2018 年 51 巻 2 号 p. 154-161
症例は27歳の男性で,2013年7月血便,便柱狭小化を主訴に近医を受診し,直腸腫瘍を認めたため当院紹介となった.下部消化管内視鏡検査で直腸Rbに3個の腫瘤(4 cm,2 cm,1.5 cm)を認め,生検の病理所見で形質細胞腫の診断となった.血清Mタンパク陰性,尿中Bence-Jones蛋白陰性であり,PET/CTでは直腸病変以外に異常集積を認めなかったため,直腸原発髄外性形質細胞腫の診断となった.肛門機能温存を希望され放射線治療(50 Gy/25 Fr)を行ったが腫瘍が残存したため,腹腔鏡下括約筋間直腸切除術を施行した.病理所見では粘膜から固有筋層に異型形質細胞の増生を認め,免疫組織化学的には重鎖IgM・軽鎖λのmonoclonalityを認めた.腹腔鏡下括約筋間直腸切除術を施行した直腸原発髄外性形質細胞腫の1例を経験したので報告する.
多発性骨髄腫を代表とする形質細胞腫の中で,骨や骨髄以外の軟部組織に原発するものは髄外性形質細腫と呼ばれる1)~3).その多くは上気道・口腔に発生するが,直腸に原発する髄外性形質細胞腫はまれである3)~8).我々は腹腔鏡下括約筋間直腸切除術を施行した直腸原発髄外性形質細胞腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
患者:27歳,男性
主訴:血便,便柱狭小化
既往歴・家族歴:特記すべきことなし.
現病歴:2013年7月血便,便柱狭小化を主訴に近医を受診した.大腸内視鏡検査で直腸腫瘍を認めたため当院紹介となった.
入院時現症:身長170.0 cm,体重55.0 kg,血圧111/73 mmHg,脈拍75回/分,体温37.0°C.腹部に特記すべき異常を認めなかった.
入院時検査所見:血液像で軽度好中球優位であったが,その他特記すべき異常を認めなかった.血清Mタンパクおよび尿中Bence-Jones蛋白は陰性であった.
下部消化管内視鏡検査所見:下部直腸に3個の連続した不整な潰瘍を伴う粘膜下腫瘍様隆起性病変を認めた(Fig. 1).最も肛門側の腫瘍の辺縁は肛門縁から約3 cmであった.

Colonoscopy reveals three submucosal tumors with irregular ulcerations in the lower rectum.
注腸造影検査所見:直腸Rbにそれぞれの長径が4 cm,2 cm,1.5 cmの3個の隆起性病変を認めた(Fig. 2).

Barium enema reveals three tumors measuring 4 cm, 2 cm and 1.5 cm in diameter, respectively, in the lower rectum.
腹部造影CT所見:下部直腸に長径約4 cmの均一に造影される腫瘤を認めた(Fig. 3A).

A: Contrast-enhanced CT of the abdomen shows a tumor with equal enhancement in the rectum. B: PET/CT scan reveals abnormal FDP accumulation in the rectum without other abnormalities in the whole body.
PET-CT所見:下部直腸の腫瘤に一致してSUVmax=6.1の異常高集積部を認めたが,骨や骨髄を含めその他の部位には異常集積を認めなかった(Fig. 3B).
生検の病理組織学的検査所見:HE染色では類円形の核を持つ異型形質細胞が密に増生していた.異型細胞は免疫組織化学的にCD3(−),CD45R0(−),CD20(−),CD79a(+),VS38c(+),IgG(−),IgA(−),IgM(+),κ(−),λ(+)となり,形質細胞のマーカーであるVS38cが陽性で,重鎖・軽鎖ともにmonoclonalityが見出されたため,形質細胞腫の診断となった.
採血や尿検査に特記すべき異常を認めず,画像所見で他の部位に病変を認めないことから,直腸原発髄外性形質細胞腫の診断となった.髄外性形質細胞腫に対しては,完全切除可能な場合は手術が選択されるが,手術により機能的欠損を残す部位では放射線治療が選択される.自験例は下部直腸原発であり手術で切除することは可能であったが,肛門機能を失う可能性があった.十分なインフォームドコンセントを行った結果,放射線治療を希望されたので,1回2 Gyを25回の計50 Gy照射した.
放射線治療後の下部消化管内視鏡検査および腹部造影CT所見:腫瘍は縮小したものの残存していた(Fig. 4A, B).

Colonoscopy and abdominal CT after radiation therapy reveal residual tumors in the lower rectum.
放射線治療でのコントロールは困難と判断し,2014年2月腹腔鏡下括約筋間直腸切除術を施行した.
手術所見:術直前の直腸診では,腫瘍の位置は肛門縁から4 cmまで後退していた.カメラポートとして臍に5 mmポートを挿入,ワーキングポートとして左右側腹部と左下腹部に5 mmポート1本ずつ,右下腹部12 mmポート1本の計4本を挿入した.腹腔鏡操作を先行し,内側アプローチで間膜剥離を行った後,左結腸動脈を温存してD2郭清を行った.括約筋間を可及的尾側まで剥離した後に経肛門操作に移行した.歯状線上で粘膜と内括約筋を切開し,腹腔内からの剥離層と連続させ,肛門から直腸を引き出し切除した.結腸肛門吻合は手縫い端々吻合で行い,一時的回腸人工肛門を造設した.手術時間7時間53分,出血量少量であった.
摘出標本肉眼所見:直腸に立ち上がりのなだらかな赤褐色の粘膜下腫瘍を3個認めた.それぞれの最大径は2 cm,1.3 cm,1 cmと照射前に比べ縮小していた.肛門側の最も大きい腫瘍は深い陥凹を形成していた(Fig. 5).

A resected rectal specimen shows submucosal tumors measuring 2 cm, 1.3 cm and 1 cm in diameter, respectively.
病理組織学的検査所見:標本割面の弱拡大像では中央に広基性隆起を示す腫瘍が存在する(Fig. 6A).ここでは粘膜下層を中心に粘膜から固有筋層にかけて異型形質細胞の増生を認めた(Fig. 6B).免疫組織化学的には,形質細胞のマーカーであるVS38c陽性で,重鎖IgM・軽鎖λのmonoclonalityが見出された(Fig. 6C~E).3個の腫瘍全てで同様の所見であった.リンパ節転移は認めなかった(0/24).

A pathological image with a loupe (A) shows proliferation of tumor cells in the submucosa, which invaded into the epithelial and muscular layer. Histological findings of the resected specimens show proliferation of atypical plasma cells (B), in which VS38c (C) were stained immunohistochemically. Immunophenotyping involving monoclonal antibodies of immunoglobulin reveal expression of IgM with lambda light chain (D), and negative expression of IgA, IgG and kappa light chain (E), by the proliferating cells.
術後経過:術後経過良好で第21病日に退院となった.直腸診で明らかな狭窄がなく,注腸造影検査でも縫合後不全や通過障害を認めなかったため,術後約6か月で回腸人工肛門を閉鎖した.しかし,術後に腹満と下痢が続いたため注腸造影検査を行ったところ,結腸肛門吻合部の狭窄を来していたため,横行結腸で双孔式人工肛門を再造設することとなった.術後21か月に吻合部形成術を行い,術後27か月に人工肛門を閉鎖した.術後36か月無再発生存中で,肛門機能も比較的良好に保たれている.
形質細胞腫瘍は,単クローン性ガンマクロブリン血症,骨髄腫,骨の孤立性形質細胞腫,髄外性形質細胞腫,形質細胞白血病とに分類される1)~3).髄外性形質細胞腫は骨および骨髄以外から発生した形質細胞腫と定義されており,診断基準は①単クーン性の形質細胞による髄外性腫瘤の存在,②血液尿にM蛋白を検出しない,③正常な骨髄像,④正常な全身骨所見,⑤臓器障害がないこと,となっている1)~3).
髄外性形質細胞腫の頻度は,米国でのpopulation-based studyによると10万人あたり0.1人(アジア人は0.09人)とまれで,平均発症年齢は62歳,男女比は2.6:1と男性に多い傾向がある4).発生部位は上気道・口腔が60~80%と多く,消化管原発は比較的まれで,その中でも直腸の頻度は少ないとされている3)~8).
形質細胞腫は放射線感受性が高く,放射線治療単独での局所制御率は80~100%と高率である.このため切除により機能障害を残す上気道・口腔原発例に対しては放射線治療が第一選択となり,至適照射線量は40 Gy~50 Gyとされている3)~5)9)~15).直腸原発例に対しても肛門機能を考慮して放射線治療が選択されることがあり,上気道・口腔原発例同様に良好な成績をおさめている15)16).一方,切除可能な部位では手術による完全切除を目指し,断端陽性の際は術後に放射線治療を追加すべきとされている3)~5).化学療法に関しては明確なエビデンスはないが,切除不能や再発例に対しては,多発性骨髄腫に準じた化学療法を考慮すべきとされている3)~5).
10年生存率60~70%程度と比較的予後良好であるが,部位によりばらつきがあり,消化器原発では5年生存率約60%とやや予後が悪い傾向がある3)~14).最も重要な予後規定因子は多発性骨髄腫への移行で,約15%の頻度で起こり,多くが2~3年以内に発症するとされている3)~13).
医学中央雑誌で1977年から2016年の期間での「直腸」と「形質細胞腫」をキーワード検索した結果,7報告例(原著3例・会議録4例)があったので,自験例を含む8例をTable 1にまとめた17)~23).平均年齢は42.6歳(18~69歳)と比較的若年で,性差は3:1と男性に多く,5例(62.5%)で血便を主訴としていた.併存疾患として潰瘍性大腸炎を有する症例が2例あった.記載のあった7例中6例(85.7%)で肛門縁から5 cm以内の低位直腸から発生しており,腫瘍最大径は平均3.6 cmと比較的小さな腫瘤として発見される傾向があった.自験例では腫瘤が多発していたが,その臨床的意義は明らかではない24).治療は手術±放射線治療が4例,内視鏡的・外科的局所切除が3例,化学放射線療法が1例であった.術後急速に病状が悪化し死亡した例もあるので,注意深い経過観察を要する.
| Case | Author/Year | Categories | Sex/Age | Symptoms | Comorbidities | Distance from AV | Size (cm) | Treatment | Outcome |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Nishida17)/ 1975 |
Paper | M/62 | abdominal distension | none | 5 cm | 11×10×6 | APR | 6M dead |
| 2 | Terada18)/ 1977 |
Paper | F/47 | bloody stool lower abdominal pain | none | 3 cm | 4 | APR | 1M dead |
| 3 | Fujimori19)/ 1993 |
Paper | M/18 | bloody stool | none | 3 cm | 1 | EMR→wedge resection | N/A |
| 4 | Kono20)/ 1999 |
Abstract | M/24 | none | ulcerative colitis | N/A | 1.5×1.2×0.7 | EMR | N/A |
| 5 | Sato21)/ 2001 |
Abstract | M/55 | bloody stool | N/A | 7 cm | N/A | LAR+postoperative radiotherapy | N/A |
| 6 | Hashiguchi22)/ 2002 |
Abstract | M/47 | bloody stool | ulcerative colitis | near from AV | N/A | transsphincteric local resection | N/A |
| 7 | Morita23)/ 2009 |
Abstract | F/69 | constipation | mental disease | Rb | 3.5 | chemoradiotherapy** | 46M disease free |
| 8 | Our case | Paper | M/27 | bloody stool narrowing of the stool | none | 4 cm | 4* 2* 1.5* |
radiotherapy →laparoscopic ISR |
36M disease free |
*multiple (three), **melphalan, predonine. N/A: not applicable, AV: anal verge, APR: abdominoperineal resection, EMR: endoscopic mucosal resection, LAR: low anterior resection, ISR: intersphincteric resection
腹腔鏡下括約筋間直腸切除術は下部直腸癌に対し肛門機能を温存しつつ予後に影響を及ぼさない治療として普及しつつあり,gastrointestinal stromal tumor(GIST)やカルチノイドなどの非上皮性腫瘍にも応用されている25)~27)一方で,術前放射線治療が括約筋間直腸切除術後の肛門機能に悪影響を与えることが問題点として挙げられている28).自験例では肛門機能温存を希望されたため,十分なインフォームドコンセントを行ったうえで腹腔鏡下括約筋間直腸切除術を行った.放射線治療後に腫瘍肛門側縁がやや後退したため低位前方切除術も考慮したが,evidenceの乏しい造血器腫瘍であったため,確実にマージンがとれる括約筋間直腸切除術を選択した.術後6か月で回腸人工肛門を閉鎖したが,結腸肛門吻合部狭窄のため,横行結腸で人工肛門を再増設することになった.術前放射線治療を行っていることを考慮すると,内視鏡検査なども併用し,吻合部や腸管の状態を慎重に評価したうえで,人工肛門閉鎖の時期を検討する必要があったと反省される.
リンパ節郭清に関する明確なエビデンスは存在しないが,上気道・口腔原発例では20~40%に所属リンパ節転移を認めるとされており,first echelon lymph nodesを含めた放射線照射が推奨されている3)12)13).自験例では術前画像診断でリンパ節転移を認めなかったものの,上気道・口腔原発例でのリンパ節転移の頻度を考慮し中間リンパ節まで郭清を行った.
術後3年再発なく経過しているが,多発性骨髄腫への移行が15年間増え続けたとの報告もあるので,局所再発やリンパ節転移再発に対しては下部消化管内視鏡検査やCT・超音波検査で,多発性骨髄腫への移行に関しては採血や尿検査で,血液内科と連携しながら,3か月毎に経過観察を行う予定である3)9).
利益相反:なし