抄録
症例は69歳の男性で,直腸癌に対し腹腔鏡補助下前方切除術施行した.体位は砕石位で下肢の固定にはブーツタイプの固定具を用い,術中は右側に傾斜したTrendelenburg体位を保持した.覚醒直後より左腓腹部の自発痛と腫脹を認めた.翌朝には症状はさらに強くなり,踵部の知覚障害,足関節背屈障害がみられた.下肢造影CTでは左腓腹部に低吸収域がみられ,血清CKは56,604U/lと著明に上昇,コンパートメント圧は110mmHgと上昇を認め,左腓腹部コンパートメント症候群と診断した.同日筋膜切開を施行したが軽度の知覚障害が残存した.腹腔鏡補助下大腸手術は砕石位で行なわれることが多く,下腿圧迫により生じるコンパートメント症候群はまれであるが,重篤な機能障害を残す可能性のある合併症である.予防策を十分に行なうとともに発症した際には早期に適切な対処を行なう必要があるので若干の文献的考察を加え報告する.