日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
十二指腸壊死に対し緊急膵頭十二指腸切除を施行し二期的再建により救命しえた1例
河合 典子近江 亮頼永 聡子真木 健裕金古 裕之三栖 賢次郎猪俣 斉立野 正敏平野 聡
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2021 年 54 巻 7 号 p. 456-463

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Abstract

症例は67歳の女性で,腹痛を主訴に当院へ救急搬送された.腹部CTで腹腔内遊離ガスを認め穿孔性腹膜炎の診断で緊急手術を施行した.術中所見では十二指腸に多発の穿孔と広範な粘膜壊死を認め,十二指腸壊死による穿孔性腹膜炎と診断した.壊死範囲は球部からVater乳頭に及び,膵頭十二指腸切除(pancreatoduodenectomy;以下,PDと略記)を施行した.ショックバイタルであり,damage control surgeryの概念から消化管は非再建で手術を終了した.循環動態の安定化を図り,初回手術から約72時間後に,二期的消化管再建を施行した.術後吻合部出血などの合併症を認めたが,第65病日にリハビリ病棟に転棟となった.外傷や出血に対し,緊急でPDを施行した報告は散見されるが,十二指腸壊死に対するPDを施行した本邦の報告例はなく,その治療経過を病態の考察を含めて報告する.

Translated Abstract

A 67-year-old woman was transferred to our hospital because of severe abdominal pain. An abdominal CT scan showed free air and fluid collection in the peritoneal space. Under a diagnosis of panperitonitis due to duodenal perforation, an emergency operation was performed. On laparotomy, multiple duodenal perforations were observed. Furthermore, extensive mucosal necrosis was present from the duodenal bulb to the second part beyond the papilla of Vater. Emergency pancreatoduodenectomy was performed, but digestive tract reconstruction was abandoned as damage control because the patient entered a shock state. After external fistulation tubes were placed in the bile duct, pancreatic duct and stomach, the abdominal wall was closed. Two-stage surgery for digestive tract reconstruction was performed 72 hours after the first surgery when the systemic condition had stabilized. Although complications such as bleeding, thyroid crisis, and intractable arrhythmia occurred postoperatively, the patient recovered and was moved to a rehabilitation ward 65 days after the first surgery. Emergency pancreatoduodenectomy due to duodenal injury or bleeding is relatively rare, and there has been no report of pancreatoduodenectomy for panperitonitis due to duodenal necrosis. Thus, we report this case as a rare use of this treatment.

はじめに

膵頭十二指腸切除(pancreatoduodenectomy;以下,PDと略記)は消化器外科領域でも高侵襲手術の一つであり,緊急時に本術式が選択されることはまれである1).今回,我々は十二指腸壊死に対する緊急手術でPDを施行後,二期的に消化管再建を行い救命しえた1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

症例

患者:67歳,女性

主訴:腹痛

既往歴:高血圧,不安定狭心症,発作性心房細動,頸動脈狭窄症,甲状腺機能亢進症

内服薬:抗凝固薬,抗血小板薬,プロトンポンプ阻害薬,アセトアミノフェンなどを定期的に内服していた.非ステロイド性消炎鎮痛薬の服用はなかった.

現病歴:強い腹痛を認め,症状の改善なく発症から約12時間後に当院へ救急搬送となった.

来院時現症:意識清明,体温37.7°C,血圧73/48 mmHg,脈拍110回/分,呼吸数40回/分,SpO2 92%(O2 経鼻カニューレにて1.5 l投与下)

血液生化学検査所見:WBC 8,450/μl,CRP 4.83 mg/dlと炎症反応上昇と,Plt 20.5×104/μ,FDP 17.7 μg/ml,PT比2以上と凝固異常を認めた.来院後24時間の血液検査でPltは9.2×104/μlと50%以上の減少を認め,急性期DICスコア4点でDICの診断基準を満たしていた.

単純CT所見:上腹部を中心に腹水と腹腔内遊離ガス像を認め,十二指腸球部で腸管壁の途絶を認めた(Fig. 1a).十二指腸下行脚の腸管壁は浮腫状であった(Fig. 1b).

Fig. 1 

An abdominal CT scan (coronal section) showed free air, fluid collection and disruption of the duodenal wall (a). A sagittal section of the CT scan showed severe edema of the duodenal wall (b).

以上より,十二指腸穿孔による汎発性腹膜炎および敗血症性ショックの術前診断により,緊急手術を施行した.

初回手術所見:上腹部正中切開で開腹した.開腹すると腸液主体の多量の腹水を認めた.腹腔内を観察すると,十二指腸球部前壁に約3 cm大の穿孔を2か所認め,直接縫合や大網充填での処置では不可能と判断した.

全消化管を確認したが,ほかに明らかな虚血や穿孔の所見は認めなかった.自動縫合器を用いて幽門輪から口側3 cmの部位で胃を切離した.十二指腸を授動しながら穿孔・壊死に陥った部分を可及的に切除していったが,十二指腸球部全体まで潰瘍が広がり,球部から下行脚までの粘膜は全体に壊死に陥っていることが明らかとなった(Fig. 2).壊死範囲はVater乳頭部まで及んでいることが判明した時点で,術式を PDと決定した.高容量のカテコラミンを要する循環動態不安定な状況であったこと,汎発性腹膜炎の状態であったことから消化管吻合はリスクが高いと判断し,消化管再建は行わず,外瘻の方針とした.胆管は胆管チューブを留置し丸縛りで固定した.膵臓は電気メスで切離後,5 Fr膵管チューブを膵管に留置し,膵実質に糸をかけ実質ごと寄せるようにチューブを固定した.胃には胃瘻チューブを留置した.ドレーンを挿入し,閉腹し手術を終了した.手術時間は3時間16分,出血量1,172 ml,術中輸血は赤血球濃厚液2単位,新鮮凍結血漿4単位であった.手術終了後も循環動態が不安定であったため,人工呼吸器管理のまま病棟に帰室した.

Fig. 2 

Intraoperative findings showed multiple duodenal perforations and a necrotic lesion spreading from the duodenal bulb to the second part, including the papilla of Vater.

摘出標本肉眼所見:十二指腸に多発の穿孔(Fig. 3a)と,Vater乳頭部及ぶ広範な壊死を認めた(Fig. 3b).

Fig. 3 

Macroscopic findings of the specimen showed multiple perforations (a) and widely spread necrosis of duodenum mucosa, including the papilla of Vater (b).

病理組織学的検査所見:十二指腸は広範囲に壊死を認め,壁構造は消失していた(Fig. 4a, b).リンパ球や好中球を含む炎症細胞浸潤や出血が膵組織まで及んでいた(Fig. 4c).明らかな血栓の所見は認めなかった.

Fig. 4 

Microscopic findings revealed extensive mucosal necrosis and multiple breaks in the wall of the duodenum (a, b). Infiltration of inflammatory cells, including lymphocytes and neutrophils, and hemorrhage had spread to the pancreatic parenchyma (c). No obvious thrombus was observed.

初回術後経過:術直後はノルアドレナリン0.25 γおよび,ドパミン3 γの投与と大量輸液を必要とする敗血性ショックの状態であったが,第2病日よりカテコラミンの漸減が可能となり,第3病日に離脱可能であった.その後,循環・呼吸状態が安定しているのを十分に確認した第4病日,初回手術から約72時間後に,消化管再建目的に再開腹術を施行した.

再手術所見:再開腹すると,上腹部を中心とした広範な癒着を認めたが,汚染腹水は認めなかった.肝下面から膵頭十二指腸切除部にかけては炎症による比較的強い癒着を認めたが,鈍的に剥離が可能であった.総胆管・膵臓・腸管の色調は良好であり,Child変法(Braun吻合あり)にて消化管再建を行った.膵管チューブは初回手術で留置したものをそのまま使用しBlumgart変法で膵空腸粘膜吻合を行った.胆管チューブは新しく再留置し胆管空腸吻合とした.ドレーンを膵空腸吻合部背側に追加し,閉腹,手術を終了した(Fig. 5).手術時間は1時間50分,出血量は50 mlであった.人工呼吸器管理のまま病棟に帰室した.

Fig. 5 

Second-stage surgery for reconstruction of the digestive system was performed 72 hours after the first operation.

再手術後経過:再手術後は発作性心房細動による高度頻脈を併発しコントロールに難渋したが,それ以外の循環・呼吸状態は概ね安定して経過した.第5病日に人工呼吸器を離脱し,経腸栄養を開始した.第6病日にバイアスピリンとリクシアナを再開,第7病日から食事を再開したが,第9病日に消化管出血を来し,緊急上部消化管検査を必要とした.胃空腸吻合部から毛細血管性出血を来していたが,トロンビンを塗布し,止血を確認して検査を終了した.また,甲状腺ホルモンの著明な上昇があり,甲状腺クリーゼと診断され投薬加療を必要とした.第21病日に心室頻拍を発症し,R on Tから徐脈へと変化した.精査により,抗不整脈薬中毒による高度徐脈と診断されたが,心室頻拍を引き起こした明らかな原因は特定できず,第27病日にICD埋め込みが行われた.第30病日に胆管チューブを抜去し,第32病日に膵管チューブを抜去,第35病日に胃瘻チューブを抜去した.第65病日にリハビリ病棟に転棟し,現在退院に向けてリハビリテーションを継続中である.

考察

PDは消化器外科領域において,高難度・高侵襲手術の一つであり,定期手術においても患者要因・医療側要因いずれも十分な準備が必要である.しかしながら,緊急的にPDを行わざるをえない状況はまれながら存在し,外傷による膵頭十二指腸の高度損傷により主膵管と十二指腸の連続性が断たれたものや,膵臓,十二指腸の血行障害例に限られる1)2).実際,そのような救急患者では全身状態が不良なことが多く,救命の観点からはリスクの高い一期的再建を避けるべきと考えられる.外傷や出血に対し,緊急でPDが施行され二期的に消化管再建を行った報告は散見される3)4)が,自験例のように十二指腸に限局した十二指腸壊死に対してPDを施行し,二期的再建を施行した報告は,医学中央雑誌(1964年~2020年)で「十二指腸壊死」,「膵頭十二指腸切除」,「二期的再建」をキーワードに検索したかぎり(会議録除く),本邦で初めての報告である.

Damage control surgeryは外傷領域で広く認識される概念であり,損傷に対する速やかなコントロールのみを行い,根本治療を行うことなく,手術操作を最小限に抑える外科的治療戦略を指す5)6).穿孔性腹膜炎時も,敗血症性ショックにより全身状態が極めて不良なことが多く,時として外傷手術時と同様にDCSの概念を念頭に置いた手術が必要である.自験例も敗血症性ショックを来しており,循環動態が非常に不安定な状態であった.手術操作を最小限にとどめるといった点からは,ドレーンのみを挿入して初回手術を終えることも選択肢として考えられたが,壊死腸管の除去は敗血症に対する治療としては必要な操作であると考え,可及的に壊死腸管の切除を行ったが,壊死範囲がVater乳頭部に及んでおり,結果的に緊急でのPDを選択した.消化管再建は全て全身状態の安定化を図ったうえで二期的に行う方針とし,胆管・膵管・胃を外瘻化とすることで手術操作を最低限のものとした.

膵損傷に対するDCS後の二期的再建時期については,24~72時間の急性期に行われることが多い1)が,受傷から3~4か月後に二期的再建を行った報告も散見される4)7)8).佐藤ら4)の報告では約4か月後に二期的再建を試みているが,膵臓・胆管断端が硬い瘢痕組織に覆われており,通常の吻合を行うためには瘢痕組織の除去が必要で,膵液漏は必発と考えられたことから元のチューブを空腸に内瘻化する形で手術を終えている.自験例では術後約48時間で循環動態が安定しカテコラミンから離脱したため,術後約72時間後に二期的に消化管再建を施行した.腹膜炎後で腹腔内の癒着は認めたが,鈍的な剥離が可能な癒着であった.胆管断端,膵臓断端,空腸断端の露出は比較的容易であり,腸管状態も良好であったことからChild変法による再建を施行した.膵臓断端の状態は良好で,鹸化の所見もみられなかった.膵管チューブおよび胃瘻チューブは初回手術に留置したものをそのまま利用し,胆管チューブは新しいチューブに入れ替えて消化管再建を行った.胆管,膵臓の再建操作は通常の待機手術と同様に困難なく行うことが可能であり,術後は胆汁漏,膵液漏の合併もなかったことから,PD後の二期的再建までの期間として72時間は適正な範囲に含まれると考えられた.

今回,初回手術はDCSとして切除のみにとどめたが,膵頭部外傷に対し緊急PDを行い一期的再建にて救命に至っている報告も散見する9)10).しかし,これらの報告では術前・術中のバイタルサインが安定していたとされており,膵頭部の十二指腸を含めた広範な損傷で,特に循環動態が不安定な症例は二期的再建が有用とされ11),さらに,膵頭部高度損傷の場合は常にDCSを考慮することが重要とされている10).近年,外傷治療におけるDCSの概念は内因性疾患に対しても有用とされ12)~14),実際,自験例では外傷症例ではなく上記報告と一概に比較はできないが,敗血症性ショックにより高容量カテコラミンが必要であり,翌日にはDICを呈する状態であったことから,二期的再建は妥当な選択であったと考えられる.

本例の十二指腸穿孔は広範な壊死を主体としており,血行障害による十二指腸壊死に起因した穿孔であったと考えられるが,十二指腸は腹腔動脈の分枝である上膵十二指腸動脈と,上腸間膜動脈の分枝である下膵十二指腸動脈から栄養されるため,虚血に陥ることはまれである15)16).虚血性十二指腸炎の報告は散見される15)17)18)が,いずれも保存的治療による改善を認めており,虚血により壊死に至るケースはまれと考えられた.虚血の原因としては血管側因子と腸管側因子があるとされ,前者としては主要動脈閉塞・小血管病変・静脈閉塞などが,後者としては腸管内圧の上昇があり,さまざまな要因が複雑に関与していると報告されている15).全身の低還流状態が2時間以上持続すると,通常の腸管であれば末梢の腸間膜動脈の交感神経が過剰に反応し血管攣縮を引き起こすとの報告もある19)が,腸間膜を有しない十二指腸球部や下行脚においてこの病態が起こる可能性は低いと考えられた.ただし,自験例では,基礎疾患に冠攣縮性狭心症と発作性心房細動があり,術後も循環管理に難渋したことから,一時的な血栓閉塞から低還流状態の陥り,高度な動脈硬化が影響して広範な虚血壊死をじゃっ起した可能性が考えられた.腸管内圧上昇に関しては,食後の発症症例や経管栄養により粘膜所見の増悪を認めた症例が散見される15)20)が,腸管通過障害を認めていないことから,腸管内圧上昇が一因となった可能性は低い.

血管側因子の一つとして,非閉塞性腸間膜梗塞症(non-occlusive mesenteric ischemia;以下,NOMIと略記)による虚血の可能性を否定はできない.Heerら21)はNOMIの特徴として,1)腸管壊死の領域に相当する腸間膜動脈あるいは静脈に閉塞が認められないこと,2)腸管の虚血および,壊死が分節状で非連続的であること,3)病理学的に腸管に出血および壊死の初見を呈すること,といった基準を挙げている.一方で,虚血の重症度は大きな幅があることから鈴木ら22)は,“腸間膜血管に器質的な閉塞を認めないにもかかわらず,その支配領域の腸管に虚血性病変を発症する疾患”と広義にとらえるが妥当としている.一般に,本症は上腸間膜動脈領域に後発するが,十二指腸における発症例も報告されており23),自験例では十二指腸球部から下行脚にかけて広範な連続性の粘膜あるいは全層性の壊死であるものの,病理学的所見からは NOMIの病態として理解することは可能である.

十二指腸壊死による穿孔性腹膜炎に対し,緊急で膵頭十二指腸切除を要した症例を経験した.緊急時のPDの選択は慎重になる必要があるが,Vater乳頭に及ぶ十二指腸壊死では他に選択肢はない.全身状態不良時にはDCSの概念から二期的消化管再建を選択することにより,救命可能となる.緊急時においても確実な操作を行えるよう,日常の定期手術時において手技の正確性を高めておくべきと考えられた.

利益相反:なし

文献
 

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