2016 年 98 巻 3 号 p. 108-117
北海道において,エゾシカと人間社会との軋轢が深刻化している。その対策の一環として,猟区を設定しエゾシカを狩猟資源として活用する試みが始まっている。本研究では,2014年に設定された占冠村猟区を事例とし,猟区設定過程が地域社会にもたらす社会的な影響を分析した。占冠村は,猟区とレクリエーショナル・ハンティングがもたらす可能性のうち「安全な狩猟の実施」「個体数の管理」「地域経済への好影響」を挙げて,住民への説明を行い,猟区設定を進めてきた。これに対し,聞き取りを行った住民からは,「安全な狩猟の実施」を期待する声が多く聞かれたものの,農業被害対策が重視されていないことへの懸念が聞かれた。また,「地域経済への好影響」に対する期待はほとんど聞かれず,むしろ過去の観光開発のように猟区設定がトップダウン的に行われようとしていることに対する不安が聞かれた。このため,野生動物管理や地域活性化のツールとして猟区とレクリエーショナル・ハンティングを活かすためには,行政による十分な説明と住民主体の活動を軸として,住民生活や地域の歴史などと柔軟に「すり合わせ」を行うことが必要であると考えられる。