2012 Volume 45 Issue 9 Pages 936-943
早期胃癌術後5年目にリンパ節再発を来した症例を経験した.症例は55歳の女性で,50歳時に腫瘍径1 cmの分化型粘膜内癌に対し幽門側胃切除術を施行した.術後5年目の検査として撮影したCTでリンパ節腫大が指摘された.胃癌のリンパ節再発と考えられたが,他のリンパ節転移・遠隔転移はみられなかったため摘出術を施行した.開腹所見では,総肝動脈上から肝門部にかけて径3 cm大の表面平滑なリンパ節腫大を認めた.周囲への浸潤傾向はなく容易に摘出可能であった.他のリンパ節腫大は認めなかった.病理組織学的検査所見では低分化型腺癌であり,胃癌のリンパ節転移と診断した.一般に再発のリスクはほとんどないと考えられる分化型粘膜内癌に再発を来したまれな症例と考えられる.
胃粘膜内癌はリンパ節転移の頻度が低いとされ,内視鏡的切除や縮小手術が適応となる.特に腫瘍径2 cm以下の分化型粘膜内癌ではリンパ節転移が非常にまれであり,内視鏡的切除の適応とされている1).
今回,我々は腫瘍径1 cmの分化型粘膜内癌の手術後にリンパ節再発を来した症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
患者:55歳,女性
主訴:自覚症状なし.
既往歴: 特記事項なし.
現病歴:2005年3月胃癌に対し開腹による幽門側胃切除術(D1+α)とBillroth I法再建を行った.2010年3月胃癌術後5年目の検査として撮影したCTでリンパ節腫大を認め,4月に当院入院となった.
現症:身長156 cm,体重41 kg.上腹部正中に手術痕を認めた.腹壁上から明らかな腫瘤を触知しなかった.
臨床検査所見:血液・生化学検査所見では特に異常を認めなかった.腫瘍マーカーは血清CEA 1.5 ng/ml(基準値5.0以下),CA19-9 23.2 U/ml(基準値50以下)といずれも上昇を認めなかった.
腹部CT所見:門脈,肝左葉外側区,膵体部に接する径4×3 cmの充実性腫瘤を認めた(Fig. 1).周囲との境界は明瞭で腫瘤辺縁に淡い造影効果を認めた.他のリンパ節腫脹は認めなかった.

Enhanced abdominal CT shows a well-circumscribed solid tumor 4×3 cm in diameter located in the portal vein, lateral segment of the liver and pancreas body (arrow). Ambiguous enhancement was present in the periphery of the tumor. There was no other enlarged lymph node.
FDG-PET所見:CTで指摘された腫瘤にFDGの集積を認めた(Fig. 2).遅延相でより強い集積を認め,悪性腫瘍や転移リンパ節を疑う所見であった.他の部位に異常集積を認めなかった.

PET study revealed FDG accumulation corresponding to the mass of the CT scan (arrow). FDG uptake was increased in the delayed phase. There was no other abnormal accumulation.
以上の所見から,胃癌のリンパ節再発と考え,同年4月に摘出術を行った.
手術所見:前回手術痕に沿って上腹部正中切開で開腹した.腹膜播種・腹水・肝転移は認めなかった.肝下面と残胃剥離を行い,総肝動脈上から肝門部にかけての径3 cm大,弾性硬の表面平滑なリンパ節腫大を認めた(Fig. 3).周囲組織への浸潤傾向はなく容易に摘出することができた.他のリンパ節腫大は認めなかった.

Intraoperative diagram: The elastic hard enlarged lymph node was located on the anterosuperior side of the common hepatic artery and was 3 cm in diameter. There was no surrounding invasion.
病理組織学的検査所見:摘出した腫瘤は径3 cm程で被膜を有し,割面は黄褐色の充実性腫瘍であった(Fig. 4).ルーペ像の弱拡大ではリンパ濾胞を認め,髄質に腫瘍細胞を認めた.強拡大ではシート状に配列した低分化型腺癌で一部中分化型腺癌を認めた(Fig. 5).CEAによる免疫組織染色検査は陽性であった.

The cut surface of the resected specimen showed a 3.2×2.4-cm solid yellow tumor.

Histological findings with hematoxylin-eosin staining. a: Histological findings show lymphoid follicles and tumor cells in the medullae (×12.5). b: High-power view of the tumor (×100). Histological findings of the tumor show poorly differentiated adenocarcinoma.
初回手術時所見:初回手術時の上部消化管内視鏡検査では,前庭部前壁に集中皺壁を伴う,UL(+)のIIc病変を認めた.T1a(UL(+))N0M0と術前診断し手術を施行した.摘出標本の病理組織学的検査所見はL,Less,Type 0-IIc,10×7 mm,tub2,pT1a,UL(+),ly0,v0,pN0[No. 1(0/3),No. 3(0/1),No. 4d(0/7),No. 5(0/0),No. 6(0/5),No. 7(0/1),No. 8a(0/2)]であった(Fig. 6, 7).

Macroscopic findings of the resected specimen on initial surgery showed a 10×7-mm Type 0-IIc lesion (circle).

Histopathological examination of the gastric tumor showed moderately differentiated adenocarcinoma invading the mucosal layer (a: ×12.5, b: ×100).
前回手術の摘出標本について再検討を行った.標本は3 mm幅で全割されていた.腫瘍径は10×7 mm.一部粘膜筋板に浸潤する深達度Mの中分化型腺癌であった.脈管侵襲およびリンパ節転移は認めずType0-IIc,10×7 mm,tub2,pT1a(UL(+)),pN0(0/19)と診断した.初回手術時標本と今回の摘出標本で免疫組織染色検査を行い両者の同一性を確認した.Cytokeratin(以下,CKと略記)の染色では両者ともCK7(+),CK20(+)であった.粘液形質の分析とCD10の染色の結果は,初回標本がMUC2(–),MUC5AC(+),MUC6(+),CD10(+)で,今回標本がMUC2(–),MUC5AC(–),MUC6(–),CD10(+)となった.この結果から摘出病変は胃癌のリンパ節再発であり,原発巣が小腸・大腸型と胃型の混在型胃癌であり,再発巣が小腸型胃癌であると考えられた.さらに,リンパ管内皮細胞の特異的マーカーであるD2-40で摘出標本を染色したが,明らかなリンパ管侵襲を認めなかった.また,初回手術時に摘出したリンパ節を再度検索し上皮性マーカーであるAE1/AE3による染色を追加したが,微小リンパ節転移も認めなかった.
術後経過:術後経過は順調で術後10日目に退院した.退院後はS-1(80 mg/body/day・4週投与2週休薬)を1年間投与して経過観察を行った.術後1年経過した現在,無再発生存中である.
早期胃癌の外科手術例の他病死を除いた5年生存率はpT1a(M)で99.3%,pT1b(SM)で96.7%と報告されており予後は非常に良好である1).しかし,術後再発率は0.25~4.18%と報告2)3)され早期胃癌でも再発する可能性がある.深達度別でみるとSM癌で1.6~3.6%,M癌で0~0.6%である.早期胃癌再発例の多くはSM癌であり,M癌は非常に少ない.また,初回手術時にリンパ節転移が陽性であった場合は3.4~10.7%の再発率であるが,陰性であれば0.7~1.1%である.再発様式は,術後5年以内の早期であれば肝再発が40%程度と多く,次いでリンパ節再発が10%とされている.一方,5年以降の晩期再発になると残胃再発が多くなりリンパ節再発の頻度は低下する.
CKは上皮細胞の細胞骨格をなす中間径フィラメントの一つであり分子量により約20種類に分類される.このうちCK7/20は正常組織における染色性が癌化後も保たれ,さらに,転移先でも保たれる.両者の染色性を確認し,病歴・臨床症状と併せて判断することで腺癌の原発巣を推測することができるとされている4).摘出した腫瘤はCEA染色陽性の腺癌であり,CK7/20がいずれも陽性で初回手術時摘出標本の染色性と一致する.全身検索で他に原発巣となりうる病変を認めないことと併せて,摘出腫瘤は胃癌のリンパ節再発であると推測することができる.胃癌には腸上皮化生を基盤として発生する腸型腺癌と胃固有の粘膜上皮を基盤とする胃型腺癌が存在するが,この鑑別は消化管上皮細胞が産生・分泌する粘液の主成分であるムチンとよばれる高分子蛋白と小腸刷子縁に反応するCD10で分類することができる5).ムチン(MUC)はコア蛋白の種類によって約20種類に分類されている.MUC5ACとMUC6は胃型の粘液形質マーカーであり,MUC2は腸型の粘液形質マーカーとして扱われている5).57例の分化型早期胃癌の原発巣とリンパ節転移巣の粘液形質マーカーを検討したNakamuraらの報告5)では,原発巣から転移する際にマーカーが陰性化した症例が29例(51%)認められたとされている.転移する際に分化度の低下が認められた10例では,10例全てでマーカーの陰性化が認められ,転移における粘液形質マーカー陰性化と分化度の低下との関連性も示唆されている.本症例において原発巣と転移巣では胃型の粘液形質マーカーに相違があり,転移巣で分化度の低下がみられるが,この変化は胃癌のリンパ節転移として矛盾しない.
形態学的には,原発巣は一部粘膜筋板に浸潤しており,D2-40染色では弱くしか染まっていないが一部Ly1をうかがわせる所見も認めた.また,原発巣・リンパ節病変のいずれもPAS陽性中性粘液およびアルシアン青陽性シアロムチン陽性の粘液球を散見する中分化型管状腺癌であり,リンパ節病変が胃癌の転移としても矛盾はないと考えた.
PubMed,医学中央雑誌および関連文献において,1950年から2010年までの期間(医学中央雑誌の検索期間は1983年から2010年まで)で「胃粘膜内癌」,「早期胃癌」,「M癌」,「リンパ節再発」,「intramucosal gastric carcinoma」,「early gastric cancer」,「lymph node recurrence」をキーワードとして検索しえた,詳細の記載されている胃粘膜内癌術後再発例の報告3)6)~8)は8例(Table 1)であり,そのうちリンパ行性の再発を来したのは3例のみであった.自験例を含め3例はいずれも分化型腺癌であったが,再発までの期間や腫瘍の局在,リンパ節転移の有無,組織型に一定の傾向はなかった.8例のうち5例で腫瘍径が記載されており全例2 cmを超えていた.自験例は1 cmと小さかった.早期胃癌1,013例の術後再発危険因子を検討した望月ら9)の報告では腫瘍径1 cm未満の早期胃癌では0.8%が再発したのに対して5 cmを超えたものでは10.8%が再発し,腫瘍径の大きいものほど再発率が高かったとしている.
| Author Year |
Total patients (recurrence rate: %) | Age (yr) Sex | Nodal status | Location | Macroscopic type | Size (mm) | Histopathologic findings | Recurrence mode | Time interval (mo) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Sone6) 1990 |
253 (1.2) | 52 M | + | M | IIc+III | 60 | sig | Liver/Bone meta. | 47 |
| 63 M | + | L | IIa | 25 | tub 1 | Lymph node meta. | 32 | ||
| 53 M | – | L | IIc | 26 | tub 1 | Lung/Bone meta. | 22 | ||
| Kitamura7) 1991 |
304 (0.32) | 57 F | + | M | III | 55 | sig | Peritoneal dissemination | 38 |
| Sano3) 1993 |
827 (0.36) | 78 M | – | ** | IIb+IIc | ** | tub 2 | Peritoneal dissemination | 66 |
| 59 M | – | ** | IIc | ** | tub1 | Hematogeneous meta. Lymphatic meta. | 67 | ||
| 74 M | – | ** | IIc | ** | tub1 | Hematogeneous meta. | 15 | ||
| Suzuki8) 1994 |
case report | 61 M | – | M | IIc+III | 40 | tub 1 | Lymph node meta. | 120 |
| Our case | case report | 55 F | – | L | IIc | 10 | tub 2 | Lymph node meta. | 60 |
tub: tubular adenocarcinoma, sig: signet-ring cell carcinoma, meta.: metastasis, **: not described
外科的切除後の小胃症状によるQOL低下を避けるため,早期胃癌に対して内視鏡的切除の適応拡大が検討されているが,その根治性は局所の完全切除とリンパ節転移陰性という2つの要素によって決定される.腫瘍径はリンパ節転移の危険予測因子ともされているため,内視鏡的切除の適応決定において重要となる.胃癌治療ガイドライン第2版では,腫瘍径2 cm以下の肉眼的粘膜内癌ではリンパ節転移率が非常に低くEMRの適応とされていた.さらに,Gotodaら10)は国立がんセンター中央病院と癌研究会付属病院で外科切除された早期胃癌のリンパ節転移に関する臨床病理学的研究データから,腫瘍径3 cm未満の分化型粘膜内癌であれば潰瘍の有無にかかわらずリンパ節転移を伴わないと報告している.このデータに基づき,2010年10月改定の胃癌治療ガイドライン第3版では,①分化型,pT1a,UL(–),2 cm以上,②分化型,pT1a,UL(+),3 cm以下,③2 cm以下のpT1a,UL(–)の未分化型腺癌(いずれも脈管侵襲陰性)が臨床研究においてESDの適応拡大病変とされた.本症例は,陥没型・UL(+)であったため胃癌治療ガイドライン第2版に基づいて縮小手術の適応となった.今後はこのような症例でも内視鏡的切除の対象となる可能性がある.
治癒切除された早期胃癌2,354例を経過観察した梨本ら11)の報告では,再発時期は術後2年以内で50%,3年以内で88.9%と術後3年以内に集中している.術後5年以降の再発率は0.08%と非常に少ない.SM癌・リンパ節転移陽性・大きい腫瘍径であること以外に望月ら9)は脈管侵襲陽性・未分化型・多発癌が再発の危険因子であるとしているが,いずれの危険因子も持たない本症例のような粘膜内癌が術後5年の後にリンパ節再発を来したのは非常にまれである.
また,術後フォローアップの期間は,コンセンサスが得られておらず非常に難しい問題である.本症例では術後半年まで1か月毎に,その後は3か月毎に外来診察を行い,術後1年毎にCT・エコー・内視鏡検査を行った.胃癌治療ガイドライン第2版では,“再発リスクに応じて計画的にフォローアップし,内視鏡,US,CTなどの検査を適宜行う.術後5年以降は,毎年基本健診を受けるように勧める”とのみ記載されていた.しかし,第3版では術後のフォローアップについての記載はない.術後23年目の早期胃癌術後リンパ節再発の症例報告12)やEMR絶対適応症例であってもリンパ節転移が皆無というわけではないこと13),自験例のような症例が存在することを考慮すると,画一的に術後フォローアップの期間を決めるのは困難である.
稿を終えるにあたり,病理組織学的検査結果の再検討においてご指導ご協力いただきました神戸大学大学院医学研究科病理学講座・病理学分野教授 横崎宏先生に深謝の意を表します.
利益相反:なし