林學會雑誌
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母岩の林相に及ぼす影響に就て
和田 常次郎
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1928 年 10 巻 6 号 p. 310-323

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抄録

(一)本研究は愛媛縣伊豫郡砥部村字五本松に於ける一團のアカマツ林に於て、其の林相に甚しき優劣ある二區域(これをS區及C區とせり)に分れをるを發見し、其の差異の據由する處を明かにせんがために行ひたり。
(二)兩區に於ける土壤の保水力(水分飽和時に於ける土壤内含水量)はC土壤優るも、水分保留力(蒸發による乾燥に耐ふる力)はS區のもの大なり。又林地に於けるC土壤はS土壤より含水量大なり。
(三) S區は太古代の結晶片岩を母岩とし、C區は第三紀の礫岩と泥岩とよりなる。而してS區の地層は二五度内外の角度を以て北々西に傾き、C區は略々水平に其の上に乘る。此の結果土壤の物理的性質はS區はC區に優る。
(四) S區の土壤は概してC區より窒素、燐酸、加里、苦土、石灰等の含有量大なり。且兩區共同程度の弱き酸性反應を呈す。
(五)各種の統計的調査に依れば、一般に或る岩種の風化分解には或る一定の最も適當なる氣温及降水量の限界あるものの如く、是が爲めに降水量少き地方に於て、甲より劣等とさるゝ乙母岩の山地が降水量多き地方に於ては却て甲母岩の地方を凌ぐ事あり(18)。又本研究の如く氣象關係全く同一なる場合に於ても、岩種の異るにより其の立地に延ては其林相に顯著なる差異を來す事あり。
(六)要するにS區に於ける片岩は、其の岩石本來の化學的性質に於てC區に優るのみならず、本研究地々方の氣候(主として氣温及降水量)に對する母岩の風化分解の遲速多少、及地層の傾に基く土壤の物理的、機械的性質に於てS區はC區に優り、遂に其處に生育せるアカマツの林相に甚しき優劣を生じたるものなるべし。

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