森林や林地の保続にとって保安林制度は重要な役割を果たしてきた。本研究では民有保安林における制度運用の把握及び民有水源かん養保安林と林業経営との関係性の分析を目的に,茨城県常陸太田市を事例に県行政担当者及び森林所有者5名に対して聞き取り調査と資料収集を行った。その結果,木材生産収入を目的に林業経営を行う保安林所有者は,概ね100 ha以上の森林を所有し,その過半に水源かん養保安林の指定を受けていた。常陸太田市における2016~20年度の主伐率と間伐率の年度平均値を保安林と非保安林で比較すると,保安林の方が主伐率,間伐率共に高い値を示した。水源かん養保安林の指定により固定資産税の非課税,相続税評価額の控除を受けられることから,税負担の軽減を図りながら木材生産を行う実態を示すものとなった。一方,保安林非所有者は所有林面積が小さく税金対策の必要性が低いため,保安林指定には消極的であった。水源かん養保安林の指定は民有林の持続的林業経営に寄与すると考えられるが,税制上の優遇措置による恩恵が指定面積により異なることから,所有林面積の多寡は森林所有者の保安林指定を望む要因の一つであると考えられる。