日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
早期胃癌に併発した仙骨前面骨髄脂肪腫の1例
上江洌 一平南 一仁松山 純子河野 浩幸吉田 大輔山本 学池部 正彦森田 勝藤 也寸志
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2017 年 50 巻 2 号 p. 158-165

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Abstract

早期胃癌に仙骨前面骨髄脂肪腫を併発した症例を経験した.胃癌の治療前検査中,偶然仙骨前面に4 cm径の腫瘤が指摘され,画像上脂肪肉腫が疑われた.同腫瘤は病理診断を行う目的で広範切除が施行された.病理所見は正常骨髄組織が脂肪組織内に混在する腫瘍で,悪性所見はなく,骨髄脂肪腫と診断された.仙骨前面腫瘤の確定診断後,胃癌の根治切除が施行された.仙骨前面骨髄脂肪腫は,まれな疾患であるが,脂肪成分を含有する後腹膜腫瘍で発生頻度が比較的高い脂肪肉腫との鑑別が重要である.しかし,この鑑別診断には従来のCTあるいはMRIでは限界があり,検体採取による病理組織学的診断が重要である.本症例では治療前検査としてPET-CTが施行され,同腫瘤に最高standard uptake value値1.61の異常集積が見られた.これは,これまで報告されている脂肪肉腫のそれよりも低値であった.このPET-CTは,仙骨前面の脂肪含有腫瘍の鑑別の一助となる可能性が示唆された.

はじめに

骨髄脂肪腫は,正常骨髄組織と脂肪組織より構成されるまれな軟部組織由来の良性腫瘍である1).特徴的な症状はなく,他疾患精査中や剖検などで偶然に発見される2).発生部位は副腎が大半を占め,副腎外は極めてまれである.この副腎外発生の約半数は仙骨前面であり,CTやMRI画像上,脂肪を含有する後腹膜腫瘤として描出される.脂肪を含有する後腹膜腫瘤のうち比較的発生頻度の高い脂肪肉腫との鑑別が重要であると報告されている3)4).これらの鑑別には従来の画像診断では限界があり,腫瘍組織採取としての生検あるいは外科的切除が必要となる.

症例

患者:71歳,男性

主訴:心窩部不快感

既往歴:特記事項なし.

家族歴:特記事項なし.

現病歴:2014年6月,心窩部不快感を自覚した.同年7月,近医にて上部消化管内視鏡検査が施行され,胃前庭部小彎に不整な陥凹性病変を指摘された.同病変の生検結果はGroup Vにて胃癌の診断を得た.胃癌治療前CTにて仙骨前面に4 cm径の類円形腫瘤が偶然指摘された.

初診時現症:結膜に貧血・黄疸認めず.腹部は平坦・軟で特記すべき所見は認めなかった.

血液検査所見:血算,生化学,凝固機能検査に異常値は認めなかった.腫瘍マーカーはCEAおよびCA19-9いずれも基準値内であった.

上部消化管内視鏡検査所見:胃前庭部小彎に15 mm径,0-IIc,UL(+)病変を認めた.生検結果は,Group V(低分化腺癌)であった.

腹部骨盤部CT所見:仙骨前面の後腹膜に4 cm径の境界明瞭な類円形腫瘤を認め,内部は脂肪濃度と軟部組織濃度が混在していた(Fig. 1).

Fig. 1 

Enhanced CT findings of the presacral tumor (arrowheads) show a well-defined heterogeneous tumor com­posed of fat intermixed with soft tissue.

骨盤部MRI所見:仙骨前面の後腹膜に4 cm径の境界明瞭な類円形腫瘤を認めた.T1・T2強調画像で高信号,脂肪抑制像で低信号,造影で増強されない脂肪を含む部分とT1強調画像で筋よりやや高信号,造影で増強され,拡散低下を示し,微量の脂肪を含む充実部分が混在する内部構造であった(Fig. 2A, B).

Fig. 2 

MRI findings of the presacral tumor (arrowheads). A: Sagittal T1-weighted image shows a well-defined tumor which consists of high signal and decreased signal parts. B: Coronal T1-weighted image with fat-saturation shows a low signal tumor which includes an increased signal part.

PET-CT所見:腫瘤内の軟部組織濃度部分に一致し,最高standard uptake value(以下,SUVと略記)値1.61の異常集積が認められた(Fig. 3).

Fig. 3 

PET-CT findings of the presacral tumor with a SUVmax of 1.61 (arrowheads).

以上の画像所見より,仙骨前面腫瘤は後腹膜由来の脂肪組織を含有する軟部組織腫瘍で,脂肪肉腫が疑われたが,確定診断には至らなかった.併発した早期胃癌は根治切除の適応であったが,予後規定因子の可能性がある仙骨前面腫瘤を診断目的で最初に切除することとした.

手術所見:下腹部正中切開にて開腹,腫瘤は仙骨前面,後腹膜腔に触知し,弾性硬であった.腫瘤は仙骨前面壁側筋膜に一部付着していたが,全周に渡り被膜形成がみられ,境界明瞭で,仙骨前面部分以外は腫瘍と距離を保ちつつ正常組織を含め切除することが可能であった.

切除標本肉眼所見:長径4 cmの表面平滑で薄い被膜形成のある充実性腫瘤であった.割面は脂肪組織と思われる黄色部分と血液成分を思わせる暗赤色部分で形成されていた(Fig. 4).

Fig. 4 

Gross section of the resected specimen shows an encapsulated and solid mass. The cut surface is composed of adipose tissue and bone marrow.

病理組織学的検査所見:弱拡大では正常脂肪組織が目立っていた.強拡大では骨髄巨核球を含む3系統の造血細胞からなる骨髄組織が脂肪組織内に介在しており,悪性所見は認めなかった.以上より,骨髄脂肪腫と診断された(Fig. 5A, B).

Fig. 5 

A: This tumor is composed of mature adipose tissue and bone marrow. B: The bone marrow contains three series of hematopoietic cells.

術後経過:仙骨前面腫瘤切除後二期的に早期胃癌に対し根治切除を施行した.胃癌の病理組織学的検査所見は,por2+tub2+sig,pT1a(M),pN0(pStage IA,curA)であった.術後1.5年経過するが,いずれの病変の再発も認めていない.

考察

骨髄脂肪腫は主に副腎に発生するまれな良性腫瘍であり1),その発生頻度は,剖検例での検討によると,0.13~0.4%とされる5).副腎外の発生は極めてまれで,これまでに約50症例の報告があるのみである.その内訳は,壁側胸膜,仙骨前面,胸腔内傍椎骨領域,後腹膜,縦隔,胃幽門部,肝臓,腎周囲,右腸骨窩,肝十二指腸靭帯である.そのうち仙骨前面での発生が最も多く6)7),医学中央雑誌にて1977年から2015年の期間で「骨髄脂肪腫」,「仙骨前面」,また,PubMedにて1950年から2015年の期間で「myelolipoma」,「presacral」をキーワードとして検索した結果,本症例を含め30例の報告がみられた(Table 12)3)6)~30).この30例の報告を検討すると,腫瘍発見時の平均年齢は67歳(1.5~85歳),男女比は1対4,平均腫瘍径は9.0 cm(0.5~27.5 cm)であった.特徴的な症状を呈するものはなく,発見の契機も他疾患の精査中に偶然に発見されたものが大半であった.確定診断は,画像所見のみでなされているものはなく,外科的切除あるいは針生検にて採取された組織検体を用い病理組織学的に行われていた.

Table 1  Reported cases of presacral myelolipoma
No Author Year Age Sex Diameter (cm) Associated findings Preoperative diagnosis Method of diagnosis
1 Dodge2) 1956 74 F 15 Paget’s disease N/A Resection
2 Labow8) 1977 47 F N/A Pericarditis (Steroid+) N/A Resection
3 Kapadia9) 1979 40 F 7 Mild anemia N/A Touch preparation
4 Sutker10) 1985 58 F 9 Alcoholic liver cirrhosis N/A Resection
5 Massey11) 1987 60 F 15 Mild anemia N/A Resection
6 Chan12) 1988 53 M N/A None N/A Resection
7 Asch13) 1989 60 F 10 N/A Liposarcoma Resection
8 Grignon14) 1989 80 F 12 Weight loss Liposarcoma Resection
9 Grignon14) 1989 68 F 7 Breast carcinoma N/A Autopsy
10 Grignon14) 1989 83 F 6 Atherosclerosis, Mild anemia N/A Autopsy
11 Dusenbery15) 1990 64 F 3.5 Intrasacral meningocele Sacral meningocele Touch preparation
12 Hunter16) 1992 70 F 0.5 RA (Steroid+) N/A Percutanseous FNA
13 Prahlow17) 1995 68 M 15 Diabetes Myelolipoma Percutanseous FNA
14 Adetiloye18) 1996 1.5 F N/A None Teratoma Resection
15 Giuliani19) 2001 71 F 9 Diabetes, Sigmoid colon carcinoma Liposarcoma, Teratoma Resection
16 Harada20) 2001 59 M 27.5 ITP (Steroid+) Liposarcoma Resection
17 Singla6) 2003 74 F 13 Transverse colon carcinoma Liposarcoma Resection
18 Skorpil21) 2007 84 F N/A Rectal carcinoma Benign fat tissue tumor, Metastasis Percutanseous FNA
19 Morioka22) 2007 69 F 11 RA, Diabetes (Steroid+) Myelolipoma, Liposarcoma Transrectal FNA
20 Dann23) 2008 82 F 4.5 Coronary artery disease N/A Resection
21 Gheith7) 2009 85 F 12 Atherosclelosis N/A Resection
22 Yamaguchi24) 2009 75 F 9 Diabetes Liposarcoma Resection
23 Gill25) 2010 71 F N/A N/A Extramedullary hematopoiesis, Liposarcoma, Myelolipoma Transrectal FNA
24 Asuquo26) 2011 74 F 3.5 Cervix carcinoma N/A Resection
25 Nasu3) 2011 70 M 4 Sigmoid colon carcinoma Liposarcoma Resection
26 Baker27) 2012 79 F 6.4 Temporal arteritis
(Steroid+)
Myelolipoma, Liposarcoma, Immature teratoma Resection
27 Gagliardo28) 2014 74 F N/A N/A Myelolipoma, Teratoma Resection
28 Leite29) 2014 84 M 5 Bladder carninoma Myelolipoma, Liposarcoma, Teratoma Resection
29 Varone30) 2015 55 F 5 Breast carcinoma Metastasis Percutanseous FNA
30 Our Case 71 M 4 Gastric carcinoma Liposarcoma Resection

N/A; not applicable, Steroid+; the use of steroid, RA; rheumatoid arthritis, ITP; idiopathic thrombocytopenic purpura, FNA; fine needle aspiration biopsy

骨髄脂肪腫の発生原因は不明であるが,塞栓化した骨髄組織細胞あるいは後腹膜に遺残した胎生期造血組織細胞の再活性化の説がある31).クッシング症候群やアジソン病などのホルモン異常を示す疾患を併存した症例より内分泌異常が成因と推測されるとの報告もあり27),動物実験で,ステロイド使用により副腎から骨髄脂肪腫が誘導されたとの報告もみられ32),これらの推測を裏付ける.検索した30例中5例にステロイドの長期服用歴がみられる点も興味深い.最近,副腎骨髄脂肪腫の1例で染色体転座t(3;21)(q25;p11)が観察され,骨髄脂肪腫は異所性の造血細胞に由来することが示唆されている33).また,副腎骨髄脂肪腫11例中8例に,周囲正常組織では見られない非無作為的なX染色体の非活性化が骨髄脂肪腫の造血組織部分と脂肪の両者で観察され,この腫瘍は単クローン細胞に由来することが示唆されている34).報告30例中9例で悪性疾患を併発しており,その内訳は,大腸癌4例,乳癌2例,膀胱癌1例,子宮頸癌1例,胃癌1例(本症例)であった.悪性疾患の併発が多いように思われるが,剖検例での骨髄脂肪腫の発生頻度は0.13~0.4%5),1956年に最初の仙骨前面骨髄脂肪腫が報告されて以降半世紀が経過するが30例程度の報告しかないことをみると,悪性疾患発生との因果関係は乏しく,単に本疾患の発見の契機となった画像検査が,悪性疾患の治療前検査で施行される機会が高いことを反映していると思われる.しかし,最近,多発する副腎外骨髄脂肪腫を背景として低悪性度B細胞リンパ腫が発生した1例の報告35)および前記染色体転座の報告は,骨髄脂肪腫と血液疾患との関連を示唆するものかもしれず注意が必要である.

骨髄脂肪腫の画像所見は,CTでは辺縁整な脂肪濃度と脂肪濃度よりもやや高い濃度を示す部分が混在する腫瘤として描出され,微小出血やそれに伴う石灰化が存在すると,高濃度部分が混在する36).MRIではT1強調画像,T2強調画像とも周囲脂肪織と同程度の信号を示す腫瘤として,脂肪抑制画像では低信号を示す腫瘤として描出される.いずれの画像も骨髄脂肪腫に特徴的な所見はない.また,仙骨前面腫瘤で,骨髄脂肪腫との鑑別を要する疾患は,脂肪を含有する後腹膜発生の腫瘍が主体となり,脂肪肉腫,脂肪腫,奇形腫,髄外造血腫瘤,後腹膜神経腫瘍,播種病変などが挙げられる.このうち,脂肪肉腫は,脂肪を含有した後腹膜腫瘤の中では発生頻度が高いと報告され4)6),その悪性度も考慮すると,鑑別すべき重要な疾患である.報告30例のうち術前診断の記載があるものは18例であったが,18例中12例(67%)で,脂肪肉腫の診断がなされていた.逆に骨髄脂肪腫の診断がなされていたのは6例(33%)にすぎず,しかもこのうち4例は脂肪肉腫を否定できていなかった.骨髄脂肪腫と鑑別すべき脂肪肉腫の画像診断でのMRIの有用性は報告されており,高分化型は造影効果が少なく,分化度が悪くなるにつれて造影効果が増すことが知られる.また,厚い繊維性隔壁,結節性構造,脂肪抑制像における造影効果が報告されている37).しかし,脂肪肉腫の画像診断は難しく,このMRIを用いた脂肪含有腫瘍126例の検討があるが,この検討ではMRIで脂肪肉腫と診断され腫瘍切除がなされた16例のうち 6例(38%)が病理組織学的に脂肪肉腫と診断され,残りは脂肪腫を含めた良性疾患であったと報告されている38).本症例では,治療前にPET-CTが施行された.Folpeら39)は骨軟部悪性腫瘍において最高SUV値は組織学的悪性度と相関すると報告しており,Suzukiら40)も脂肪肉腫の方が脂肪腫よりも最高SUV値が高値となる頻度が高いことを報告している.また,脂肪肉腫原発巣の最高SUV値は,これまで平均値で2.2~3.5と報告されている40)~43).本症例の最高SUV値1.61は,これまで報告されている脂肪肉腫のSUV値と比較して低値であった.これは,脂肪肉腫との鑑別を行ううえで重要な参考所見となることが示唆され,今後の症例の集積が望まれる.

確定診断には組織採取が必要で,超音波またはCTガイド下の針生検が有用であるとの報告がある32)44)45).しかし,仙骨前面へのアプローチは手技的に困難で,腫瘍の播種,出血,感染の危険性も危惧される.また,針生検で採取される組織量には限度があり,確定診断に至るのが難しいことも考えられる.実際,報告30例のうち6例(20%)のみに針生検が施行され,骨髄脂肪腫と術前診断されたのは3例(10%)にすぎなかった.したがって,組織採取には外科的に腫瘍切除が行われることが多い.本症例も画像所見では脂肪肉腫が疑われたので,開腹にて広範腫瘍切除を行うことで組織を採取し,確定診断を得た.一期的に早期胃癌に対する根治切除を施行することも可能であったが,仙骨前面腫瘤が脂肪肉腫である場合,同疾患が予後規定因子となること,胃癌の進行度はEMR/ESDの拡大適応も考えられるcStage IA(0-IIc,UL‍(+),15 mm,低分化腺癌)であることなどrisk-benefitを考慮し,仙骨前面腫瘍の確定診断をつけた後に,二期的に併存する早期胃癌に対する治療計画を立てることとした.仙骨前面腫瘍の切除に対し,腹腔鏡補助下の切除も技術的に十分可能であると思われたが,脂肪肉腫が疑われる仙骨前面腫瘍切除の腹腔鏡補助下での腫瘍切除の有用性を示すエビデンスはなく,開腹手術にて確実に腫瘍切除を行った.しかし,最近,腎周囲の10 cm径の副腎外骨髄脂肪腫を腹腔鏡下に切除したとの報告もあり46),腹腔鏡手術の低侵襲性,小骨盤腔での良好な視認性を考慮すると,このような症例に腹腔鏡下腫瘍切除を適応できる可能性がある.

利益相反:なし

文献
 

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