The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Diffuse Intramuscular Metastasis from Gastric Cancer with Degenerating Skeletal Muscle Fibers
Toshiro TaniokaHideki KawamuraMasahiro TakahashiHideki YamagamiHiroyuki MasukoHiroyuki IshizuKuniaki OkadaShin Ichihara
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2012 Volume 45 Issue 7 Pages 708-714

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Abstract

症例は52歳の女性で,4型胃癌で2005年10月に胃全摘術を施行後に術後補助療法としてS-1を投与した.2007年6月のCTで右水腎症を認め,後腹膜再発を疑いweekly paclitaxelを開始した.2クール後に水腎症は改善するも,2008年10月に右大腿の疼痛と筋の硬化が出現した.2009年3月のCTで両大腿動脈周囲に低濃度領域を認め,疼痛も両下腿へ拡大した.後腹膜再発の大腿動脈周囲への伸展とその随伴症状と診断した.両鼠径部への放射線照射後に同部位の低濃度領域は消失したが,下肢の疼痛と硬化は進行し,硬化範囲が背部へも拡がったため,同年11月にMRIを施行した.脊柱起立筋から下腿に筋変性を認めたため,変性疾患との鑑別のため筋生検を施行した.横紋筋はほとんど間質線維に置換され,その中に異型腺管をまばらに認め,胃癌筋転移と診断された.胃癌骨格筋転移の報告は少ないが,筋変性を伴った報告はなく,本症例は極めてまれな症例と思われる.

はじめに

胃癌の骨格筋転移はまれ1)であるが,その中でもびまん性筋転移を認める症例は少なく,さらに,筋変性を来した症例の報告はない.今回,胃全摘出術後に筋変性を伴うびまん性筋転移を来した特異な1症例を経験したので報告する.

症例

患者:52歳,女性

主訴:下肢の疼痛

既往歴:特記すべきものなし.

家族歴:特記すべきものなし.

現病歴:2005年8月に嘔気を主訴に近医を受診し,上部消化管内視鏡検査で胃に4型の腫瘍を指摘された.当院紹介受診後の9月に生検を行い,胃癌の診断のもと10月に胃全摘出術を施行した.病理組織学的検査はpor2>>sig,tub1,pT3(SS),sci,INFc,ly2,v0,ow(-),aw(-),ew(-),pN2,cM0,pStage IIIaの診断であった(Fig. 1a, b).術後補助化学療法としてS-1(80 mg/body分2)を投与したが,2007年6月の腹部CTで右水腎症を認めた.後腹膜再発を疑いweekly paclitaxel(80 mg/m2)を開始したところ,2クール施行後のCTで水腎症は改善した.2008年6月のCTで右大腿動脈周囲に低濃度領域が出現したが,症状は特になく経過観察としていた.10月より荷重時に右大腿の痛みが出現し,右大腿筋の硬化も認めるようになった.しかし,CT上は変化がなかった.2009年3月のCTで左大腿動脈周囲にも低濃度領域が出現し,疼痛が両下腿に拡大した(Fig. 2a).低濃度領域を後腹膜再発の大腿動脈周囲への伸展と判断し,疼痛と筋の硬化はその随伴症状と考え,2009年6月より両鼠径部に各48 Gyの放射線治療を施行したところ,9月のCTでは低濃度領域は消失した(Fig. 2b).しかし,その後も下肢の疼痛と筋の硬化は徐々に進行し,下肢の屈曲や歩行が困難になった.さらに,筋の硬化範囲は背部にも拡大した.11月にMRIを施行し,脊柱起立筋から臀部,下腿にかけてT2強調像で著明な信号上昇を認め,筋炎,脱髄疾患が疑われた(Fig. 3).鑑別診断のため,局所麻酔下脊柱起立筋生検を施行した.

Fig. 1 

a: Resected specimen shows type 4 gastric cancer. b: Histological findings. The tumor consisted predominantly of poorly differentiated adenocarcinoma with signet-ring cell carcinoma component (HE staining, ×40).

Fig. 2 

a: Abdominal CT reveals the low density area around the bilateral femoral arteries (circles). b: After radiation therapy, the low density area disappeared. Hypertrophy of the right femoris muscles cannot be pointed out.

Fig. 3 

Right leg MRI on T2-weighted images. High signal intensity areas in the right femoris muscles and soleus muscle are shown (arrows).

生検前検査所見:総蛋白(6.2 g/dl)とアルブミン(3.2 g/dl)の軽度低下を認めた.ほか血算,生化学検査に異常を認めず.腫瘍マーカーはCEA(1.3 ng/ml),CA19-9(6.5 U/ml)ともに正常範囲内であった.

MRI所見:右大腿四頭筋からヒラメ筋にかけてT2強調像で高信号を認めた.特にヒラメ筋には著明な信号上昇を認め,筋炎,脱髄疾患が疑われた.また筋肉の肥大も認めた(Fig. 3).同様の所見が臀部,背筋にも認められた.

病理組織学的検査所見:正常の横紋筋構造はほとんど残っておらず,間質線維に置換されていた.増生した間質線維の中にまばらに異型腺管,異型細胞の浸潤像を認め,胃低分化腺癌の骨格筋転移の像であった(Fig. 4a, b).病理組織学的には間質の増生の原因は明らかではなかった.

Fig. 4 

Biopsy specimens from the erector spine muscle. Scattered atypical glands and atypical cells lie in the loose interstitial fibers, replacing skeletal muscle fibers. (HE stain, a: ×40, b: ×400)

臨床経過:骨格筋転移の診断で2009年12月より化学療法をCPT-11 A法(100 mg/body)に変更した.しかし,筋の硬化範囲は徐々に全身へ広がり,performance statusも悪化したため2010年4月で化学療法を中止した.筋の変性が頸部にまでおよび食事摂取も困難になってきたため,2010年10月より入院し2010年11月に永眠された.家族の同意が得られず病理解剖は施行できなかった.

考察

骨格筋は広く全身に分布しているにもかかわらず,癌の骨格筋への転移はまれとされている.骨格筋転移の原発巣としては,肺癌,乳癌,大腸癌,腎癌が多く,胃癌の転移は極めてまれとされている1).その理由としては,筋肉内の激しい血流変動のために腫瘍細胞が定着できないこと,筋肉では腫瘍細胞の血管透過性が良好であり内皮への接着が起こりにくいこと2)3),筋肉の収縮により末梢血管内の腫瘍細胞が圧迫破壊されること,乳酸などの代謝産生物が腫瘍の増殖を抑制すること4)などが挙げられている.

JMEDPlusを用いて,「胃癌」,「筋転移」をキーワードとして1981年1月~2010年12月まで検索をしたところ,胃癌骨格筋転移の本邦での報告は,自験例も含め32例5)~34)であった.それらの症例を転移様式から,腫瘍の境界が明瞭な腫瘤型と境界が不明瞭なびまん型に分けると,両型間に特徴の違いを認める.詳細はTable 1に示しているが,両型間の差異として,有意にびまん型の年齢が低く(P=0.010),組織型では腫瘤型に低分化腺癌が多く(P=0.019),びまん型に印環細胞癌を多く認める(P=0.001).

Table 1  Comparison of two types of muscle metastasis
Tumor type
n=22
Diffuse type
n=10
P
Sex Male 15 4 0.244
Female 7 6 0.244
Age 64.6±9.6 53.7±9.9 0.010
Pathological type tub 6 0 0.142
por 13 1 0.019
sig 0 5 0.001
others 0 1 0.313
Carcification within the tumor 4 3 0.648
Site of skeletal muscles head and neck 0 1 0.313
trunk 11 5 1.000
limb 12 5 0.712
Synchronous metastasis of other organs 8 6 0.267
Disease-free interval (month) 12.9±5.5 15.8±7.5 0.670
Survival after metastasis (month) 12.2±2.3 10.3±1.2 0.749

tub: tublar adenocarcinoma, por: poor differentiated adenocarcinoma, sig: signet-ring cell carcinoma

治療方法に関しては,びまん型では化学療法や放射線治療が多く選択され,腫瘤型では孤立性で他臓器転移のないものは外科的切除を施行し,長期生存を得た症例もあるが,通常は切除可能な例でも予後不良である(Table 27)9)20)32).腫瘤型であっても転移巣が複数あるものや深部に転移巣が存在するもの,他臓器転移のあるものは化学療法が選択されていることが多い.

Table 2  Comparison of treatments
Tumor type
n=22
Diffuse type
n=10
Resection 3 0
Resection and chemotherapy 3 0
Radiation 0 1
Chemotherapy 8 1
Chemoradiation 0 3

本症例では,52歳と若い年齢であったこと,印環細胞癌であったことなど,他のびまん型骨格筋転移と共通点が多い.しかし,腫瘤型も含め,筋の変性硬化を認めた症例は他になく,本症例に特徴的な所見であった.筋の変性硬化を認めた詳しい機序は不明であるが,転移巣の組織像をみると,変性硬化した筋の質量に比較し癌細胞の割合が極めて少なく,癌細胞は孤立散在していた.よって癌による機械的刺激や炎症の波及が原因とは考えづらいと思われる.最近,線維芽細胞が癌の浸潤・転移を促す働きがあるといわれ注目されている35)36).また癌細胞は線維芽細胞を誘導する作用を持つことも言われている.今回の症例においても,膠原線維が原発巣,転移巣ともに存在していたが(Fig. 5a~e),今回は転移巣において,骨格筋から膠原線維への非常に高度の変性が発生したまれなケースではないかと想像する.

Fig. 5 

Upper: primary lesion, Lower: metastasis lesion, HE stain (a, d), cytokeratin stain (b, e), Azan stain (c, f), ×20. HE (a) and cytokeratin stain (b) of the primary lesion shows diffuse infiltration of tumor cells. Spindle-shaped collagenous fibers are demonstrated by Azan stain (c) of primary lesion. The density of tumor cells is lower than that of primary cells in HE (d) and cytokeratin stain (e) of the metastatic lesion. The proliferation of loose fibers is shown by the Azan stain (f).

利益相反:なし

文献
 

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