日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
胆囊炎に対する複数回の保存治療後に胆石イレウスによる小腸穿孔を来した超高齢者の1例
川瀬 寛矢野 智之松井 あや
著者情報
キーワード: 胆石イレウス, 穿孔, 胆囊炎
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2018 年 51 巻 2 号 p. 138-145

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Abstract

症例は93歳の男性で,当院にて8か月前,4か月前に胆石胆囊炎に対し保存治療が行われ経過観察となっていた.6日前からの腹痛に加え嘔吐を認めたため再受診した.腹部CTでは,胆囊内に存在していた3 cm大の胆石が上部空腸へ落下しており,その口側空腸の拡張と浮腫性肥厚を認め,腹水も伴っていた.筋性防御を認め胆石イレウスによる穿孔性腹膜炎を疑い緊急手術を施行した.上部空腸に胆石が嵌頓しており,その口側空腸に穿孔を疑う所見を認めたため同部位を切除した.胆囊周囲は強固に癒着し,大網で被覆されていたため,胆囊摘出は行わなかった.病理組織学的所見では,切除腸管の複数箇所に穿孔部を認め,胆石イレウスによる小腸穿孔と診断した.胆石イレウスによる穿孔性腹膜炎の報告はまれであるが,高齢者に対する胆囊炎の保存治療を行う際には,胆石イレウスの合併症として消化管穿孔の可能性を念頭において経過観察することが肝要と考えられた.

はじめに

胆石保有率の増加や近年の人口高齢化に伴い,高齢者の胆石胆囊炎に対する治療機会は増加している.高齢者であっても有症状胆石症例では胆囊摘出術が勧められているが,重篤な併存疾患を有する症例や超高齢者の症例では保存的治療が選択されることも少なくない1)

一方,胆石イレウスは胆石が胆管あるいは消化管との瘻孔を介し腸管内に逸脱し,腸管に嵌頓して腸閉塞症状を来す比較的まれな疾患である.さらに,胆石イレウスを原因として消化管穿孔にまでいたる報告例は非常に少ない2)~4)

今回,我々は胆石胆囊炎に対する保存治療を複数回行った後,胆石イレウスによる小腸穿孔を来した超高齢者の1例を経験したため,文献的考察を加えて報告する.

症例

症例:93歳,男性

主訴:腹痛,嘔吐

既往歴:高血圧,高脂血症,脊柱管狭窄症,狭心症,慢性腎不全,胆石胆囊炎(60歳代に保存治療)

現病歴:8か月前,4か月前に当院で胆石胆囊炎に対して,絶食,抗生剤投与による保存治療歴があり,近医で経過観察中であった.2016年5月,6日前からの腹痛,下痢に対して近医で点滴,抗生剤投与が行われていたが,急激な心窩部痛および嘔吐が出現し,当院を紹介受診した.

入院時現症:身長167 cm,体重51.3 kg,血圧92/56 mmHg,脈拍77回/分,体温37.5°C,腹部は平坦だが全体に筋性防御を認めた.

入院時血液検査所見:WBC 7,600/μl,CRP 5.13 mg/dl,Hb 9.9 g/dl,BUN 37.2 mg/dl,Cre 2.44 mg/dlと炎症反応の軽度上昇,貧血,腎機能障害を認めるほか特記すべき異常所見はなかった.

腹部単純X線検査所見:結石を疑わせる石灰化像はみられず,free airも認めなかった.肝内胆管の気腫像も認めなかった.

腹部単純CT所見:胆囊十二指腸瘻を認め,上部空腸内に約3 cm大の結石嵌頓および口側空腸の拡張,壁肥厚を伴っていた(Fig. 1a~c).空腸腸間膜の浮腫性肥厚,肝周囲および脾周囲に腹水も認めた(Fig. 1b).胆囊内および肝内胆管から総胆管内までガス像を認めた(Fig. 1d).

Fig. 1 

a. Abdominal CT shows a 3-cm calcified stone in the jejunum and dilation of the oral side of the jejunum. b. Wall-thickening of the oral side of the bowel obstruction and mesenteric edema can be seen. c. A cholecystoduodenal fistula is found and with gas in the gallbladder. d. CT also reveals pneumobilia.

前回入院時腹部CT所見(2016年1月):胆囊内に3 cm大の結石を認め,胆囊壁の肥厚を認めた(Fig. 2a).隣接する十二指腸との間に瘻孔形成を疑う所見は認めなかった(Fig. 2b).

Fig. 2 

a. Before admission, abdominal CT reveals a gallstone in the gallbladder. b. The duodenum is adjacent to the gallbladder, but there is no cholecystoduodenal fistula.

腹部エコー検査所見:空腸内に30 mm大の結石を認め,粘膜層から粘膜下層にかけて浮腫性の肥厚と内腔の拡張を認めた.十二指腸球部と胆囊の間で瘻孔形成を認め,胆囊内にはガス像が認められた.

以上の所見より,胆石イレウスによる穿孔性腹膜炎を疑い,緊急手術の方針となった.

手術所見:腹腔鏡下に腹腔内を観察したところ,上腹部から右季肋部にかけて大網が強固に癒着しており,膿性の腹水を認めた(術後の培養検査では細菌の発育を認めなかった).穿孔性腹膜炎と診断したが,腹腔鏡下には明らかな穿孔部位が同定できず,上腹部正中切開で開腹移行した.トライツ靭帯から空腸を検索したところ,約60 cmの位置で3 cm大の結石が嵌頓しており,その口側腸管の拡張と腸管壁の浮腫性肥厚を伴っており,胆石イレウスの状態であった.明らかな穿孔部位は同定できなかったが,嵌頓部口側の拡張した空腸に白苔が付着し,腸間膜側を中心に斑状に暗赤色変化を来しており,同部位を腹膜炎の責任病変と判断した(Fig. 3).同部位から,肉眼で正常腸管と思われる部位までたどり,約45 cmの空腸を切除し,自動縫合器で機能的端々吻合を行った.胆囊周囲は強固に癒着しており,胆囊十二指腸瘻部は,ドレナージのみが妥当と判断し,胆囊摘出は行わなかった.

Fig. 3 

Intraoperative findings show the suppurative ascites and dilated jejunum with perforation.

切除標本所見:切除した空腸の複数箇所で,腸間膜側に壊疽性の潰瘍病変を認めた(Fig. 4a, b).漿膜面には,腸間膜付着部付近に暗赤色の色調変化を認めた(Fig. 4c).

Fig. 4 

a. The resected jejunum wall has many ulcerations on the side of the mesentery. b. Magnified picture of the resected jejunum shows ulceration with perforation. c. The serosal side of the resected jejunum reveals the ischemic area near the mesentery.

病理組織学的検査所見:粘膜から粘膜下層にかけて脈管拡張と浮腫を伴い,高度な炎症細胞浸潤と膿瘍形成が存在し,虚血性変化による壊死と穿孔の所見を複数箇所に認めた.

術後経過:経過良好にて第4病日から食事摂取を開始し,第19病日に軽快退院となった.

上部消化管内視鏡検査所見(術後1か月):十二指腸球部前壁に瘻孔と思われる瘢痕を認めたが,ガストロ造影では胆囊内への造影剤の流出は認められなかった(Fig. 5a, b).

Fig. 5 

a. Postoperative upper endoscopy shows the scar of the cholecystoduodenal fistula on the anterior wall of the duodenum. b. Postoperative gastrografin contrast X-ray does not reveal cholecystoduodenal fistula.

Drip infusion cholecystocholangiography CT所見(術後2か月):後区域胆管に合流する胆囊管は描出されたが,胆囊は描出されず,造影剤が十二指腸内へ流出している所見を認めた(Fig. 6a).胆囊は萎縮し,胆囊十二指腸間の瘻孔は不明瞭となっていた(Fig. 6b).

Fig. 6 

Drip infusion cholecystocholangiography CT shows the cystic duct (a), although the cholecystoduodenal fistula remains uncertain (b).

考察

本邦の胆石保有率は増加傾向にあると推測されており,最新の文献では5%とされる5).有症状胆石例に対する治療の基本は胆囊摘出術であり,特に急性胆囊炎発症例では胆囊摘出術が第一選択とされている1).高齢者の胆石胆囊炎症例に対しても,重篤な併存疾患がなければ,炎症のない間欠期での手術が望ましいとされている1).一方で,高齢者では術後合併症率や死亡率も高いため,特に超高齢者においては保存的治療が選択されることも少なくない.本症例では,詳細は不明だが約30年前に胆石胆囊炎に対する保存治療が行われており,当院初診の8か月前および4か月前の計3回,保存治療が行われていた.当院初診時(8か月前)の腹部エコー検査では,結石が胆囊頸部に嵌頓し,胆囊腫大および壁肥厚を認め,胆囊壁のsonolucent layerやデブリエコーも伴い,急性胆囊炎の所見であった.採血ではWBC 19,400/μl,CRP 15.7 mg/dlと高度の炎症反応の上昇を認めたが,抗生剤投与および5日間の絶食で白血球は正常範囲へ低下し,ドレナージは行わなかった.食事再開後,炎症の再燃は認めず,2週間後に軽快退院となっていた.4か月前の胆囊炎再燃時も,腹部エコー検査および腹部CTで胆囊炎の所見を認め,採血でもWBC 8,300/μl,CRP 15.2 mg/dlと炎症反応の上昇を認めた.前回同様,絶食および抗生剤投与で速やかに炎症は軽快したため,ドレナージは行わず,2週間で軽快退院となった.繰り返す胆囊炎に対して外科手術も検討されたが,絶食および抗生剤で速やかに炎症が軽快すること,慢性腎不全(血清Cre値:2 mg/dl程度)や冠動脈狭窄の併存症を有すること,また年齢も考慮して胆囊摘出術は行わず経過観察となっていた.いずれかの時点でドレナージチューブなどが留置されていた場合は,年齢や併存症に伴うリスクを考慮してでも手術適応となっていたと思われるが,本症例では,抗生剤投与,絶食にて速やかに炎症が軽快したことが経過観察となった大きな要因であった.この時点では,結石は胆囊内に存在しており,その後,胆囊十二指腸瘻を形成し,胆石が腸管内へ逸脱,嵌頓し,イレウスを引き起こしたものと推察された.結果として,イレウスおよび穿孔を来してからの開腹手術となったが,当院で初回または2回目の胆囊炎保存治療後に手術を行っていれば,定型的な腹腔鏡下胆囊摘出術を施行しえた可能性もある.本症例からは,ドレナージを必要としないような保存的治療で速やかに軽快してしまうような症例であっても,炎症を繰り返すうちに瘻孔形成からイレウスに至ることもありうるので,繰り返す胆囊炎症例に対しては,ガイドラインに準じて可及的すみやかに外科切除を検討すべきと思われた.

胆石イレウスは胆石が胆管あるいは瘻孔を介して消化管内に逸脱し,腸管に嵌頓して生じるイレウスで,その頻度はイレウス全体の0.05~1.0%,胆石症の0.15~1.5%とされる比較的まれな疾患である6).好発年齢は60~70歳,男女比は1:1.4~1:10.3と女性に多く,嵌頓部位は小腸が大半を占め,回腸末端が多いとされる7).小腸の中でも空腸は回腸に次いで多く,その頻度は20~40%といわれている8)9)

本症の診断には,以前はRiglerら10)が提唱した,腹部単純X線写真での胆道内ガス像,腸管拡張・鏡面像,腸管内結石像,結石の移動の所見が有用であるとされていたが,近年では,画像診断の進歩により診断能は格段に向上しており,特にCTでの胆道内ガス像と腸管内結石の描出が有用であると考えられている11).本症例では,過去の治療歴,画像所見があり,経時的変化を追えたため,胆石イレウスの診断は比較的容易であった.術前には穿孔部位の同定までは困難であったため,胆石イレウスに伴う穿孔性腹膜炎の診断で審査腹腔鏡を行った.穿孔部位は上部空腸を疑ったが,腹腔鏡ではっきり同定できず,上腹部正中での小開腹へ移行し,穿孔部位を同定および腸管切除を行った.胆石イレウスの術式としては,イレウス解除術に関して,腸管を切開して結石摘出し縫合閉鎖のみ行う場合と腸管切除を伴う場合がある.また,胆囊摘出術や内胆汁瘻閉鎖術を一期的に行う場合と二期的に行う場合,または胆囊摘出は行わない場合など,議論の余地が残されており,患者状態で判断すべきである.

医学中央雑誌で1970年から2017年3月の期間で「胆石イレウス」,「穿孔」(会議録除く)をキーワードとして検索したところ5件の報告例が存在した.そのうち,実際に胆石イレウスが原因で穿孔に至った症例は3例のみであった2)~4).また,PubMedで1950年~2017年3月の期間で「gallstone ileus」,「perforation」をキーワードとしてcase reportの英文検索を行ったところ25件の文献が報告されており,胆石イレウスが原因となり穿孔に至った症例は22件23例であった2)12)~32).医学中央雑誌およびPubMedの症例報告25例(1件重複)において,胆石イレウスによる穿孔症例の患者背景,胆石の嵌頓部位,大きさ,手術術式などをまとめ,一般的な胆石イレウスと異なる特徴が存在しないか検討した(Table 1).

Table 1  Clinical characteristics of patients with perforation in gallstone ileus
(n=25)
Age 72 (33–88)
Sex Male : Female 7 : 18
Anamnasis Gallbladder stone : Cholecystitis : None 5 : 5 : 15
Impacted site duodenum : jejunum : ileum : colon 3 : 8 : 8 : 6
Size of stone (cm) 3 (2.5–7)
Operation method
 Release of ileus Enterolithotomy : Bowel resection : ND 4 : 19 : 2
 Cholecystectomy One-stage:Tow-stage:None 4 : 2 : 19

ND: not described

年齢は72歳(33~88歳),男女比は1:2.6,胆石または胆囊炎の既往を有する症例が40%であり,患者背景については,一般的な胆石イレウスの非穿孔例の特徴と同様であった.胆石の大きさは3 cm(2.5~7 cm)であり,穿孔例で大きいということはなく,嵌頓部位についても64%が小腸であり,こちらも同様の結果であった.穿孔部位については,十二指腸または大腸に嵌頓していた9例中8例は嵌頓部近傍で穿孔していたが,小腸に嵌頓していた症例については嵌頓部近傍から1 m以上離れた部位まで穿孔部と嵌頓部に関しての一定の傾向はみられなかった.これは,後腹膜へ固定する十二指腸,大腸では結石が移動しにくく,同一部位に長くとどまる傾向にあり,嵌頓した近傍が脆弱化して穿孔に至るが,小腸では嵌頓してイレウスが発症した後,口側の腸管内圧の上昇によって穿孔に至ることが多いためと推察される.また,穿孔部位が腸間膜側か否かについて言及した報告は4例と少なかったが,うち3例が腸間膜側であった2)20)28).本症例でも,切除標本において腸間膜側に複数の潰瘍病変がみられ,その一部が穿孔していた.腸間膜側のほうが非腸間膜側に比べて,間膜に固定され物理的刺激を受けやすいことが一因と考えられるが,報告例が少なく,さらなる症例の蓄積と解析が必要である.一方,術式については,穿孔性腹膜炎を呈していることから,非穿孔例の場合とは明らかに異なっていた.腸閉塞に対する治療としては,腸管壁の穿孔や損傷を伴うため,腸管の切除吻合が多くの症例で行われていた.また,胆囊摘出術や内胆汁瘻閉鎖術は二期的にも行われていないことが多く,閉塞解除のみで経過観察となっている症例が多かった.この理由としては,腹膜炎状態で救命が目的の手術であること,高齢者に多く,再発や悪性腫瘍発生などのリスクを許容しうることなどが考えられた.

今回の検討では,胆石イレウスから穿孔に至った症例の特徴については,非穿孔例と差異は認めなかったが,既往の胆囊炎に対する治療の頻度や炎症の程度は判断できなかった.胆石胆囊炎に対する複数回の保存治療後で,特に高齢者の場合は,無症候性に炎症を繰り返すうちに瘻孔形成をしている可能性もあるため,可能であれば保存治療後にすみやかに外科切除を検討すべきと思われた.手術適応とならなかった症例においては,胆石イレウスおよび消化管穿孔を併発する可能性も念頭において経過観察することが肝要と考えられた.また,胆石イレウスから消化管穿孔にいたった際の術式としては,初回はイレウス解除のみに留め,胆摘については全身状態の評価,胆摘の有効性や危険性を十分に検討した後に考慮することが肝要と考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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