実験社会心理学研究
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N人グループにおける個人利益と共通利益の葛藤について
三井 宏隆
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1975 年 15 巻 2 号 p. 162-167

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抄録

Kelley & GrzelakのN人実験ゲーム事態を用いて, 個人利益 (競争反応) と共通利益 (協力反応) との葛藤状態に置かれた個人の行動を実験事態の理解度と関連づけて取り上げた.
一連の実験目的は「間接的な相互依存状態に置かれた個々人は相互の立場の理解を通じて, 短期的には有利な個人利益を抑えて長期的な意味で自分をも含めた集団の共通利益を増大させるような行動をとるであろう」との仮説の検討であった.
実験結果からは次の知見がえられた.
(1) 個人利益が高く共通利益の低い事態 (HI-LC条件) では協力反応は少なく, 個人利益が低く共通利益の高い事態 (LI-HC条件) での協力反応の増加も僅かであった.
(2) HI-LC条件での競争反応の増加は30試行の後半10試行に顕著であった.
(3) 予め得点構造に関する情報を与えることはLI-HC条件での協力反応を増加させずに, HI-LC条件での競争反応を増加させた.
(4) 実験後の質問調査から推測されるかぎりでは, 個々人のゲーム構造の理解は競争反応の選択が自分にとって有利であることを知りえた段階にとどまり, 自分をも含めた集団の共通利益と如何なる関係にあるかの把握までには至らなかったといえる.
以上のように, 本実験では 「相互依存関係の理解を通じて協力反応数が増加する」 との仮説を支持する知見はえられなかった.
その理由としては, (1) 被験者に課せられた葛藤状況が厳しい内容のものではなく, そのため協力反応の意味が十分に理解されなかったこと, (2) にのような状況での選択反応を一種の対人相互交渉過程とみなすならば (三井, 1974), 試行間隔が短いことは被験者相互の戦術を調整する時間的余裕を与えなかった点で実験事態への理解度の操作にマイナスの作用をしたと思われる, などが考えられる. これらの点については今後の課題として検討したいと思う.

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