2018 年 51 巻 2 号 p. 106-113
症例は66歳の男性で,急性胆囊炎に対する保存的加療の既往があり,心房細動に対し抗凝固薬を内服していた.右側腹部痛を主訴に当科を受診し,腹部造影CTにて胆囊,総胆管から胃十二指腸内に広範囲の血腫形成を認め,また,胆囊動脈仮性瘤ならびに胆囊十二指腸瘻を認めた.急性胆囊炎とそれに伴う胆囊動脈仮性瘤破裂,胆囊十二指腸瘻と診断した.緊急血管造影を行い,胆囊動脈仮性瘤に対しコイル塞栓術(transcatheter arterial embolization;以下,TAEと略記)を施行した.術後は保存的加療を行い,明らかな合併症なく軽快退院した.第35病日,再出血を来し再度緊急血管造影を施行した.肝動脈後区域枝の分枝に仮性動脈瘤を形成しており,TAEによる再止血を行った.再出血後12か月後の現在,再出血なく経過観察中である.本邦では17例の胆囊動脈仮性瘤の報告がされているが,TAEのみで保存的に経過観察された症例はない.本症例では胆囊十二指腸廔により,保存的に加療できた可能性が示唆された.
上部消化管出血のうち胆囊出血は1~5%を占めるとされており1),比較的まれな病態である.さらに,胆囊動脈仮性瘤を原因とする胆囊出血は非常にまれである.今回,急性胆囊炎を伴った胆囊動脈仮性瘤破裂に対して2回のコイル塞栓術(transcatheter arterial embolization;以下,TAEと略記)にて保存加療を行った1例を経験したので報告する.
患者:66歳,男性
主訴:右側腹部痛
既往歴:23歳時に虫垂炎に対し虫垂切除術を施行された.56歳時より発作性心房細動と診断され,抗凝固薬(ワルファリンカリウム)内服している.その他,脂質異常症,甲状腺機能低下症に対し内服加療中である.
家族歴:特記事項なし.
現病歴:2015年4月に胆石性急性胆囊炎で近医へ入院し絶飲食,抗菌薬投与で軽快退院した.同年10月,右側腹部痛にて当科を受診した.
初回入院時現症:身長168 cm,体重56 kg,体温36.4°C,血圧130/65 mmHg,心拍数96回/分,整,呼吸数18回/分,経皮的酸素飽和度(SpO2)99%(室内気),意識清明,眼瞼結膜に貧血なし,眼球結膜に黄染なし,右側腹部に圧痛を認めたが筋性防御や反跳痛は認めず,肝臓,脾臓,腫瘤は触知しなかった.
初回入院時血液生化学検査所見:白血球数増多,肝胆道系酵素・BUN・クレアチニンの上昇,PT-INR・APTTの延長を認めた(Table 1).
| First admission | Second admission | First admission | Second admission | ||
|---|---|---|---|---|---|
| Hematology | Blood chemistry | ||||
| WBC (/μl) | 15,000 | 9,100 | AST (IU/l) | 62 | 141 |
| RBC (×106/μl) | 4.42 | 2.80 | ALT (IU/l) | 20 | 368 |
| Hb (g/dl) | 13.4 | 8.6 | LDH (IU/l) | 146 | 217 |
| Ht (%) | 39.6 | 25.2 | ALP (IU/l) | 311 | 238 |
| Plt (×103/μl) | 32.5 | 18.1 | Γ-GTP (IU/l) | 168 | 184 |
| Coagulation | T-Bil (mg/dl) | 0.9 | 1.9 | ||
| PT-INR | 2.43 | 3.07 | S-Amy (IU/l) | 57 | 53 |
| APTT (Sec) | 50.5 | 47.4 | BUN (mg/dl) | 26 | 28 |
| Cr (mg/dl) | 1.33 | 1.19 | |||
| Na (mmol/l) | 140 | 141 | |||
| K (mmol/l) | 3.7 | 4.0 | |||
| Cl (mmol/l) | 103 | 107 | |||
| CRP (mg/dl) | 6.0 | 0.5 |
初回入院時腹部造影CT所見:胆囊壁は高度に肥厚し,胆囊壁と十二指腸球部壁の途絶を認めた(Fig. 1A, B).胆囊十二指腸廔が疑われた.胆囊,十二指腸,胃の内腔に血腫を疑わせる,連続した高濃度陰影を認め,胆囊動脈に仮性瘤を認めた.腹腔内遊離ガス・腹水は認めなかった.

(A, B) Contrast-enhanced abdominal CT on first admission showing a thick and dense gallbladder wall suggestive of acute cholecystitis. Cholecystoduodenal fistula was suspected (bold arrows). Extravasation of contrast medium from the cystic artery (thin arrow). (C) On second admission, extravasation of contrast medium is identified around the gallbladder (thin arrow).
以上より,急性胆囊炎とそれに伴う胆囊動脈仮性瘤破裂,胆囊十二指腸瘻と診断し,ビタミンKを投与してワルファリンを拮抗させた後に緊急血管造影検査を施行した.
初回血管造影検査所見:造影剤の明らかな血管外漏出を認めなかったが,胆囊動脈に仮性瘤形成を認めた(Fig. 2A).マイクロコイル9本を用いて胆囊動脈を根部で塞栓した.

(A) Angiography on the first bleeding episode demonstrated a pseudoaneurysm of the cystic artery. (B) Angiography on the second bleeding episode revealed extravasation of contrast medium from a branch of the posterior segmental branch of the hepatic artery.
塞栓術後は抗菌薬投与による保存加療を行い,術後5日目より食事を再開した.胆囊十二指腸廔を確認するために,上部消化管内視鏡検査を行った.
上部消化管内視鏡検査所見:十二指腸球部後壁に肉芽様組織の増生を伴う潰瘍性病変および,廔孔形成を認めた(Fig. 3).

Esophagogastroduodenoscopy demonstrated a cholecystoduodenal fistula (arrow).
術後経過は良好で,術後3日目にヘパリンカルシウムの点滴投与を開始した.術後14日目にワルファリンカリウムの内服を再開し,PT-INRが1.5~2.5となるように投与量を調整した.ヘパリンカルシウムは術後17日目にPT-INRが1.5に達した時点で終了とした.術後21日目にワルファリンカリウム2.5 mg内服で退院した.
待機的胆囊摘出術を検討していたが,術後35日目に,右側腹部痛を主訴に当院を緊急受診した.来院時血圧98/40 mmHg,心拍数118回/分とショック状態であった.
再来院時血液生化学検査所見:白血球数増多,Hbの低下,肝胆道系酵素・BUN・クレアチニンの上昇,PT-INR・APTTの延長を認めた(Table 1).
再来院時腹部造影CT所見:胆囊動脈に対するTAE後の状態(Fig. 1C).胆囊および十二指腸内腔には高濃度血腫が見られ,炎症性に肥厚した胆囊壁内に造影剤漏出を認めた(矢印).
以上より,腹腔内出血の再発と診断し,ビタミンKを投与してワルファリンを拮抗させた後に緊急血管造影検査を施行した.
再出血時血管造影検査所見:前回塞栓部位からの出血の所見は認めなかった(Fig. 2B).肝動脈後区域枝の選択造影にて,造影剤の血管外漏出を認めた.後区域枝根部より血管内塞栓促進用補綴材(セレスキュー®,日本化薬株式会社製,東京都)を用いて塞栓を行った.塞栓後,血圧が安定した.
術後経過は良好で,ワルファリンカリウムは中止のまま再塞栓術後21日病日に軽快退院した.再出血後3か月,待機的胆囊摘出術を予定し,腹部造影CTを施行した(Fig. 4).胆囊径は20 mm大に著明に萎縮し,十二指腸との交通,胆道内の遺残結石,仮性動脈瘤は認めなかった.炎症の再増悪や再出血の可能性は低いと考え,十分なインフォームドコンセントを行い経過観察することとした.再出血後12か月後の現在,症状なく経過観察中である.

Contrast-enhanced abdominal CT, 3 months after the second TAE. The gallbladder remarkably contracted.
胆囊動脈は通常右肝動脈より分岐した後,2本に分かれ浅枝は胆囊の腹側を走行し,深枝は胆囊床を走行する2).一方,右肝動脈より分岐する前区域枝は胆囊床の深部を,後区域枝はRouviere溝を通過する.本症例では,初回の出血源は胆囊動脈であり,2回目の出血源は肝動脈後区域枝由来の分枝であった.繰り返す胆囊炎により,炎症がRouviere溝にまで波及した影響が考えられた.
仮性動脈瘤は動脈の弾性線維,筋層,漿膜に生じた炎症性の糜爛が破綻し,出血と血栓化を繰り返した結果,血腫が周囲結合織により被包化されて形成される3).胆囊動脈仮性瘤では動脈の変化に加えて,胆石による胆囊潰瘍の形成が関与するとの報告もある4).その他,外傷,腫瘍,血管異常,医原性刺激などが胆囊動脈仮性瘤の原因とされている.通常は炎症の早期に胆囊動脈が血栓化されて閉塞するため,胆囊動脈仮性瘤と併発することは非常にまれである5).本邦では1990年以降,15例(医中誌Webで「胆囊」,「仮性動脈瘤」をキーワードとして1990年から2015年12月まで検索し,胆囊炎を契機として発症した胆囊動脈仮性瘤の症例を抽出した.会議録は除く.)の報告のみであった(Table 2)3)4)6)~18).自験例を加えた16例で検討すると,年齢の中央値は69.5歳,男性が70.6%,47.1%が血管病変を有し,35.3%で抗凝固薬ないし抗血小板薬を服用しており,有石症例は47.1%であった.胆囊炎が女性に多いにもかかわらず,胆囊仮性動脈瘤が男性に多い理由として,抗凝固薬ないし抗血小板薬服用を要する血管病変を有する基礎疾患が男性に多いことが考察される.
| No | Author | Year | Age | Gender | Symptoms | Vascular disease | Anticoagulant or/and antiplatelet therapy | Gallbladder stones | Diagnostic methods | Treatments | Time to operation |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Nakajima6) | 1996 | 72 | M | Epigastralgia Melena | None | ○ | ○ | Angiography | C | 14 days |
| 2 | Matsuba4) | 1996 | 72 | F | Abdominal pain Vomitting | CI·HT | — | ○ | Angiography | C+Choledochotomy+T-tube implantation | 2 days |
| 3 | Mitani7) | 1997 | 59 | M | Epigastralgia Hematemesis | None | × | ○ | Angiography | TAE→C+Fistula closure | 3 months after TAE |
| 4 | Miura3) | 1998 | 74 | F | Fatigue Right hypochondralgia | None | × | × | CT | Lap-C | 3 months after conservative therapy |
| 5 | Watanabe8) | 2001 | 81 | F | Epigastralgia Hematemesis | None | × | ○ | Angiography | TAE→C+Choledochotomy+T-tube implantation | 6 days |
| 6 | Sugiyama9) | 2002 | 90 | F | Dyspnea Tarry stools | MI·AP | ○ | × | Angiography | TAE | — |
| 7 | Maeda10) | 2002 | 62 | M | Epigastralgia | None | × | × | Angiography | TAE→C | 10 days after TAE |
| 8 | Ido11) | 2003 | 72 | M | Right hypochondralgia | AP·DM·HD | — | × | AUS | C+C-tube implantation | 16 days |
| 9 | Akatsu12) | 2007 | 58 | M | Right hypochondralgia | HT·HD | — | ○ | MRI | PTGBD+ENBD→C | Unknown |
| 10 | Nojiri13) | 2008 | 61 | M | Right hypochondralgia Hematemesis | None | × | × | CT | C+T-tube implantation | 7 days |
| 11 | Takeuchi14) | 2008 | 71 | M | Epogastralgia Right hypochondralgia | PAD·DM | ○ | ○ | Angiography | Lap-C | A few days |
| 12 | Machida15) | 2008 | 71 | M | Epigastralgia | None | × | ○ | CT | C | 14 days |
| 13 | Fujikawa16) | 2009 | 68 | M | pigastralgia Hematemesis Melena | HT·MI·DM·HL·CKD | ○ | × | CT+US+EGD | C | 38 days |
| 14 | Yamanaka17) | 2013 | 65 | M | Epigastralgia | CI·HT·HL | ○ | × | CT | C | 9 days |
| 15 | Kubo18) | 2015 | 59 | M | Epigastralgia Melena | None | × | ○ | CT+MRCP | ERBD→C | 8 days |
| 16 | Our case | 66 | M | Right hypochondralgia | Af·HL | ○ | ○ | CT | TAE | — |
CI: cerebral infarction, HT: hypertension, MI: myocardial infarction, AP: angina pectoris, DM: diabetes mellitus, HD: hemodialysis, PAD: peripheral artery disease, HL: hyperlipemia, CKD: chronic kidney disease, Af: atrial fibrillation, AUS: abdominal ultrasound, EGD: esophagogastroduodenoscopy, PTGBD: percutaneous transhepatic gallbladder drainage, ENBD: endoscopic nasobiliary drainage, ERBD: endoscopic retrograde biliary drainage, C: cholecystectomy, Lap-C: laparoscopic cholecystectomy
一方,胆囊十二指腸廔は胆石の陥頓に伴う急性閉塞性胆囊炎により胆囊内圧が急激に上昇して十二指腸壁と癒着を来し,胆囊壁の循環障害から壁が壊死に陥って形成される19)~21).胆囊十二指腸廔を含めた特発性内胆汁廔の85~90%が胆石症に起因するとされている22).本症例は,胆石性胆囊炎の過程において胆囊十二指腸廔,胆囊動脈仮性瘤を形成したと考えられる症例であった.胆囊壁の圧排性血流障害から胆囊十二指腸廔を形成し,炎症の波及による動脈壁の脆弱化と,抗凝固薬による止血異常から出血と血栓化を繰り返した結果,胆囊動脈仮性瘤が形成した可能性が示唆された.胆囊動脈仮性瘤と胆囊十二指腸廔を併発した報告は本症例が2例目である.残る1例は緊急TAEにより止血を行い,3か月後に再出血を来し緊急開腹胆囊摘出,総胆管切開,Tチューブ外瘻術が行われていた7).
胆囊動脈仮性瘤破裂の治療法として,緊急の胆囊摘出術とTAEがあげられる.中には,自然止血されていた症例も報告されている3).本症例では胆囊十二指腸廔を併発し,抗凝固薬内服中であったため緊急手術ではなくTAEを選択した.胆囊動脈仮性瘤に対するTAEの問題点として,①再出血の可能性,②胆囊への血流障害による胆囊炎の増悪や胆囊壊死の可能性,③胆道内に遺残した血腫が及ぼす影響,④出血源が悪性腫瘍の可能性,などがあげられる23).自験例を含む集計した16例の報告では,5例にTAEが施行されていたが,このうち 3例で待機的に胆囊摘出術が追加されていた.残る1例はTAE直後に心不全増悪で死亡しており9),TAEのみで経過観察しえたのは自験例のみであった.これらの検討から,TAEはあくまで出血をコントロールして緊急手術を回避するための手段であり,全身状態が安定した後に,根治的に胆囊摘出術を行うのが原則と考えられる.また,自験例を除いた15例中4例では,遺残血腫のドレナージのために総胆管切開,CチューブやTチューブによる外瘻化が行われていた4)8)11)13).さらに,待機的手術であれば,より侵襲の少ない腹腔鏡下胆囊摘出術を安全に施行できたとの報告もあり6)13).胆囊動脈仮性瘤の治療方針はTAEによる止血を先行させ,根治治療として胆囊摘出と個々の病態に応じた胆道ドレナージを検討するのが良いと考えられた.
本症例では,胆囊動脈に対してTAEを行うも,抗菌薬投与により壊死性胆囊炎への移行を回避できた.一方,胆囊周囲側副血行路の発達により,後区域動脈由来の分枝から再出血するも,再度のTAEにより止血できた.今後,炎症のコントロールがつけば仮性動脈瘤は形成されない可能性がある.また,本症例では胆囊十二指腸廔から感染胆汁や胆囊結石,胆道内遺残血腫が自然ドレナージされ,胆囊摘出術を行わなくても経過観察可能であったと考えられた.胆囊十二指腸廔については,日本消化器病学会の「胆石症診療ガイドライン」によると,本症例のような場合,胆囊摘出術と廔孔閉鎖を行うべき(グレードB)と述べられている24)が,胆道内に遺残結石がなく,胆道内圧が低下していれば自然閉鎖することもあり19)20),経過観察も可能な場合もありうる.出血源が悪性腫瘍である場合があり,また胆囊十二指腸廔による長期的な消化液暴露に起因した発癌の可能性も考えられるため,本例のように胆囊摘出を行わない場合,悪性腫瘍の発生の可能性を念頭に置き,今後も注意深い経過観察が必要と考える.
利益相反:なし