The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Multiple Inflammatory Myofibroblastic Tumors Derived from the Greater and Lesser Omentum with Obstruction of the Small Intestine
Yoshihisa TakedaSeiichi YasudaYasufumi TeramuraShuhei HashidaShin Akamatsu
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2012 Volume 45 Issue 7 Pages 809-815

Details
Abstract

症例は40歳の男性で,腹痛を主訴に来院した.腹部CTにて多発腫瘤による小腸イレウスと腹水を認め,絞扼性イレウスも否定できないため緊急手術を施行した.臍直下の大網辺縁に膿苔を伴い小腸を圧迫する径4.5 cm大の腫瘤を認め,腫瘤切除を行い,イレウスを解除した.また径5 cm大の腫瘤を小網にも認め,切除を行った.さらに,大網,小網,腸間膜表面に多数の白色小結節を認めた.摘出された腫瘤は,大網部が5.0×3.5 cm,小網部が5.0×4.6 cmで両者とも表面は多結節様の腫瘤であった.腫瘤の病理組織学的検査では,大網,小網原発のinflammatory myofibroblastic tumor(以下,IMTと略記)と診断され,多数の白色結節は炎症性腫瘤であった.本邦で大網,小網を原発とする多発性IMTは極めてまれであり,腸管外原発でイレウスにより発見された症例は検索した範囲内で自験例が初めてであった.

はじめに

Inflammatory myofibroblastic tumor(以下,IMTと略記)は,リンパ球などの炎症性細胞の浸潤と筋線維芽細胞の増殖を主体とした比較的まれな腫瘍性病変である1).今回,我々はイレウスにて発症し,大網および小網原発と考えられる多発性のIMTを経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:40歳,男性

主訴:腹痛

既往歴:特記すべきものなし.

家族歴:特記すべきものなし.

現病歴:2011年2月初旬より腹痛,下痢を認め,近医受診し,急性腸炎の診断にて投薬治療を受けた.一旦症状軽快するも,1週間後に腹痛が増悪してきたため当院救急外来を受診した.

入院時現症:意識清明,血圧107/53 mmHg,脈拍100回/分,体温37.1°C,顔面は苦悶状.眼球,眼瞼結膜に貧血,黄疸を認めず.心臓,肺に異常を認めず.腹部は全体に膨満し,下腹部に圧痛と筋性防御を認めた.

血液検査所見:WBC 11,600/μl,CRP 1.9 mg/dl と上昇し,Hb 12.9 g/dl,Ht 36.7%と軽度の貧血を認めた.肝,胆道系,膵酵素などその他に異常を認めなかった.

腹部造影CT所見:臍レベルの腹壁直下に径4.5 cm大の腫瘤と著明に拡張した小腸と腫瘤部での嘴状の小腸狭窄を認め,腸管外の腫瘤によるイレウスと考えられた.その周囲では腹水を認め,腸間膜の肥厚も伴っているため絞扼性イレウスの可能性が示唆された(Fig. 1a).さらに,小網内にも径5 cm大の腫瘤を認めた(Fig. 1b).

Fig. 1 

Abdominal CT showed an enhanced tumor 4.5 cm in diameter (large arrow) compressing the small intestine (arrow heads) under the abdominal wall. The small intestine was remarkably extended on the oral side of the compressed portion and ascites was seen around the small intestine (small arrows) (a). Another tumor, 5.0 cm in diameter (arrow), was found at the lesser curvature of the stomach (b).

以上より,癌による腹膜播種やgastrointesinal stromal tumor(以下,GISTと略記)などの多発腫瘤およびそれらの腫瘤による小腸イレウスと診断した.著明な腹痛があることとCT所見より絞扼性イレウスの可能性も否定できないことから,同日緊急手術を施行した.

手術所見:中~下腹部正中切開にて開腹した.腹腔内に少量の漿液性腹水を認めた.臍直下において大網の辺縁に径4.5 cm大の膿苔を伴った腫瘤を認め,その腫瘤に小腸が癒着して狭窄していた.その口側の腸管はトライツ靱帯まで拡張していたため,腫瘤がイレウスの責任病変と診断し,腫瘤を小腸より剥離,摘出してイレウスを解除した.さらに,腹腔内を観察すると,小網内に径5 cm大の腫瘤と大網,小網,腸管漿膜面,腸間膜表面に3~5 mm大の白色小結節を多数認めた.腹膜播種を疑い,離れた3か所の腸間膜から採取した小結節を術中迅速病理組織学的検査に提出したところ,いずれも腫瘍性成分は認めず,硝子化を伴う線維成分が主体で,一部に細血管の増生とリンパ球浸潤が見られ反応性病変と診断された.術中迅速病理組織学的検査での確定診断は困難と判断して,小網内の腫瘤を追加切除して手術を終了した.

切除標本所見:大網から切除された標本は5.0×3.5×3.5 cm大で辺縁に膿苔の付着が見られた.小網から切除された標本は5.0×4.6×3.8 cm大であった.いずれの腫瘤も多結節性のため,表面は粗造で不整な小隆起を認めた(Fig. 2).

Fig. 2 

The resected specimen from the greater omentum was a 5.0×3.5×3.5 cm tumor shown on the left of the figure and that from the lesser omentum was a 5.0×4.6×3.8 cm tumor shown on the right. Both tumors were multinodular, and pus was stained on the surface of the tumor from the greater omentum (arrows).

病理組織学的検査所見:大網,小網の腫瘤はいずれも多結節性の病変で結節の主体は,線維芽細胞様の紡錘形細胞の増生からなっていた.そしてそれらの結節間にはリンパ球,形質細胞,多核白血球の浸潤が見られた.また悪性を疑わせる細胞異形や核分裂像は認められなかった(Fig. 3a, b).以上よりIMTが最も疑われたため,確定診断のため免疫組織学的検索を施行した.

Fig. 3 

Histological findings showed spindle-shaped cells similar to fibroblasts in the resected tumors from the greater and lesser omentum. There were no atypical cells in either tumor. (a; Resected tumor from greater omentum. HE stain ×100. b; Resected tumor from the lesser omentum. HE stain ×100.)

免疫組織学的検査所見:大網,小網の腫瘤はどちらもα-smooth muscle actin(以下,α-SMAと略記),vimentinおよびcytokeratinには強度陽性であった(Fig. 4a~c).またdesminは一部陽性,anaplastic large cell lymphoma kinase(以下,ALKと略記),c-kit,S-100 protein,p53は陰性であった.以上より,摘出された大網と小網の腫瘤は,IMTと確定診断された.

Fig. 4 

Immunohistochemical staining of the resected tumor from the greater omentum. Tumor cells were remarkably positive for α-smooth muscle actin, vimentin and cytokeratin. (a; α-smooth muscle actin. ×100. b; vimentin. ×100. c; cytokeratin. ×100.)

一方,術中切除した腸間膜表面の白色小結節は永久標本の病理組織学的検査でも腫瘍性細胞は認めず,主体がリンパ球などの炎症細胞浸潤と硝子化を伴う線維成分で炎症反応性病変と診断された(Fig. 5).

Fig. 5 

Histological findings showed no tumorous cells in the small nodules resected from the mesenterium. Fibrous hyaline degeneration and infiltration of lymphocytes were found in most of the nodule. (Resected small nodule from the mesenterium. HE stain. ×100.)

術後経過:術後,麻痺性イレウスとなるも保存的に軽快し,術後7日目より食事開始し,術後14日目に退院となった.現在外来にて厳重に経過観察中である.

考察

IMTは1990年にPettinatoら1)が肺の炎症による反応性腫瘤と考えられていた病変を筋線維芽細胞主体の腫瘍であることを発見して報告したものである.肺以外でも腹腔内を含めほとんどの臓器に発生するとされている2)

自験例の病理組織学的診断では,大網,小網いずれの腫瘍も,線維芽細胞様の紡錘形細胞の増生を主体とする組織像を示して筋原性マーカーであるα-SMAは強度陽性であり,vimentin,cytokeratinにも強度陽性であることからIMTと確定診断された.

医学中央雑誌で「IMT」と「腹腔」,「IMT」と「腹部」をキーワードとして1983年1月より2011年9月まで検索した範囲内では会議録を除き腹腔内発生のIMTは28例の報告が見られた.それらに自験例を加えた29例について検討を行ったところ,男性19例,女性10例と男性に多い傾向があり,年齢は男性8か月~78歳(平均35.9歳),女性9か月~89歳(平均39.3歳)で男女とも小児から老人まで広範囲に見られた.全ての症例で病理組織学的診断が行われており,組織像として全例において紡錘形細胞の増殖や線維性組織の増生に炎症細胞浸潤を伴っていた.免疫組織学的検査に関しては2例を除く27例に記載されており,α-SMA 27例中25例,vimentin 21例中20例,desmin 16例中7例,cytokeratin 11例中4例,ALK 14例中5例が陽性であった.このことから組織像とともに免疫組織的検査が確定診断に重要な役割を果たしていると考えられた.また,主な初発症状としては腹痛が12例,発熱が6例,腹部腫瘤が5例,嘔吐が1例,血便が1例,症状を認めず偶然発見されたものが4例であった.

これまでの報告例のうちその多くは単発例であり,多発例は3例のみで3)~5),腹腔内原発の多発性IMTはまれなものと考えられた.さらに,大網または小網原発のIMTは3例報告されているが5)~7),大網,小網の両者から発生したIMTの報告はなく,自験例は極めてまれな症例と考えられた.

自験例が転移による多発腫瘤である可能性については,病理組織学的に大網,小網いずれの腫瘍とも細胞異形は認めず,核分裂像も認めないことから否定され,多発性病変と診断された.また,大網,小網,腸管漿膜面,腸間膜表面に認められた多数の白色小結節に関しても細胞成分が極めて少なく,それらに細胞異型や核分裂像も見られず,硝子化を伴う線維成分の増生とリンパ球浸潤が主体であることから播種性転移は否定的であり,これらについても炎症による多発性病変と診断された.

自験例の予後については,IMTの増殖活性の指標で予後予測因子になりうると考えられているALK蛋白の発現8)~10)は陰性であり,将来的に転移の可能性は低いと推察される.しかしながらIMTの生物的悪性度についてはWHOの軟部組織腫瘍の分類では,良性と悪性の中間群に分類され,良悪性境界病変と位置づけされており11),本邦でも経過中に悪性転化をした報告例3)もある.したがって,多発性腫瘍である自験例においては,現在外来にて厳重な経過観察を行っているところである.

また今回イレウスにて発症しているが,医学中央雑誌で「IMT」と「イレウス」,「IMT」と「腸閉塞」をキーワードとして1983年1月より2011年9月まで検索した範囲内では会議録を除き2例の報告が見られた12)13).いずれも回腸原発の腫瘍による腸重積がイレウスの原因であり,腸管外発生の腫瘍によってイレウスを来した報告は本邦では自験例が初めてであった.したがって,今後,腸管外の腫瘤によって発症したイレウスの原因として,IMTも鑑別疾患の一つとして考慮する必要があると考えられた.

IMTの成因についてはEbstein-Barr virusなどの感染や,手術既往,放射線治療歴,悪性腫瘍などの炎症反応が原因であると推定されてきた1)2).しかし,近年IMTにおいて約半数に2p23染色体領域の異常が認められ14),複数のキメラ遺伝子(TPM3-ALK,TPM4-ALK,CARS-ALK,ALK-ATIC,RANBP2-ALK,CLTC-ALK)の存在が確認され9),さらに,IMTの約半数にALK蛋白の異常発現が認められるとの報告8)15)により,IMTは腫瘍性病変であると考えられるようになってきている.

鑑別すべき疾患としてはGIST,follicular dendric cell sarcoma(以下,FDCと略記),interdigitating dendric cell sarcoma(以下,IDCと略記),malignant fibrohistiocytoma(以下,MFHと略記),inflammatory fibrosarcoma(以下,IFと略記),embryonal rhabdomyosarcomaなどが挙げられる16)~19).GISTとはIMTの炎症細胞浸潤が高度かつ均一でc-kit染色が陰性になることから,FDCとはCD21染色が陰性になることから,IDCとはS-100 protein染色が陰性になることから鑑別される16).またMFHとは,IMTでは多型性やstriform patternがないこと,IFとは細胞密度が低く,核分裂像や異型性に乏しく,神経節細胞様細胞が見られないことから鑑別される17)18).さらに,組織学的に酷似しているembryonal rhabdomyosarcomaについては,IMTのα-SMA染色やcytokeratin染色が陽性となり,myoglobin染色が陰性になることから鑑別される19)

IMTの治療としては,外科的手術が原則とされ,本邦においては完全切除例で経過良好であったとされている20).しかし,一方で切除が不完全となると局所再発の危険も高くなるとされている2)21).手術以外の治療法としては,化学療法,放射線療法,ステロイド剤などの報告があり3)19),また最近ではALK遺伝子の再構成が認められるIMT患者にALK蛋白阻害剤であるcrizotinibの投与が有効であったとする興味深い報告もあるが22),確立した治療法はないのが現状である.したがって,自験例でも小結節の残存があるため,定期的に画像診断を行い,画像上で再発腫瘤を認めれば速やかに腫瘤切除を行う方針である.今後,症例を積み重ねてcrizotinib投与なども含めた集学的な治療法の確立が期待される.

稿を終えるにあたり,本症例の病理および免疫組織診断において,ご指導を頂きました彦根市立病院病理部山田英二先生に深謝いたします.

利益相反:なし

文献
 

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