日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
術後早期に薬剤性血小板減少症を発症した上行結腸癌の1例
伊藤 和幸中田 博趙 斌後藤 振一郎元吉 誠齋藤 幸夫
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2016 年 49 巻 9 号 p. 918-925

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Abstract

症例は75歳の女性で,食欲低下・腹痛などを契機に膿瘍形成を伴う上行結腸癌と診断され,2週間の抗菌薬投与後に結腸右半切除術を施行した.術後3日目に急激な血小板減少を認め,その数日後には口腔粘膜出血斑が出現し,ドレーン排液が血性に変化した.縫合不全や敗血症を示唆する症状がなく臨床的に特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura;ITP)を疑いプレドニゾロンの投与を開始したが血小板数は回復せず,消化管出血も認められた.その後,術後15日目から徐々に血小板数が上昇して術後28日目に問題なく退院し,結果的に術前から投与されていたセフメタゾールによる薬剤性血小板減少症と考えられた.術後早期に本症を発症した報告は少ないが,頭蓋内出血など重篤な出血性合併症にも発展しうるため周術期管理においては本疾患も念頭に置くことが大切であると考えられた.

はじめに

自己抗体に感作された血小板が脾臓などの網内系において破壊される疾患として特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura;以下,ITPと略記)が知られているが1),薬剤投与や特定の基礎疾患をもつ症例においても免疫学的機序による血小板減少症が起こりうる.最近では従来のITPに対して「primary immune thrombocytopenia」という用語が提唱されており,薬剤投与に関連した場合などの二次的に発症した場合を「secondary immune thrombocytopenia」として区別するとされている2).今回,上行結腸癌術後早期に術前から投与されていたセフメタゾールが原因と考えられる薬剤性血小板減少症を認め,重篤な出血性合併症を発症せず血小板減少が改善した症例を経験したので報告する.

症例

患者:75歳,女性

主訴:全身脱力感,食欲低下,腹痛

既往歴:高血圧,虫垂炎

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2012年2月中旬頃より食欲不振・全身脱力感・腹痛があり,同月末に近医を受診したところ,CTにて上行結腸癌を疑われ当院に紹介となった.

入院時現症:身長158 cm,体重56 kg,血圧111/53 mmHg,体温36.1°C,眼瞼結膜に軽度貧血あり,右側腹部に腫瘤を触知したが圧痛はなかった.

血液生化学検査所見:貧血と白血球数・C反応性蛋白・腫瘍マーカーの上昇が認められた(Table 1).

Table 1  Blood examination results on admission
WBC 9,500​/mm3 ​ALB 2.5 g/dl
Hb 9.0​ g/dl ​BUN 10.1 mg/dl
PLT 33.9×104​ g/dl ​CRE 0.66 mg/dl
​T-Bil 1.09 mg/dl
PT 73.4​ (1.15)% (INR) ​AST 23 U/l
APTT 25.1​ sec ​ALT 19 U/l
Fibrinogen 573​ mg/dl ​LDH 132 U/l
​Na 137 mEq/l
​K 4 mEq/l
CEA 288.0​ ng/ml ​Cl 100 mEq/l
CA19-9 1​ U/ml ​CRP 18.44 mg/ml

腹部造影CT所見:上行結腸に腫瘍を疑う陰影とともに,その背側に周囲が増強される内部均一な低吸収域が認められ膿瘍が疑われた.

下部消化管内視鏡検査所見:上行結腸肝彎曲近傍とさらにその口側に2型病変がそれぞれ一つずつ認められた.

以上より,穿通性膿瘍を伴った上行結腸癌と診断し,抗菌薬を2週間投与(cefmetazole(以下,CMZと略記)からampicillin/sulbactam(以下,ABPC/SBTと略記)に変更)した後に手術を施行した.

手術所見:上行結腸に腫瘍が認められ,その背側から頭側にかけて周囲に膿瘍壁が形成され,周囲組織と癒着していた.腎前筋膜を切除側に一部付ける形で膿瘍壁を完全に切除しつつ,結腸右半切除術を施行した.手術時間は3時間20分,出血量は468 gであった.

切除標本肉眼所見:上行結腸に二つの2型腫瘍(①90×70 mmと②40×35 mm)が認められ,腫瘍①は回腸に浸潤するとともに潰瘍底には壊死がみられ,漿膜側に形成された膿瘍腔に穿通していた(Fig. 1).

Fig. 1 

Macroscopic specimen shows two type 2 tumors (90×70 mm, 40×35 mm) of the ascending colon.

病理組織学的検査所見:(①)adenocarcinoma,tub1,T3,ly2,v1,PM0,DM0,RM0,N2,H0,P0,M0,stage IIIb(②)adenocarcinoma,tub2,T2,ly1,v1,PM0,DM0,RM0,N2,H0,P0,M0,stage IIIb(大腸癌取扱い規約第8版に基づく).

術後経過:術後2日目までの経過は問題なかったが,術後3日目に急激な血小板減少(0.5×104/mm3)が認められた(Table 2).縫合不全や敗血症を疑う腹痛・発熱・意識障害などの症状はなく全身状態は安定しており,FDPやD-dimerの上昇もみられたものの術後の線溶亢進を反映したものと考えられ,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation; 以下,DICと略記)は否定的であった.血液像では血小板が減少しているのみで凝集を認めず,白血球および赤血球は数・形態ともに異常を認めなかった.術後3日目より血小板輸血を継続したが反応なく血小板数は0.5×104/mm3未満で推移し,術後5日目には口腔粘膜の出血斑が出現した.術後6日目にはドレーンの排液が血性に変化したため,これを抜去したが刺入部からの滲出性出血が持続した.この時点で連携医療機関の血液内科医と相談し,ITP発症の可能性も考慮して診断的治療の目的でプレドニゾロン40 mg/日の投与を開始したが,術後9日目の時点で血小板数は0.4×104/mm3と回復せず下血も認められるようになった.血小板関連免疫グロブリンG(以下,PAIgGと略記)の測定結果が高値(1,280 ng/107 cells)と判明したこともあり,ステロイドの効果は認められなかったもののITPを否定できず,頭蓋内出血など重篤な出血性合併症の可能性もあったため相談していた連携医療機関に転院となった.転院当日に施行された骨髄像検査の結果,巨核球は軽度増加しており血小板産生能は保たれていた.その後プレドニゾロンを20 mg/日に減量して経過観察され,術後15日目から血小板数が上昇し始めて術後26日目に11×104/mm3まで改善したところで当院に再転院となった(Fig. 2a).転院時の血液内科医の見解としては,「周術期に投与された何らかの薬剤によってじゃっ起された免疫学的機序による末梢消費によって血小板低下を来したと考えられる」とのことであった.その後は術後28日目に退院後,約4か月でプレドニゾロン投与を漸減終了したが退院後10か月の時点まで血小板数は再低下することなく20×104/mm3前後で推移していた(Fig. 2b).

Table 2  Blood examination results on POD 3
WBC 5,900​/mm3 ​ALB 2.4 g/dl
Hb 9.0​ g/dl ​BUN 5.6 mg/dl
PLT 0.5×104​/mm3 ​CRE 0.67 mg/dl
​T-Bil 2.44​ mg/dl
PT 74​ (1.18)% (INR) ​AST 22 U/l
APTT 29.6​ sec ​ALT 18 U/l
Fibrinogen 482​ mg/dl ​LDH 143 U/l
​Na 138 mEq/l
​K 4 mEq/l
FDP 20.2​ μg/dl ​Cl 104 mEq/l
D-dimer 11.6​ μg/ml ​CRP 17.04 mg/ml
Fig. 2 

a: Changes in platelet count, timing of platelet transfusion, dose of prednisolone in the perioperative course. b: The dose of prednisolone was slowly tapered and platelet count remained within the normal range after discharge.

考察

消化器外科領域における術後合併症として血小板減少症がみられた場合,消費亢進を機序としたDICがまず想起されるが,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura;以下,TTPと略記)やヘパリン起因性血小板減少症(heparin-induced thrombocytopenia;以下,HITと略記)の報告も散見される3)4).TTPおよびHITの病態は自己免疫反応を介した過剰な血小板凝集による血栓形成が主体であることから5)6),血栓症を伴わない場合には両者は除外される.そこで血小板減少が単独で認められた場合には,ITPおよび薬剤性血小板減少症の鑑別が問題となる.

ITPは血小板表面の特異抗原に対する自己抗体により血小板が感作されて脾臓などの網内系で破壊される自己免疫疾患であり,血小板減少を来す他疾患の除外を基本として病歴・身体所見・末梢血および骨髄検査所見で矛盾しない場合に診断される1).PAIgGはITPに対する疾患感受性が高く90%以上の症例で上昇するとされるが7),非免疫性に血小板減少を起こすと考えられる疾患でも上昇する場合があり,陽性率は非免疫性に比べて免疫性血小板減少症のほうが明らかに高いとされるものの,特異度は低くITP診断における意義は少ない8)9)

薬剤性血小板減少症は薬理作用そのものによる骨髄抑制のため産生が低下して起こる場合もあるが,一般的には薬剤を介した免疫学的機序による血小板の破壊亢進が原因であることが多く10),ITP診断基準において除外すべき疾患に含まれているものの両者の鑑別は必ずしも容易ではない.本邦において血小板減少症の原因薬剤として報告例が多いのは抗菌薬(リファンピシンなど)・抗炎症薬(アスピリンなど)・循環器薬(プロカインアミドなど)・神経精神薬(カルパマゼビンなど)・消化性潰瘍薬(H2-blocker)などである.臨床的な特徴として,成人において急性に出血傾向が出現し多くの症例で血小板数が2万以下に低下するとされている11).投与歴のない薬剤の場合,感作には通常5~7日間を要し,血小板減少の発現には投与から平均14日間程度,さらに投与中止による血小板数の回復には平均7日間程度を要する.それに対し過去に投与歴がある薬剤の場合は,再投与により数時間から5日以内で血小板減少が発現し,投与中止から平均5日程度で血小板減少が回復する.ただし,血小板減少発現までの期間・重篤度・血小板減少期間などは薬剤によって異なるとする報告もある12)

薬剤による血小板減少の発症機序は原因となる薬剤によって異なり,1)薬剤がハプテンとして直接血小板膜に結合して抗原となり,これに対して産生された抗体が血小板に結合して好中球やマクロファージによって破壊される場合,2)薬剤やその代謝物が可逆的に血小板膜蛋白と結合することで膜蛋白に形態的変化を引き起こし,その結果新たな抗原が露出してこの抗原に対する抗体が産生され,血小板と結合し血小板が破壊される場合,3)薬剤によって誘導された抗体が,薬剤の存在がなくても血小板と結合し反応する場合,4)マウスキメラ抗体薬のマウス部分を認識する抗体がすでに発生している場合,などの複数の機序が想定されている13)~16).2)の機序における薬剤依存性抗体は薬剤の化学構造に極めて特異的であり薬剤存在下でなければ反応しないが,長期間にわたり患者血清中に存在しうるため薬剤が再び投与されることがあればまた血小板減少が起こる17).薬剤が結合する血小板膜蛋白はGP IIb-IIIaやGP Ib-IXなどいくつか明らかにされているが,複数の膜蛋白に結合して複数の抗体産生を誘導する薬剤があり,同じ薬剤でも症例により出現する抗体は異なる場合が少なくない.その一方で,異なる薬剤が同一膜蛋白と反応する場合もあり,一つのエピトープは複数の薬剤に対する共通のエピトープとなりうる12)18)

薬剤投与中に粘膜出血斑や鼻出血などの症状とともに重篤な血小板減少が突然出現して投与中止後すみやかに血小板数が回復する,といった臨床症状がみられた場合が薬剤性血小板減少症を疑う契機となる.他の血小板減少症の原因が除外されることが前提だが,原因を薬剤性と断定するには現在のところ1)血中の薬剤誘発性抗体の同定,2)被疑薬再投与による血小板減少症発症の確認,以外には難しい.1)についてはこれまで種々の方法が試みられてきたものの,再現性の問題もあり標準化された方法がなく一般的には行われておらず14),また2)についても倫理的な問題から行われることは少ない.米国ではTable 3に示す基準を用いて血小板減少と薬剤の関与度を分類しており,成人の薬剤性血小板減少症の英文報告(515症例,152薬剤)をレビューしたGeorgeら19)による論文では,Level I(definite)のエビデンスを認めるものとしてpiperacillinやcephalothinなど48種類の薬剤が報告されている.

Table 3  Criteria for assessing level of evidence for a causal relation between the drug and thrombocytopenia
Criterion Description
1) Therapy with the candidate drug preceded thrombocytopenia and recovery from thrombocytopenia was complete and sustained after therapy with the drug was discontinued.
2) The candidate drug was the only drug used before the onset of thrombocytopenia or other drugs were continued or reintroduced after discontinuation of therapy with the candidate drug with a sustained normal platelet count.
3) Other causes for thrombocytopenia were excluded.
4) Re-exposure to the candidate drug resulted in recurrent thrombocytopenia.
Level of evidence I (Definite): criteria 1), 2), 3), and 4) met
II (Probable): criteria 1), 2), and 3) met
III (Possible): criterion 1) met
IV (Unlikely): criterion 1) not met

一方,本邦では薬剤関与の判別基準として確立されたものはなく,患者のリンパ球を被疑薬と混合して刺激を受けたリンパ球の増殖率を測定する薬剤リンパ球刺激試験(drug-induced lymphocyte stimulation test;以下,DLSTと略記)が広く行われている.DLSTは偽陰性や偽陽性が生じうるため薬剤アレルギー診断としての意義については議論があり20)21),米国ではほとんど行われることがないものの,本邦では薬剤性血小板減少症報告例の多くで診断根拠の一助とされている.

本症が疑われた場合はまず被疑薬ないし全ての薬剤を中止するが,粘膜出血を伴う重症例では血小板輸血,副腎皮質ステロイドホルモンおよびγグロブリンの投与,血漿交換などの治療を積極的に行う.原因薬剤が推定された場合は,再発を防ぐために以後の投与を避けるように患者指導を行うことが肝要である12)

本症例における血小板減少はPAIgGが高値であったことから免疫学的機序による血小板破壊が原因と推測された.術後3日目より血小板減少を認めたが血液検査上は貧血を除き他に明らかな異常を認めず,さらに縫合不全や末梢循環不全を示唆する症状やヘパリン投与歴がないことからTTP,HIT,DICが否定され,ITPおよび薬剤性の可能性が残った.周術期にはTable 4に示す薬剤が投与されているが,過去に薬剤性血小板減少症を発症した既往がないことから,感作に要する期間を考慮するとCMZ,ABPC/SBTと酸化鉄注射液が該当する.しかし,本症の機序として一部の例を除き薬剤存在下でのみ抗体が反応することを考慮すると,血小板減少発現の数日前に投与が終了しているABPC/SBTと酸化鉄注射液は原因薬剤としては可能性が低くなる.CMZについては5日間の中断期間があるものの,初回投与で感作され血小板減少発現前に中断されたとすれば再投与後に短期間で発現したと考えても矛盾しない.また,一般的にβ-ラクタム系抗生剤は類似した化学構造を有し,β-ラクタム系抗生剤間の交差性が抗菌薬療法において問題となることがある.ペニシリン系抗生剤アレルギーは6位側鎖構造に依存しており,7位側鎖に類似構造をもつセフェム系抗生剤にも交差性が存在するが22),ABPCの6位側鎖とCMZの7位側鎖の構造は類似しておらず,この点においても本例においてABPC/SBTが原因薬剤である可能性は低い.以上より,血小板数回復までの期間がやや長いものの感作期間から考えると本症例の血小板減少の原因はCMZの可能性が高いと思われる.しかし,種々の薬剤に対する共通のエピトープが存在しうる事実を考慮すると,同時期に投与された他の薬剤が相互的に関与した可能性も否定できない.薬剤性血小板減少症について使いやすい明確な診断基準がない現状では,複数薬剤投与下で発生した血小板減少症に対して「薬剤性」と診断するのは容易ではないが,本症例でも各薬剤のDLSTが施行されていれば起因薬を同定できた可能性はある.なお,1977年から2015年12月までの医学中央雑誌および1950年から2015年12月までのPubMedで「血小板減少症(thrombocytopenia)」と「セフメタゾール(cefmetazole)」をキーワードとして検索した結果,セフメタゾールが関与したと思われる薬剤性血小板減少症の報告は1例のみであった23).また,Table 3に示した米国の判別基準では,本症例におけるセフメタゾールはレベルIII(Possible)に該当する.

Table 4  Duration of drug administration in perioperative period (POD)
Cefmetazole −14 – −6, 0–2
Ampicillin/Sulbactam −6 – −1
Saccharated ferric oxide −11 – −1
Famotidine 0–4
Flurbiprofen axetil 0–4
Metoclopramide hydrochloride 0–4
Mosapride citrate hydrate 1–9

周術期には複数の薬剤が投与されることが多く,術後に急激な血小板低下を認めた場合はDIC,TTP,HITなどが除外されれば次に薬剤性の可能性を検討する必要がある.薬剤性血小板減少症は結腸癌手術の合併症としてはまれであるものの,致命的な出血性合併症につながる可能性もあり,周術期管理においては本症の可能性も念頭に置くことが大切であると考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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