学と自然科学の性質のちがいにも言及しながら,「逃げトレ」が担保する「コミットメント」と「コンティンジェンシー」の相乗作用は,「想定外」に対する対応原理としても重要であることを指摘した。