実験社会心理学研究
Online ISSN : 1348-6276
Print ISSN : 0387-7973
ISSN-L : 0387-7973
緊急異常事態発生時の対処行動に及ぼす平常時リーダーシップ行動の効果
矢守 克也三隅 二不二
著者情報
ジャーナル フリー

1988 年 28 巻 1 号 p. 35-46

詳細
抄録

本研究は, 平常事態におけるリーダーのリーダーシップ行動が, 平常事態における部下の作業の作業量 (「平常事態パフォーマ ンス」) に及ぼす効果と, 緊急異常事態発生時における部下の異常に対する対処行動 (「異常事態対処行動」) に及ぼす効果を実験的に検討したものである。
「平常事態パフォーマンス」とは, リーダーがフォロワーに遂行を命じた作業の作業量であり, 従来の研究では主としてこの「平常事態パフォーマンス」に及ぼすリーダーシップの効果が検討されてきた。一方, 「異常事態対処行動」とは, 各集団成員がリーダーから直接与えられた作業とは直接的な関連をもたないが, 集団全体の効果性に対してはネガティブな影響を及ぼしかねないような突発的な異常事態に対するフォロワーの対処行動のことである。
リーダーシップは三隅 (1984) のPM論に基づいて検討した。ただし, 従来の研究では微細に検討されていなかった行動形態として, 個々の集団成員に対してのみではなく, 集団全体に対する影響過程によって, 集団目標達成と集団の維持という集団の機能的要件を促進する新しいリーダーシップ行動類型-P2型 (集団目標達成強調型), M2型 (集団凝集性強調型), PM2型 (両者を兼ね備えた型) -を導入し, 個人志向型のP1型 (個人目標達成強調型), M1型 (個人的配慮・緊張緩和型), PM1型 (両者を兼ね備えた型), pm型 (両者とも弱い型) とともにその効果性を比較検討した。
被験者, サクラ, リーダーから成る3人集団を実験的に構成し, 「平常事態パフォーマンス」の測度として, 被験者に与えた単純作業における作業量を設定し, 「異常事態対処行動」の測度として, 被験者の共同作業者を装ったサクラが作業に用いるコンピューターが異常を示すアラーム音を発するという緊急異常事態において, 被験者がとる対処行動を設定した。
実験の結果, PM2型が「平常事態パフォーマンス」, 「異常事態対処行動」両者に対して最も効果的であり, PM1型がそれに次いだ。また, P1型は「平常事態パフォーマンス」に対してのみ, M2型は「異常事態対処行動」に対してのみ効果的であること, pm型は両方に対して効果性が相対的に最も低いことが見いだされた。さらに, 「異常事態対処行動」の効果性と強く関連する要因として, 集団目標達成に対する動機づけの程度 (「集団へのコミットメント」), 「平常時の作業に対する無理な圧力感」が見いだされ, 「集団へのコミットメント」が高いほど対処行動が効果的となること, 「無理な圧力感」が高いほど対処行動の効果性が劣る傾向が認められた。これらの結果は以下のように考察された。
まず, PM2型が, 両従属変数に対する効果性が最も高かったのは, 集団目標と集団凝集性を強調することによってフォロワーの「集団へのコミットメント」を高めたことによると考察された。また, P1型が, 「平常事態パフォーマンス」に対してのみ効果的であったことは, P1型で高かった「無理な圧力感」が平常時の作業における短期的な作業量の増大には有効に作用したものの, 柔軟性・適応性が要求される「異常事態対処行動」にはネガティヴに作用したためと考察された。
また, 平常時のリーダーシップは同じ平常事態におけるフォロワーの作業の作業量に対してだけでなく, 緊急異常事態におけるフォロワーの対処行動にも影響を及ぼすことが明らかとなり, このことは事故・災害を未然に防止するという点からも意義をもつものと考察された。

著者関連情報
© 日本グループ・ダイナミックス学会
前の記事 次の記事
feedback
Top