日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
von Recklinghausen病にソマトスタチン産生十二指腸神経内分泌腫瘍と空腸gastrointestinal stromal tumorを合併した1例
村田 哲洋天野 良亮木村 健二郎山添 定明大平 豪西尾 康平平川 弘聖
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2016 年 49 巻 2 号 p. 152-160

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Abstract

von Recklinghausen病(以下,VRDと略記)はさまざまな消化管の腫瘍性病変を合併することが知られている.我々は,VRDにソマトスタチン産生十二指腸神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor;以下,NETと略記)と空腸gastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記)が合併したまれな1例を経験したので報告する.症例は63歳の女性で,検診の上部消化管内視鏡検査にて十二指腸乳頭部の口側近傍にびらんを一部に伴った隆起性病変を指摘された.腹部CTでは造影効果を受ける2 cm大の腫瘍であった.生検の結果は十二指腸NETであり,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を行った.術中,空腸に1.5 cm大の腫瘍を認め,同時に小腸部分切除術を施行した.術後病理組織学的検査にて十二指腸腫瘍はソマトスタチン染色陽性のNET,小腸腫瘍はGISTと診断された.

はじめに

von Recklinghausen病(以下,VRDと略記)は全身に多発する神経線維腫や皮膚色素斑(café-au-lait spot)を特徴とする疾患であるが,しばしば消化管の腫瘍性病変を合併することも知られている1).今回,我々はソマトスタチン産生十二指腸神経内分泌腫瘍と空腸gastrointestinal stromal tumor(以下,GISTと略記)を合併したVRDの1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

症例

症例:63歳,女性

主訴:なし.

既往歴:幼少時にVRDと診断.61歳時,胆石症で手術.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2012年9月,検診の上部内視鏡検査で十二指腸乳頭部口側に球形の隆起性病変を認めた.生検の結果で十二指腸神経内分泌腫瘍と診断され,精査加療目的に当院紹介となった.

入院時現症:身長155.2 cm,体重54.5 kg,血圧122/72 mmHg,脈拍74回/分,整.全身の皮膚に多発する弾性軟の結節と褐色斑を認めた.

入院時検査所見:血算および生化学検査,腫瘍マーカー値に異常所見を認めなかった.

上部消化管内視鏡検査所見:十二指腸乳頭部の口側近傍に,びらんを一部に伴った約2 cm大の隆起性病変を認めた(Fig. 1).生検の結果,十二指腸神経内分泌腫瘍と診断された.

Fig. 1 

Gastroduodenoscopy shows a submucosal tumor with erosion in the descending part of the duodenum.

腹部造影CT所見:十二指腸乳頭部の口側に約2 cm大の造影効果を受ける腫瘍を認めた(Fig. 2, arrowhead).肝転移,リンパ節転移を疑う所見は認めなかった.

以上より,VRDに合併した十二指腸神経内分泌腫瘍と診断し,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.

Fig. 2 

Abdominal enhanced CT shows a heterogenously enhanced mass at the oral side of the papilla of Vater in the descending part of the duodenum.

手術所見:術中にTreitz靱帯より約60 cmの空腸に約1.5 cm大の小腸腫瘍を認めたため,同時に小腸部分切除術を施行した.再建はChild変法で行った.手術時間は6時間2分,出血量340 mlであった.

摘出標本所見:十二指腸腫瘍は乳頭部の口側に位置し,大きさは18×15 mm大,割面は充実性で淡黄色を呈していた(Fig. 3a, b, arrowhead).小腸腫瘍は13×11 mm大の粘膜下腫瘍であった.

Fig. 3 

a) Macroscopic findings of the resected specimen show a submucosal tumor located at the oral side of the papilla of Vater. b) The cut surface shows a white, 18×15 mm tumor.

病理組織学的検査所見:十二指腸腫瘍は粘膜下に位置しており,腫瘍細胞が管状,篩状構造を形成して浸潤性に増殖し固有筋層まで浸潤していたが,膵頭部への浸潤は認められなかった(Fig. 4a).また,腫瘍内には砂粒小体が観察された(Fig. 4b, arrow).免疫組織染色ではsynaptophysin,chromogranin A,somatostatin陽性,insulin,glucagon陰性でソマトスタチン産生神経内分泌腫瘍と診断された.核分裂像は2~3個/10 HPF,Ki67指数は1%で,WHO分類におけるgrade 2のneuroendocrine tumor(以下,NETと略記)であった.リンパ管浸潤,静脈浸潤を認めず,所属リンパ節にも転移は認めなかった.小腸腫瘍は,束状となって増殖する好酸性の細胞質を持った紡錘形細胞が粘膜下に観察された(Fig. 5a, b).免疫組織染色ではc-kit陽性,desmin陰性であり,GISTと診断された(Fig. 5c).核分裂像はほとんどなく(1/50 HPF),MIB-1(Ki-67)indexは5%未満であり,Fletcher分類2)では超低リスクと分類された.

Fig. 4 

a) Microscopic findings of the duodenal tumor show that tumor cells with rounded nuclei grow in a glandular and trabecular pattern. No tumor invasion could be observed in the pancreas (HE stain ×40). b) Psammoma bodies are observed (arrow) (HE stain ×400). c) Immunohistochemical findings show a positive stain for chromogranin A (×200). d) Immunohistochemical findings show a positive stain for somatostatin (×200).

Fig. 5 

a) Loupe of the resected specimen shows a submucosal 15-mm tumor in the jejunum. b) Microscopic findings show fascicular proliferation of spindle-shaped cells (HE stain ×200). c) Immunohistochemical findings show a positive stain for c-kit (×200).

術後経過:合併症なく経過し,術後25日目に退院した.現在術後2年を経過しているが,再発の兆候は認めていない.

考察

VRDは神経線維腫症1型ともいわれ,出生約3,000人に1人の頻度で生じる常染色体優性遺伝疾患であるが,患者の約半数は突然変異で生じた弧発例とされている.全身に多発する皮膚色素斑(café-au-lait spot)や神経線維腫を特徴とするほか眼,骨,中枢神経,内分泌系などにも多彩な随伴病変を生じる1).また,神経原性腫瘍だけでなく非神経原生腫瘍も合併し,約25%に種々の悪性腫瘍が合併することが知られている3)4)

VRDの原因遺伝子は第17番染色体長腕(17q11.2)に存在する.その遺伝子産物であるneurofibrominはRas蛋白の機能を抑制し,癌抑制作用を有すると考えられているが,VRDでは遺伝子変異によりneurofibrominの産生が低下し,Ras蛋白を不活化できず,腫瘍発生の原因となることが推察されている5).Fullerら6)はVRDにおける消化器合併病変の特徴として,①腸管神経叢の過形成と消化管神経節腫症,②GIST,③十二指腸乳頭部領域に発生する砂粒小体を有するソマトスタチン陽性の神経内分泌腫瘍,を指摘した.

膵臓・消化管に生じる神経内分泌腫瘍は2010年のWHO分類にてneuroendocrine neoplasms(NEN)と総称され,高分化型のNETと低分化型のneuroendocrine carcinoma(NEC)に大別された.NETは核分裂数とKi67指数を用いたGradingによりG1とG2に分類されており,従来の消化管カルチノイドに相当する.また,腫瘍細胞が産生するホルモンの症状の有無により,機能性(症候性)腫瘍と非機能性(非症候性)腫瘍に分類されているが,ホルモン名に-omaを付けて命名するのは機能性腫瘍にのみ限るものであるとされ,免疫染色検査でホルモンが陽性であっても非機能性の場合は-omaと命名すべきではないとしている7).自験例は胆石症の既往があったものの,その他のソマトスタチノーマ症候群とされる糖尿病,脂肪性下痢,無酸症,体重減少,貧血,消化不良などの症状は認められず,非症候性と判断した.

神経内分泌腫瘍G1に相当する十二指腸カルチノイドは球部に最も多いことが知られているが,VRDに合併する神経内分泌腫瘍はそのほとんどが十二指腸乳頭部近傍に発生するという特徴をもっている.Kleinら8)は,VRDに合併した十二指腸カルチノイド15例の中で12例(80%)が乳頭部に発生していたことを報告した.乳頭部領域が好発部位となる原因として,上皮細胞,神経節細胞,Schwann細胞などへの分化能を有したendodermal-neuroectodermal complexが乳頭部周囲に集まっていることが指摘されている8)が,一定の見解は得られていない.また,VRD合併例と非合併例の十二指腸カルチノイドを比較した検討では,VRD合併例の十二指腸カルチノイドにおいてはほとんどがソマトスタチン単独のホルモン陽性細胞を認めたが,VRD非合併例ではソマトスタチンだけでなくカルトシトニン,ガストリン,セロトニンなど複数のホルモン陽性細胞を認める傾向にあったことが報告されている9).本症例も,ソマトスタチンのみに陽性を示していた.

VRDに合併する消化管病変として十二指腸神経内分泌腫瘍,十二指腸ソマトスタチノーマ,十二指腸カルチノイドは報告されてきたが,これらは同一の病態であると考えられる.今回,我々が医学中央雑誌で「von Recklinghausen」,「神経線維腫症」,「十二指腸」,「ソマトスタチノーマ」,「カルチノイド」,「神経内分泌腫瘍」をキーワードとして検索したところ,1977年から2014年で本邦におけるVRDに合併した十二指腸神経内分泌腫瘍の報告は自験例を含め31例であった(Table 110)~38).年齢は20歳から75歳(平均53歳)で,男性が14例,女性が17例であった.多発症例は4例(12.9%)あり,いずれも同様の組織所見を有する腫瘍を二つずつ認めていた.多発症例4例を含めた腫瘍の発生部位は,乳頭部15例(42.9%),副乳頭4例(11.4%),乳頭部周囲14例(40%)(乳頭部との位置関係の記載があった10例中9例が乳頭部口側),十二指腸水平脚1例(2.9%),十二指腸上行脚1例(2.9%)であり,前述のようにVRDに合併する十二指腸NETのほとんどが乳頭部領域に認められた.また,本邦報告例の中でソマトスタチン染色が行われた症例は20例あり,18例(90%)がソマトスタチン染色に陽性反応を持っていた.しかし,ソマトスタチノーマと報告された症例に限っても,典型的なソマトスタチノーマ症候群を呈した症例は1例も認められなかった.ホルモン産生に伴うソマトスタチノーマ症候群の発生頻度は,十二指腸ソマトスタチノーマでは2.5%,膵ソマトスタチノーマでは18.5%と,十二指腸において低いことが報告されている39).これは,十二指腸神経内分泌腫瘍の多くがソマトスタチノーマ症候群を起こすだけの腫瘍径まで増大する以前に診断されることが多いとする理由や,腫瘍の分泌能の違いによることなどが推測されている9)

Table 1  Reported cases of duodenal neuroendocrine tumor associated with von Recklinghausen’s disease
No. Author
(Year)
Age/Gender Location Diagnosis Tumor size (cm) Therapy Somatostatin staining Lymph node metastasis Comorbidity of GIST
1 Hibi10)
(1985)
51/M papilla somatostatinoma 2×1.8×1.5 PD Positive Positive none
2 Eriguchi11)
(1988)
51/M papilla carcinoid 3×3.5×2 Local resection Negative ND none
3 Ohtsuki12)
(1989)
64/F periampullary carcinoid (somatostatinoma) 1.0 Local resection Positive ND none
4 Tagami13)
(1990)
48/F proximal to the papilla carcinoid 2.3×1.6×1.0 PD Positive none
5 Yoshida14)
(1991)
50/M proximal to the papilla carcinoid (somatostatinoma) 1.0×1.0×0.8 Found at autopsy Positive Positive none
6 Tanaka15)
(1993)
33/F papilla carcinoid 4.5×2.5×2.5 PPPD Positive Positive none
7 Kainuma16)
(1996)
44/F papilla somatostatinoma 3.5×2.0 PPPD Positive Positive none
8 Sumitomo17)
(2000)
71/F accessory papilla carcinoid 1.3×0.9×0.7 PPPD Positive none
9 Takeuchi18)
(2001)
53/M distal to the papilla carcinoid 1.0 ND Negative ND none
10 Kitamura19)
(2001)
53/F proximal to the papilla carcinoid (gastrinoma) 0.4 PD Positive Positive none
11 Yamaguchi20)
(2001)
44/F papilla, accessory papilla carcinoid 2, 2 PD Negative none
12 Usui21)
(2002)
64/F papilla somatostatinoma 1.5×0.8 Local resection Positive ND stomach, duodenum, jejunum
13 Suzuki22)
(2004)
62/M periampullary somatostatinoma 5 Bypass Positive Liver metastasis stomach, jejunum
14 Fendrich23)
(2004)
57/F papilla somatostatinoma 2 PPPD Positive Positive none
15 Moriyama24)
(2005)
52/M periampullary carcinoid 2.5×2.5×2.3 PPPD Positive none
16 Katagata25)
(2005)
45/M proximal to the papilla somatostatinoma 4.5×4.0×1.8 PD Positive Positive none
17 Katagata25)
(2005)
67/M proximal to the papilla, the ascending portion somatostatinoma 2.5×2.0×1.3, 1.5×0.8×0.6 PD Positive Positive none
18 Morikawa26)
(2006)
75/F papilla carcinoid 0.8×0.8×0.8 PD Negative none
19 Nojiri27)
(2007)
46/M papilla carcinoid 2.0×1.3 PPPD Positive Positive none
20 Torigoe28)
(2008)
51/F accessory papilla, the horizontal portion carcinoid 1.5×1.4×1.3, 0.7 PPPD Positive none
21 Ikeda29)
(2008)
59/F papilla carcinoid 3.0×2.5 PPPD Positive Positive duodenum
22 Kuwakado30)
(2009)
45/M accessory papilla carcinoid 0.7×0.6 Local resection Negative none
23 Yasue31)
(2009)
20/F papilla carcinoid 3.0×1.5×1.0 PPPD Positive none
24 Sato32)
(2009)
58/M proximal to the papilla carcinoid 1.6 Found at autopsy Positive ND stomach
25 Honda33)
(2009)
67/F papilla carcinoid 5.0 BSC Positive Liver metastasis none
26 Kawaguchi34)
(2011)
36/F proximal to the papilla somatostatinoma 2.0 PPPD Positive Positive none
27 Yoshioka35)
(2012)
67/M proximal to the papilla, papilla somatostatinoma (NET, G1) 2.3, 1.8 PPPD Positive Positive duodenum
28 Kinoshita36)
(2012)
48/F papilla carcinoid
(NET, G1)
2.0×1.6 PD, liver resection Positive, liver metastasis none
29 Shishido37)
(2013)
50/M papilla carcinoid
(NET, G1)
1.8×1.5 PPPD Positive none
30 Nakamura38)
(2013)
42/M periampullary NET, G1 2.2×1.6 PD Positive duodenum
31 Our case 63/F proximal to the papilla NET, G2 1.8×1.5 SSPPD Positive Negative jejunum

GIST: gastrointestinal stromal tumor, NET: neuroendocrine tumor, PD: pancreatoduodenectomy, PPPD: pylorus-preserving pancreatoduodenectomy, SSPPD: subtotal stomach-preserving pancreatoduodenectomy, BSC: best supportive care, ND: not described

原発巣切除が施行され,リンパ節転移の有無が確認できた23例において腫瘍径とリンパ節転移の関係をみると,2 cm未満では7例中4例(57.1%)に転移を認め,2 cm以上では16例中15例(93.8%)にリンパ節転移を認めた.本邦における十二指腸カルチノイドのリンパ節転移頻度は20.3%と報告されている40).また,十二指腸乳頭部カルチノイド56例を検討した平良ら41)の報告では,リンパ節転移率は腫瘍最大径10 mm未満で0%,10 mm以上20 mm未満で26.7%,20 mm以上で42.9%であった.それらと比べてもVRDに伴う十二指腸神経内分泌腫瘍は高いリンパ節転移頻度を認めた.乳頭部領域の神経内分泌腫瘍はその他の部位の十二指腸神経内分泌腫瘍とは異なって,腫瘍径や核分裂指数が転移の指標とはならないという報告42)は以前からもあり,安易な縮小手術は避けるべきであると考えられる.

一方,VRDにおけるGISTの発生率は5~25%と報告されている43).本邦報告例の中でVRDに十二指腸神経内分泌腫瘍とGISTが同時に合併した症例は自験例を含め7例のみであった.散在性のGISTは胃に発生することが多く,多発例はまれであるが,VRDに合併するGISTは80~90%が小腸原発であり,また約60%が多発例といわれている44).本症例では,術中に可能なかぎりの消化管の検索を行ったが,空腸以外に明らかな腫瘤はなく,GISTの多発所見は認められなかった.散在性GISTの80~90%はc-kit遺伝子の変異が関与するとされるが,VRDに合併するGISTは免疫組織学的にc-kit陽性であるにもかかわらず,分子遺伝子学的にはc-kit遺伝子の変異は8%であると報告されており,異なる発生機序が推測されている45).進行再発GISTに対して適応のあるimatinibはc-kit遺伝子変異のない症例には効果は低いとされるため,散在性GISTとは異なりVRD合併GISTに対する使用は推奨されていない45)46).VRDに合併するGISTは悪性度が低いという報告47)もあるが,出血や穿孔を来したVRD合併GISTの報告48)49)もあり,切除可能な症例では外科治療が第一選択であると考える.本症例は術前に空腸GISTの診断はできていなかったが,VRDにおいては術前,術中を問わず,消化管疾患を重複している可能性に十分留意する必要があると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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