The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
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CASE REPORT
A Case of Isolated Duodenal Varix Rupture Treated with Laparotomy Hemostasis Surgery in a Hybrid Operating Room
Yuta MatsuoYasuhiro YuasaMizuki FukutaHidenori MakiTaihei TakeuchiTakao TsunekiOsamu MoriShohei EtoSatoshi FujiwaraAtsushi Tomibayashi
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2021 Volume 54 Issue 2 Pages 91-97

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Abstract

症例は36歳の男性で,下血,意識消失を主訴に紹介された.貧血,血圧低下を認めたため,緊急上部消化管内視鏡検査を行った.十二指腸下行脚背側に出血性の静脈瘤を認め,内視鏡,およびballoon-occluded retrograde transvenous obliteration(B-RTO)では止血困難であったため,開腹止血術を施行した.静脈瘤を十二指腸壁ごと縫縮し,術中内視鏡,interventional radiology(以下,IVRと略記)にて静脈瘤への供血がないことを確認した.本症例では肝硬変などの基礎疾患や,門脈圧亢進症を示唆する所見を認めない,孤立性の十二指腸静脈瘤であり,その報告はまれである.静脈瘤の治療は,内視鏡やIVRが第一選択となるが,止血困難例では外科的治療の適応であり,その場合,hybrid手術室での手術が有用と思われる.

Translated Abstract

The patient was a 36-year-old man with chief complaints of melena and syncope. He had anemia and decreased blood pressure, and underwent emergency upper gastrointestinal endoscopy. A hemorrhagic varix was found in the descending part of the duodenum. It was difficult to stop bleeding by endoscopy and balloon-occluded retrograde transvenous obliteration (B-RTO); therefore, laparotomy was performed in a hybrid operating room. The varix was ligated together with the duodenal wall, and no blood transfer to the varicose vein was confirmed by intraoperative endoscopy and interventional radiology. This case is a rare example of an isolated duodenal varix with no underlying disease such as liver cirrhosis or findings suggestive of portal hypertension. Endoscopy and interventional radiology are the first-line treatments for varices, but surgery is indicated in cases with difficulty with hemostasis, and performance of this surgery in a hybrid operating room may be useful.

はじめに

十二指腸静脈瘤は異所性静脈瘤の一つで,Alberti1)により初めて報告された.食道胃静脈瘤に比べて,その発生頻度は低く,一旦破裂出血を来すと,治療に難渋し,豊富な血流量から致死的となることが少なくない.その疫学ならびに診断,治療法に関しては一定の見解は得られていないが,近年,報告例が増加している.静脈瘤の原因として肝硬変などの基礎疾患に起因する門脈圧亢進症や,肝外門脈閉塞症,Budd-chiari症候群など,もしくは特発性の門脈圧亢進症によるものの報告がほとんどである2).今回,我々は門脈圧亢進症を伴わない孤立性の十二指腸静脈瘤破裂に対して緊急開腹手術を行い,救命しえた1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:36歳,男性

主訴:下血,意識消失

既往歴:骨髄異形成症候群(同種骨髄移植後),軽度肝機能異常

家族歴:特記すべきことなし.

現病歴:某日午前から黒色便が見られており,その後複数回の鮮血便を認めていた.翌日,未明に意識消失発作を認めたため,前医を受診したところ,貧血の進行を認め,単純CTにて下部消化管内の出血を指摘され,精査,加療目的で当院に救急搬送となった.

入院時現症:身長170 cm,体重62 kg,体温37.3°C,脈拍106回/分,血圧129/67 mmHgと軽度の頻脈は認めるものの,意識は清明であった.眼瞼結膜に貧血を認め,腹部は平坦,軟,圧痛はなく,腸蠕動音は正常であった.

血液生化学検査所見:Hb 7.0 g/dlと貧血を認めたが,その他に血小板減少や肝機能障害,凝固異常などは認めず,感染症は陰性であった(Table 1).

Table 1  Laboratory data on admission
Hematology Blood chemistry
Ht 21.2% Na 136 mEq/l
RBC 226×104/μl K 4.9 mEq/l
Hb 7.0 g/dl AST 28 U/l
WBC 13,880/μl ALT 19 U/l
Plt 19.4×104/μl ALP 187 U/l
γ-GT 41 U/l
Blood coagulation LDH 225 U/l
PT-INR 1.11 BUN 21 mg/dl
APTT 25.2 sec Cr 0.52 mg/dl
T-Bil 0.6 U/l
Viral marker CRP 0.36 mg/dl
HBs Ag (−)
HBs Ab (−)
HBc Ab (−)
HCV Ab (−)

胸腹部造影CT所見:上行結腸からS状結腸にかけてhigh density areaを認めた.腹水,肝臓の萎縮や辺縁不整などは認めなかった.脾腫や胃食道静脈瘤などの門脈圧亢進を疑う所見も認めなかったが,十二指腸周囲にのみ静脈瘤を認めた.血管3D構築像にて,静脈瘤は上腸間膜静脈など門脈系から流入し,下大静脈へと流出していることが示唆された(Fig. 1).

Fig. 1 

CT imaging. (a, b, c) There was no gastroesophageal varix, splenomegaly, or cirrhosis of the liver. (d) The varices were located only in the duodenal wall (arrow). (e) 3D construction image. The purple line shows portal venous flow, the light blue line is the inferior vena cava, and the yellow line is the duodenal varix. (f) Blood of the varix flowing out into the inferior vena cave (arrow).

入院後,排便時に多量の黒色便を認め,同時に顔面蒼白,意識消失を来した.血圧100/mmHg,脈拍120回/分と急激な血圧の低下,頻脈を来したため,緊急で上部消化管内視鏡検査を行った.

上部消化管内視鏡検査所見:胃内には多量の血餅を認めたが,十二指腸内には活動性の出血はなく,十二指腸下行脚の背側にて静脈瘤を認めた.同部位に赤色栓を認め,出血源と判断し,内視鏡的止血術が検討されたが,合併症の危険性や根治性などを鑑み,内視鏡的治療は断念し,静脈瘤の口側に添墨,クリッピングを行い,処置を終了した(Fig. 2).

Fig. 2 

Upper gastrointestinal endoscopy showed a varix in the descending part of the duodenum (circle).

その後,balloon-occluded retrograde transvenous obliteration(B-RTO)を試みたが,目標の血管へのカテーテル到達が困難であったため断念し,hybrid手術室での開腹手術の方針となった.

手術所見:腹部正中切開にて開腹し,Kocher授動にて十二指腸を背側まで授動した.頭側の膵下縁レベルでは,門脈から十二指腸に流入する静脈瘤を,尾側では下大静脈に流出する静脈を同定した(Fig. 3a).術中上部消化管内視鏡にて十二指腸を観察しながら頭側と尾側の静脈瘤をそれぞれ結紮したが,静脈瘤は若干の縮小が得られるのみで明らかな効果は認められなかった.続いて十二指腸壁に流入している血管を露出し,これを十二指腸壁ごと全層で3-0吸収性編糸にて3針結紮した(Fig. 3b).内視鏡にて静脈瘤が縮小したことを確認し,さらに上腸間膜動脈より動脈造影を施行した.静脈瘤内に造影剤の流入がないことを確認し,手術を終了した(Fig. 4).

Fig. 3 

Flipping the duodenum. (a, b) The black ink is a landmark in the endoscopy procedure. The yellow arrow indicates the duodenal varix (a) and ligated varix (b). In the lower figure, the blue circle indicates that the varix was ligated (c, d).

Fig. 4 

No blood flow in the varix was confirmed on intraoperative endoscopy (a, circle) and IVR (b).

術後出血はなく,その後も貧血の進行や肝機能障害の増悪は認めなかった.術後7日目,内視鏡検査を施行したところ,術前と比較して静脈瘤の緊満感は消失しており,造影CTでも十二指腸静脈瘤は消失していた.経過良好にて第13病日に軽快退院となった.現在,術後2年半年が経過し,再発を認めていない.

考察

門脈圧亢進症では側副血行路が形成され,食道胃静脈瘤に代表されるように,さまざまな消化器系臓器に静脈瘤を発生させる.それらの静脈瘤を総称して異所性静脈瘤といい,比較的まれな病態である.異所性静脈瘤の一つである十二指腸静脈瘤は,1931年にAlberti1)によって初めて報告され,本邦では1968年に西岡ら3)によって報告されて以来,報告例は増加傾向である.その頻度は門脈圧亢進症患者の約0.4%といわれ,まれな病態とされているが4),食道,胃以外に発生する異所性静脈瘤の32.9%が十二指腸静脈瘤であったと報告されており5),近年,報告例は増加してきている.

本邦における原因疾患としては,肝硬変が最も多く78.9%を占め,胆管炎,膵炎,膵癌に起因する肝外門脈圧亢進症が14%,特発性門脈圧亢進症は3.5%と報告されている5).また,最近では,oxaliplatinによる十二指腸静脈瘤の報告を認めており6),薬剤の関与も指摘されているほか,血栓症との関連も示唆する報告も認めている7)

本症例では,6年前に骨髄異形成症候群を発症し,化学療法azacitidineの投与を開始されていた.発症して約1年後に同種骨髄移植が施行されたが,それ以降は免疫抑制剤などの治療は終了している.軽度の肝機能障害を認め,骨髄移植後の慢性移植片対宿主病(graft-versus-host disease;以下,GVHDと略記)が疑われたが,はっきりとした診断はされていなかった.

今回の孤立性の十二指腸静脈瘤の原因として,骨髄異形成症候群,azacitidineの薬剤性,骨髄移植による慢性GVHDなどが考えられる.医学中央雑誌(1964年~2019年9月)およびPubMed(1950年~2019年9月)にて「骨髄異形成症候群」,「骨髄移植」,「GVHD」と「肝硬変」,「静脈瘤」などをキーワードに検索を行うと(会議録を除く),GVHDが原因となり肝硬変にいたった報告や輸血過剰によるヘモクロマトーシスから肝硬変を呈することで静脈瘤を来すという報告は散見され8)~11),いずれも肝硬変や門脈圧亢進症を伴うことで静脈瘤形成に至っていた.また,薬剤の関与に関して,azacitidineの副作用には肝障害の記載を認めるが,それによる肝硬変や門脈圧亢進症,静脈瘤形成などの報告は認めていない12).本症例も過去にはGrade 1(Common Terminology Criteria for Adverse Events)の軽度の肝逸脱酵素の上昇を認めていたが,その後は改善し,ビリルビンの上昇や血小板の低下は認めていなかった.また,画像所見上も肝硬変の所見や脾腫,食道胃静脈瘤などの門脈圧亢進を示唆するような所見や,血栓形成も指摘されていなかったため,静脈瘤の原因ははっきりとしていない.文献上,原因となる基礎疾患がなく,門脈圧亢進を来さない孤立性十二指腸静脈瘤の報告は数少ない13).本症例でも静脈瘤形成に関して,GVHDや薬剤の関与は否定できないものの,直接的な原因とも断定しがたく,極めてまれな症例と思われた.

静脈瘤の治療に関しては,無症状であれば無治療で経過観察することが多いが,静脈瘤破裂の際には緊急での内視鏡やinterventional radiology(以下,IVRと略記),もしくはその併用での治療が必要となる.外科的治療としては,静脈瘤結紮術および切除術,シャント手術などがあるが14)~16),肝機能不良例では治療関連死が30%と高度であり,第一選択となることは少ない17).本症例のように,内科的治療が困難な出血例に対しては,外科的治療の適応と思われ,その際には,術中の出血部位の同定や結紮術の効果判定のために,術中内視鏡やIVRを行うことのできるhybrid室での手術が非常に有用であると考える.

近年,食道胃静脈瘤に対する内視鏡治療やIVR治療が確立し,門脈圧亢進症患者の生存期間が延長してきており,それに加えて,画像診断の進歩により異所性静脈瘤を経験することが多くなってきている.今後の症例の蓄積と治療指針の確立が必要と考えられる.

謝辞 本症例において検査,ならびに救命処置にご協力いただいた徳島赤十字病院放射線科 武知克弥先生,城野良三先生,消化器内科 山本英司先生に深く感謝いたします.

利益相反:なし

文献
 

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