実験社会心理学研究
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リーダーシップ行動と部下集団成員の「モラール」との因果関係に関する研究
岩井 紀子
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1987 年 26 巻 2 号 p. 137-149

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抄録

本研究の目的は, リーダーシップP行動およびM行動と部下集団成員の「モラール」との因果関係を明らかにすることである。
銀行組織を対象として, 約15ヶ月の間隔をおいて連続5回, 三隅ら (1970) の開発したリーダーシップPMサーペイを実施した。各行員は, 上司のリーダーシップP行動 (目標達成機能) およびリーダーシップM行動 (集団維持機能) ならびに職場集団の「モラール」を評定した。前後2回の調査のあいだに監督者が交替した職場集団が287, 交替しなかった集団が159であり, 集団の規模は監督者を含めて平均7名であった。
主要な結果は以下のとおりであった。
監督者が交替した集団では, 前任者のリーダーシップ得点と後任者の得点のあいだには有意な相関が認められない (P得点r=. 07; M得点r=. 11)。前年度の「モラール」得点と次年度の「モラール」得点との相関も低い (. 23)。前任者と後任者のあいだでのリーダーシップ得点の変化と「モラール」得点の変化とのあいだには高い相関が認められる (P. 50; M. 67)。
一方, 監督者が交替していない集団では, 前年度のリーダーシップ得点と次年度の得点のあいだの相関は高く (P. 64; M. 57), 「モラール」得点についても同様である (. 43)。これらの結果は, 監督者のリーダーシップ行動の変化が職場集団の「モラール」に変化をもたらしていることを示唆している。
監督者が交替した集団についてさらに対数線型モデルを用いて, 前年度の「モラール」, 次年度の「モラール」および後任の監督者のリーダーシップPM行動類型のあいだの関連を分析した。その結果, 後任者のリーダーシップ行動類型と次年度の「モラール」との交互効果の他に, 前年度の「モラール」と後任者のリーダーシップ類型とのあいだにも交互効果が認められた。しかしながら後者の効果は前者よりも弱い。また, P型の監督者は「モラール」の高い集団で出現しやすいが, そのリーダーシップ行動は「モラール」を低める傾向があり, 逆に, M型の監督者は「モラール」の低い集団で出現しやすいが, そのリーダーシップ行動は「モラール」を高める傾向があった。一方, PM型の監督者は部下集団における前年度の「モラール」の影響とは比較的無関係に出現するが, そのリーダーシップ行動は「モラール」を高める傾向が強く, pm型の監督者は「モラール」の低い集団で出現しやすく, そのリーダーシップ行動は「モラール」を低める傾向が強いことが見出された。
本研究の結果は, 部下集団の「モラール」の状態がリーダーシップ行動様式を規定する側面もあるが, 監督者のリーダーシップ行動条件が部下集団の「モラール」を規定する力の方が強いことを示しており, リーダーシップPM理論における仮定を支持している。

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