抄録
わが国の異なる気候帯に属する木について,それらの耐凍性の立場からみた特性をつかむために,約80種類の常緑および落葉広葉樹の冬の耐凍度を調べた。
1. カンバ,ヤナギ,およびポプラ以外の樹種では,常緑広葉樹でも落葉広葉樹でも,それらの自然分布の北眼が南にあるものほど耐凍度が低い傾向が認められる。ことに常緑広葉樹では紀伊半島,四国および九州南端にそれらの自然分布の北限をもつものでは, -3~5°Cの凍結にしか耐えない。
2. 常緑広葉樹では冬芽,枝の靱皮組織および材の耐凍度の差は少なく,葉の組織では葉脈と葉柄の耐凍度がとくに低いものが多い。
3. 落葉広葉樹でも暖地性のものは約-15°Cまでの凍結にしか耐えない。本州や北海道南部に自然分布の北限をもつものは約-30°Cまでの凍結にしか耐えないものが多い。またこれらの樹種では枝の組織間の謝凍度の差は少ない。しかしカラフト,満洲,沿海州にまで分布している樹種では, 2~3の例外を除いて,それらの冬芽や靱皮組織は-70°Cまでの凍結に耐えるが,これらのものでも材は-40~50°Cまでの凍結にしか耐えない。材も-70°Cまでの凍結に耐えるのは用いた材料ではシナノキ,サワグルミ,カンパ,ヤナギ,およびポプラ類のみである。ヤナギ,カンパおよびポプラでは暖地にあるものも-70°Cまでの凍結に耐えることから考えて,これらの樹種では冬の寒さが自然分布の制限要因となっていないように思われる。しかし耐凍度の低い常緑広葉樹や落葉広葉樹も,厳寒地では冬の寒さがこれらの自然分布を制限する一つの重要な要因になっているものと考えられる。