The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
Forty-Five Pancreatic Gastrinomas in Multiple Endocrine Neoplasia Type 1: A Case Report
Miku IwataKatsunori SakamotoTakashi MatsuiYusuke NishiTomoyuki NagaokaKei TamuraNaotake FunamizuAkihiro TakaiKohei OgawaRiko KitazawaSohei KitazawaYasutsugu Takada
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2021 Volume 54 Issue 9 Pages 622-629

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Abstract

症例は49歳の女性で,多発性内分泌腫瘍症1型(multiple endocrine neoplasia type 1;以下,MEN-1と略記)の診断で経過観察中に,ダイナミックCTで膵臓に複数の多血性腫瘍を指摘された.超音波内視鏡検査で膵鉤部,膵体部,膵尾部に低エコー腫瘤を認め,穿刺吸引細胞診の結果,神経内分泌腫瘍と診断した.選択的動脈内刺激薬注入試験では,膵臓の栄養血管の全てにおいて血清ガストリン値の上昇を認めた.多発膵ガストリノーマと診断し,膵全摘術+D2郭清を施行した.病理学的に数えうるかぎり45個の微小病変を膵全体に認め,リンパ節転移を伴っていた.45個の膵神経内分泌腫瘍は既報告の中で,最多個数であった.術後1年9か月経過しており,無再発生存中である.MEN-1に伴うガストリノーマは,散発性と比較して悪性度が高く,微小病変が多発する特性を持つことを考慮し,適切な術式選択を行う必要がある.

Translated Abstract

The patient was a 49-year-old woman who had been diagnosed with multiple endocrine neoplasia type 1 (MEN-1). Dynamic contrast-enhanced CT indicated several hypervascular tumors in the pancreas. Endoscopic US showed low-echoic lesions in the uncinate process and the tail and body of the pancreas, and a diagnosis of pancreatic neuroendocrine tumor was made by fine-needle aspiration. A selective arterial secretagogue injection test indicated an increased serum gastrin level and was considered positive in all feeding arteries of the pancreas. Under a diagnosis of MEN-1 with multiple pancreatic gastrinomas, total pancreatectomy with D2 lymph node dissection was performed. Histopathological findings showed 45 or more microgastrinomas in the whole pancreas with lymph node metastases. At 21-month follow-up, the patient remained disease-free. This case shows the need for selection of appropriate surgical treatment given that gastrinomas in MEN-1 have higher malignancy and are characterized by multiple microlesions, rather than sporadic gastrinomas.

はじめに

多発性内分泌腫瘍症1型(multiple endocrine neoplasia type 1;以下,MEN-1と略記)は種々の内分泌臓器に過形成,腺腫,癌を発生する常染色体優性遺伝性疾患である.MEN-1患者の約60%が膵・消化管神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor;以下,NETと略記)を合併し,その多くが悪性頻度の高いガストリノーマである1).MEN-1に合併するガストリノーマは,十二指腸や膵臓に微小病変が多発するため,各種の術前検査で十分な局在診断を行ったうえで,リンパ節郭清を伴う術式を選択する必要がある.今回,MEN-1に合併した,既報告の中で最多個数の膵NETと病理学的に診断した症例を経験したため,若干の文献的考察を加えて報告する.

症例

患者:49歳,女性

主訴:無症状

既往歴:胃潰瘍,副甲状腺機能亢進症(副甲状腺全摘術,自家移植術),2型糖尿病,高血圧症,下垂体腺腫,十二指腸潰瘍

内服歴:アムロジピンベシル酸塩,カンデサルタンシレキセチル,ロスバスタチンカルシウム,メトホルミン塩酸塩,グリメピリド,ピオグリタゾン塩酸塩,デュラグルチド

家族歴:母が副甲状腺機能亢進症,甲状腺疾患,膵疾患.兄が副甲状腺機能亢進症.長男が副甲状腺機能亢進症.

現病歴:副甲状腺機能亢進症,下垂体腺腫,2型糖尿病で当院内分泌内科に通院中であった.定期的に施行していたダイナミックCTで膵体部,膵尾部に早期濃染される複数の腫瘍性病変や囊胞性病変を指摘され,精査加療目的に当科へ紹介となった.

入院時現症:身長149 cm,体重86.8 kg,腹部は平坦,軟,圧痛なし.

血液生化学的検査所見:血清ガストリンは993 pg/ml(基準値<200 pg/ml)と高値,血清グルカゴンは243 pg/ml(基準値70~174 pg/ml),血清インスリンは9.4 μU/ml(基準値2.19~9.89 μU/ml)であった.CEAは4.2 ng/mlと基準範囲内,CA19-9は67 U/mlと軽度上昇していた.Hbは14.7 g/dl,Albは4.2 g/dlであった.

ダイナミックCT所見:膵体部に8 mm大,膵尾部に10 mm大の早期相から門脈相にかけて造影効果を示す多血性腫瘍を認めた(Fig. 1a, b).膵尾部の腫瘍は石灰化を伴っていた.膵体部には囊胞性病変が散見された(Fig. 1c, d).明らかなリンパ節腫大や肝転移は認めなかった.

Fig. 1 

Abdominal dynamic contrast-enhanced CT findings. a, b) Hypervascular tumors were present in the pancreatic body and pancreatic tail (arrowheads). c, d) Multiple cystic lesions were also present in the pancreatic body (arrows).

上部消化管内視鏡検査所見:胃体部,前庭部に慢性胃炎を認めた.十二指腸球部に潰瘍瘢痕を認めた.

超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography;以下,EUSと略記)所見:膵鉤部に7 mm大,膵体部に10 mm大,膵尾部に13 mm大の比較的境界明瞭な低エコー腫瘤を認め(Fig. 2a~c),ソナゾイド造影ではいずれも早期から均一に造影された.また,膵全体に囊胞性病変が散在していた.膵体部の低エコー腫瘤へ穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration;以下,FNAと略記)を施行し,クロマチンが濃染した好酸性の細胞質を有する円形細胞を認めた.免疫染色検査ではsynaptophysin(+),chromogranin(+),CD56(+)でNETと診断した.

Fig. 2 

Endoscopic US findings. Hypoechoic tumors were present in the uncinate process (a), pancreatic body (b) and pancreatic tail (c) (circled with dashed lines).

選択的動脈内刺激薬注入試験(selective arterial secretagogue injection test;以下,SASI testと略記)所見:血清ガストリン値が前値より20%以上の上昇かつ絶対値で80 pg/mlの上昇がみられた動脈を陽性と定義した.胃十二指腸動脈領域,上腸間膜動脈領域,脾動脈遠位領域,脾動脈近位領域において血清ガストリン値の上昇を認め,陽性と判定した(Fig. 3).

Fig. 3 

Results of a selective arterial secretagogue injection test. Serum gastrin levels were elevated after injection of a secretagogue in all feeding arteries of the pancreas. *Positive defined as “serum gastrin increased twofold and was >80 pg/ml after administration” in guidelines.

ソマトスタチン受容体シンチグラフィ所見:腫瘍部位を含めて有意なトレーサー集積は認めなかった.

以上より,膵鉤部,膵体部,膵尾部に多発するNET(ガストリノーマ)と診断した.SASI testにて,膵臓の栄養血管全てで陽性であったことから,膵全摘術を選択した.

手術所見:亜全胃温存の膵全摘術およびD2リンパ節郭清を施行した.手術時間は463分,出血量は910 gであった.

病理組織学的検査所見:膵鉤部から膵尾部にかけて5~10 mmの白色充実性腫瘍を4個認め,背景には2~3 mm大の腫瘍がびまん性に多数分布していた(切除標本上,同定可能な腫瘍は45個であった)(Fig. 4a, b).腫瘍には,核小体や核分裂像が目立たず,間質は好酸性でアミロイド沈着を伴う円形細胞を認めた.Synaptophysin(+),chromogranin(+),CD56(+),Ki-67 labelling indexは3%でNET,G2と診断した(Fig. 5a~c).ガストリンについては腫瘍部,非腫瘍部いずれも陰性であり,評価困難であった.リンパ節6,12aに転移を認めた.十二指腸には腫瘍を認めなかった.膵臓には複数の単純囊胞を認めた.

Fig. 4 

a) Macroscopic findings for the pancreatic head. The specimens are placed in order from the top left from the cranial side to the caudal side. b) Macroscopic findings for the pancreatic body to tail. The specimens are placed in order from the top left from the right to left side of the patient. There were 45 neuroendocrine tumors in the whole pancreas (circled in yellow lines). Most of the tumors were 2–3 mm in diameter, and the largest tumor was 10 mm in diameter.

Fig. 5 

Microscopic findings for the pancreas tumor. a) HE, ×20. b) HE, ×200. Round cells with inconspicuous nucleoli and fission were found. c) The Ki-67 labelling index was 3% in the tumor.

術後経過:術後経過良好で,術後24日目に退院した.術後,プロトンポンプインヒビターを内服した状態で血清ガストリン値は正常化(140 pg/ml)した.術後1年9か月経過しており,無再発生存中である.

考察

MEN-1に合併した45個の膵ガストリノーマに対して,膵全摘による根治的切除例を経験した.医学中央雑誌で1964年から2020年4月の期間で「膵神経内分泌腫瘍」,「ガストリノーマ」,「MEN-1」,PubMedで1950年から2020年4月の期間で「neuroendocrine tumor」,「pancreas」,「gastrinoma」,「MEN-1」をキーワードとして検索した結果,本症例の45個の膵神経内分泌腫瘍は既報告の中で,最多個数であった.MEN-1は副甲状腺機能亢進症,下垂体腺腫,膵・消化管NETを主徴とする常染色体優性遺伝性疾患である.臨床的には,副甲状腺機能亢進症,下垂体腺腫,膵・消化管NETのうち二つ以上を有する場合に診断される.本症例は,副甲状腺機能亢進症および下垂体腺腫を有しており,術前にMEN-1合併症例と診断した.MEN-1遺伝子検査については,本人の同意が得られず施行していない.

MEN-1に合併する膵・消化管NETの約半数2)がガストリノーマであるといわれており,その局在は十二指腸が85~100%,膵臓が0~15%と報告されている3).MEN-1に合併するガストリノーマの報告は,そのほとんどが十二指腸の多発微小病変である4)5).MEN-1に合併するNETの膵病変は画像で特定できる病変が多く,また,ガストリン分泌のない場合が多いため4),本症例のように膵臓に限局した多発微小ガストリノーマの報告は少ない.散発性を含むガストリノーマは胃酸過多による難治性消化性潰瘍や逆流性食道炎,膵酵素不活化による脂肪性下痢といった症状で発症し,存在診断の一つとして空腹時血清ガストリン値の測定が行われる.ただし,プロトンポンプインヒビターなどの制酸剤やヘリコバクター・ピロリ感染,萎縮性胃炎,慢性腎不全は高ガストリン血症を来すことがあり,鑑別が必要となる.ガストリノーマの存在診断にはカルシウム静注試験や胃内24時間pHモニタリングも有用と報告されているが6),本症例では,SASI testの結果やMEN-1の存在からガストリノーマの存在に疑いようがないと考え,省略した.

MEN-1に合併するガストリノーマは,同時性・異時性に微小な病変として多発する特徴を有しており,超音波検査やCT,MRIなどの画像検査では局在を指摘できない場合も多い.それに対して,EUSは1 cm以下の病変の同定や膵全体の観察を可能とし,局在診断率は90%程度と非常に有用である7)8).また,EUS-FNAによる組織診断も可能である.本症例でも,膵鉤部の7 mm大の腫瘍はダイナミック造影CTでは指摘困難であり,EUSでのみ検出可能であった.また,5 mm未満の病変には,90~100%で局在の検出が可能なSASI testが有用とされている2)9).自験例でも,術式選択に有用であった検査はEUSとSASI testであり,その重要性が示唆された.NETの存在および局在診断にソマトスタチン受容体シンチグラフィが有用という報告もあるが10),自験例では有意な結果は得られなかった.欧米では,より感度の高い68Ga-DOTATOCや68Ga-DOTATATEによるシンチグラフィが有用とされており11)~13),本邦でもその導入が望まれる.

MEN-1に合併するガストリノーマは,非遺伝性のガストリノーマと比較して悪性度が高いとされ,腫瘍径にかかわらずリンパ節転移を来しやすく7)14),診断時には遠隔転移が認められる症例も多い8).MEN-1に合併するガストリノーマは発生初期からリンパ節転移を来すが,膵ガストリノーマと比較して十二指腸ガストリノーマは肝転移への進展は緩徐なため,膵ガストリノーマの方が予後不良と報告されている4)5).いずれにしても切除を行う際には,腫瘍の局在に応じてリンパ節郭清を伴った根治的切除を検討する必要がある.自験例においても,リンパ節転移を認めた.さらに,自験例で認めた転移リンパ節は,幽門下リンパ節(#6)と肝動脈リンパ節(#12a)であり,膵頭部には微小病変しか認められなかったことからも,腫瘍径にかかわらず確実なD2リンパ節郭清の必要性を示唆している.幸いにして自験例では現段階では再発を認めていないが,今後も慎重な経過観察を要する.

MEN-1に合併するガストリノーマの術式選択に関しても,いまだ議論の余地がある.一般的には,血糖コントロールの困難性や膵機能の廃絶による低栄養・QOL低下などを考慮すると,腫瘍学的に許容されるならば膵全摘術は回避すべきとされている15).しかし,MEN-1合併ガストリノーマの術前評価は難しく,過去には,十二指腸の単発病変を責任病変と術前診断し,十二指腸部分切除術や膵温存十二指腸切除術を施行するも,術後血清ガストリン値の正常化がみられず,腫瘍遺残が疑われたとの報告もある5)16).本症例も,術前指摘されていた病変とは別に,2~3 mm大の微小病変が膵全体に超多発していたため,膵全摘術の選択は適切であったと考える.また,MEN-1の特徴から十二指腸温存術式も除外した.近年,膵消化酵素補充剤(一般名:パンクレリパーゼ)や,持効型インスリン製剤や超速効型インスリン製剤の発達によって,栄養・血糖管理は安全に施行できるようになってきており,これまでと比較して膵全摘術後の短期および長期成績が改善している可能性があり17)18),治療選択肢として考えやすくなってきている.現在,本邦の多施設共同研究として「膵全摘患者に対する前向き実態調査」(松本ら,UMIN000018763)が行われており,その結果が待たれる.

今回,術前後の血清ガストリン値やSASI testの結果を踏まえて,ガストリノーマと最終診断したが,免疫病理組織学的には膵臓および十二指腸を含めて,腫瘍部,非腫瘍部ともにガストリンの染色が確認できていない.複数種類の抗ガストリン抗体を用いて,繰り返し染色を行ったが,いずれも陰性であった.一方,ポジティブコントロールでは,本来陽性とされるべき細胞が染色されており,抗体や手技には問題がないと考えた.また,自験例標本における,その他の抗体の染色性は保たれており,標本の質の低下による抗原の失活の可能性は低いと考えた.分泌が活発なガストリンやインスリンなどのペプチドホルモンでは,細胞内の貯蔵能の低さとクリアランスの早さなどから,かえって免疫染色検査での評価が困難となることが知られており19)20),その場合にin situ hybridizationによるmRNAの検出が有用であるとの報告もあるが21),本例ではそこまでの検討は行っていない.

MEN-1に合併するNETは,術前指摘しえない微小病変を多数含んでいる可能性や微小病変でもリンパ節転移の可能性を考慮し,適切な術式を行う必要がある.

利益相反:なし

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