The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Appendiceal Diverticulitis Diagnosed by Preoperative Ultrasonography
Yasuyuki JinKimiatsu HasuoTakanobu YamadaInsop HanYuta KumazuYukio MaezawaYasushi RinoMunetaka Masuda
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2012 Volume 45 Issue 7 Pages 766-771

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Abstract

症例は59歳の男性で,透析のため来院した際に腹痛を訴えたため,精査を行った.腹部超音波検査で虫垂に憩室を認め,虫垂憩室炎と診断した.虫垂切除術を施行した.術後経過は良好で,第5病日に退院した.病理組織学的検査の結果も虫垂憩室炎であった.虫垂憩室炎は比較的まれな疾患とされており,術前に急性虫垂炎と鑑別することは困難とされている.しかし,虫垂憩室炎という疾患を念頭に置いて慎重に超音波検査を行えば,診断率を高めることは可能であると思われた.

はじめに

これまで虫垂憩室炎はまれな疾患とされてきた.しかし,近年,疾患の認識の広がりとともに報告例は増加している1).その一方で急性虫垂炎との鑑別は依然として困難であり,術前検査で診断が可能であったという報告はそれほど増加してはいない.今回,我々は術前の超音波検査で虫垂憩室炎と診断しえた症例を経験したので,若干の考察とともに報告する.

症例

患者:59歳,男性

主訴:右下腹部痛

家族歴:特記事項なし.

既往歴:2001年に慢性腎不全で透析導入となり,また同年レーベル病が原因で全盲となった.

現病歴:2010年8月,腹痛が出現した.翌日になっても症状が続くため,透析で来院した際に検査を行った.急性虫垂炎疑いで透析終了後に外科紹介となった.

現症:透析中にPentazocine 15 mgを筋注されていたため,腹部に明らかな圧痛を認めなかった.

血液生化学所見:WBC 5,000/μl, CRP <0.04 mg/dlと炎症反応の上昇は認めなかった.慢性腎不全のため,Cr 13.59 mg/dl,BUN 47.8 mg/dlと高値を示した.

腹部超音波検査:虫垂に憩室と思われる突出像を数か所認め,憩室より先端側で5層構造の不明瞭化を認めた.また,虫垂全体の腫大も認めた(Fig. 1).

Fig. 1 

Preoperative ultrasonography. a. Short axis view showed the diverticulum (Arrow) projected from the appendix (Arrow head). b. Long axis view showed the diverticula (Arrows).

以上の所見より,虫垂憩室炎の診断で手術を施行した.

手術所見:交差切開で開腹した.漿液性の腹水貯留があり,虫垂は全体に軽度の腫大を認めた.順行性虫垂切除術を行った.

切除標本:虫垂全体の炎症と数個の憩室を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

Resected specimen. Arrows indicated the diverticula.

術後経過:経過は良好で,手術翌日より食事を開始した.術後2日目と5日目に透析を行い,5日目の透析終了後に退院となった.

病理組織学的検査所見:虫垂の粘膜層に著明な炎症所見はなく,一部の憩室に遷延化した炎症所見を認め,虫垂憩室炎と診断された(Fig. 3).

Fig. 3 

Histochemical findings H.E. stain 1.25×10. Interrupted muscular layer (Arrows) and pseudodiverticulum (Arrow heads) reached the subseroral layer. Inflammatory cells infiltrated from the proper mucosal layer to the submucosal layer at the bottom of the diverticulum. Some bleeding was seen in small parts.

考察

これまで虫垂憩室炎は比較的まれな疾患とされてきたが,2004年の浅野ら1)の検索では本邦での報告は274例とあり,さらにその後も報告数は増加している.しかし,その一方で急性虫垂炎との鑑別は,診断機器の発達にもかかわらず依然として困難とされており,術前に診断が可能であったという報告はそれほど増加してはいない.その理由として,虫垂憩室炎という疾患の認識が,いまだ十分には普及していないためではないかと考える.医中誌Webにて,1983年から2011年9月までの間に“虫垂憩室”と“術前診断”をキーワードに検索した結果(会議録は除く)のうち,実際に術前診断しえたものは13例のみであった2)~11)Table 1).2000年以前に報告された3例は,慢性虫垂炎や大腸憩室炎などの診断で注腸検査を行った際に偶発的に発見されたものであった2)~4).虫垂のみならず,盲腸や上行結腸にも多発する憩室を認め,予防的に回盲部切除や結腸右半切除が行われている.その後の10例では1例を除き全て手術直前の有症状の時期に,CTまたは超音波,あるいはその両者によって診断されていた5)~11).手術も,ほとんどが虫垂切除のみにとどめられている.その中でも本症例と同様に,手術直前に超音波検査でのみ診断しえたのは4例であった5)7)8).小澤ら5)12)は超音波検査単独で術前診断しえた2症例の報告をしているが,それ以前に虫垂憩室23例をまとめている.疾患に関して十分に認識を持ったうえで詳細な検査を行ったことで,術前診断が可能になったと思われる.CTで術前診断した二村ら13)も同様に,それ以前に虫垂憩室に関する症例報告をしている.CTは検査自体は客観的なものであるが,読影に際して疾患に関する認識の差は診断に影響を与える.超音波検査に至っては,CT以上に検者の経験や知識が診断に大きく影響を与えることは言うまでもない.診断機器は日々進歩しており,虫垂憩室炎を念頭に置いて検査を行えば,術前診断の確率をさらに高めることは可能と考える.報告数は増加していて認識は広がりつつあるが,その点ではまだ十分に臨床に生かされているとはいいがたいと思われた.

Table 1  Reported cases of appendiceal diverticulitis diagnosed by preoperative examination in Japan
Case Author
Year
Age Sex Occasion of Examination Examination and Result Performed operation
1 Watanabe2)
1988
48 M Chronic appendicitis
(Lower right abdominal pain)
BE: Multiple diverticula of A colon, cecum and appendix Right hemicolectomy
2 Munemoto3)
1994
54 M Colon polyp BE: Multiple diverticula of A colon and appendix
CT: Multiple diverticula of A colon
Right hemicolectomy
3 Kenmotsu4)
1996
40 M Diverticulitis of A colon BE: Multiple diverticula of A colon, cecum and appendix
CT: Multiple diverticula of A colon
Ileocecal resection
4 Ozawa5)
2002
37 M Lower right abdominal pain US: Appendiceal diverticulitis Appendectomy
5 Ozawa5)
2002
14 M Lower right abdominal pain US: Appendiceal diverticulitis Appendectomy
6 Sendo6)
2007
56 M Lower right abdominal pain
and fever
US, CT: Appendiceal diverticulitis Appendectomy and drainage
7 Takehara7)
2008
34 M Lower right abdominal pain and diarrhea CT: Appendicitis
US: Appendiceal diverticulitis
Appendectomy
8 Okamoto8)
2009
43 M Lower right abdominal pain CT: Appendicitis
US: Appendiceal diverticulitis
Appendectomy and cecectomy
9 Okamoto8)
2009
76 F Lower right abdominal pain CT: Appendiceal diverticulitis
US: Appendicitis
Appendectomy
10 Okamoto8)
2009
28 M Not described US, CT: Appendiceal diverticulitis Not described
11 Tadeda9)
2009
58 M Lower right abdominal pain CT: Appendiceal diverticulitis Laparoscopic appendectomy and drainage
12 Nimura10)
2010
54 M Lower right abdominal pain CT: Appendiceal diverticulitis
US: Appendicitis
Appendectomy and drainage
13 Shimizu11)
2010
22 M Chronic appendicitis BE: Nonfilling of appendix
CT: Swelling of appendix
US: Diverticula of appendix
Laparoscopic appendectomy
Our case 59 M Lower right abdominal pain US: Appendiceal diverticulitis Appendectomy

また,治療そのものが結果的に急性虫垂炎と同じであることも,術前診断率が向上しない要因の一つであるかもしれない.軽症であれば虫垂切除のみ,穿孔をおこして重症化すればドレナージの追加や状況によっては回盲部切除など,手術に際してあえて虫垂炎との鑑別の必要性を感じる機会は少ない.しかし,虫垂憩室は仮性憩室がほとんどであり筋層を欠くこと,また盲端である虫垂の解剖学的構造の点などから,炎症をおこすと穿孔の頻度が高く重症化しやすいことは諸家の報告の通りである.通常の虫垂炎であるならば保存的に経過をみることが可能な症例も,虫垂憩室炎であれば穿孔の危険性を考慮して積極的に手術を考慮すべきであろう.憩室周囲に炎症が限局し,虫垂全体としては炎症所見が乏しい場合もあるので,経過観察は虫垂炎以上に注意を要する.

欧米では重症化しやすいという理由から,虫垂憩室は無症状でも発見された段階で切除すべきとする意見が多いようである14)15).一方, 本邦では発見された時点で切除すべきという意見と,症状を呈してから切除すべきという意見の両方があり,統一されていない.近年,低侵襲性な腹腔鏡手術の普及から,後藤ら16)は無症状の虫垂憩室炎に対して腹腔鏡下切除が有用であるとしている.実際の臨床において有症状の患者を前にしたときには,術前診断の確率を高めるべく,虫垂憩室炎という疾患の存在や特徴を十分に認識,理解したうえで検査を行うべきであり,また重症化する前に期を逃さず手術を行う必要があると考える.

虫垂憩室炎を念頭において術前検査を行うことが重要であると思われた.

利益相反:なし

文献
 

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