The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
Online ISSN : 1348-9372
Print ISSN : 0386-9768
ISSN-L : 0386-9768
PRELIMINARY REPORTS
Development of a Navigation System for Transesophageal Mediastinal Surgery Using an Oral Endoscope
Masaya UesatoYukiya SatoManami KobayashiShohei YonemotoYuichiro YoshimuraHiroshi KawahiraToshiya NakaguchiHisahiro Matsubara
Author information
Keywords: NOTES
JOURNAL OPEN ACCESS FULL-TEXT HTML

2022 Volume 55 Issue 11 Pages 725-728

Details

はじめに

縦隔へのアプローチは,開胸,胸腔鏡が一般的である.しかし,心臓や肺といった重要臓器に囲まれていることや再開胸で難渋することがある.また,近年縦隔鏡の報告を散見するがいまだ一般的ではない1).生理的開口部を経由する低侵襲な軟性内視鏡手術natural orifice translumenal surgery(以下,NOTESと略記)2)は,手術操作に制限はあるが,食道からの縦隔アプローチが実現すれば到達距離と時間の短縮を期待できると考える.しかし,食道内から縦隔の対象部位を認識できない不利がある.

目的

縦隔手術部位を食道内腔から仮想可視化できる技術が必要と考え,縦隔手術ナビゲーションシステムの開発を目的とした.

先行実験:本システムの構築を基礎研究で行った.まず,アクリル板ケース内に縦隔臓器を模したゴムボールを配置し,その中央の空間に軟性内視鏡を通過させることで食道に見立てた.事前にケースをCT撮影し,内部のボールの位置を3次元画像構築しておく.次に軟性内視鏡の挿入距離を正確に算出するために人工知能の深層学習を応用した.軟性内視鏡スコープ表面には5 cm等間隔の白い帯があるため,同模様の移動量を外部カメラで検出し画像計測により算出した.これより内視鏡の挿入距離に合わせてケース内部の仮想3次元画像内を移動できる.ケース内に実際の内視鏡を挿入して得られた実内視鏡画像と仮想3次元縦隔画像の一致度を検証し,86%であった.

方法

動物実験は,自治医科大学ガイドラインに準拠し承認(番号20136-01)され実施した.全身麻酔下の豚1匹を仰臥位にし,内視鏡下に止血クリップ(オリンパス社製)で食道入口部へマーキングする.造影CT撮影後に縦隔内臓器(大動脈,肺静脈,気管・気管支)を3次元構築し仮想画像とする.食道内腔中央部を3次元画像内にプロットし連結させることで内視鏡挿入ルートを設定できる.豚の口元に外部カメラを設置して,内視鏡の白い帯を検出し内視鏡挿入長を計測する.内視鏡が食道入口部クリップに達した時点で仮想画像と同期させる.実内視鏡操作に連動した仮想3次元映像を参照し,大動脈弓部上縁・下縁,右上・下肺静脈,気管分岐部の対象臓器5か所を同レベルで食道側へ投影し食道内へクリップマーキングを行う.再度CT撮影の後,全てのクリップを摘除する.マーキングからCT撮影,そしてクリップ摘除を合計3回繰り返す.同一CT画像内で対象臓器の食道投影最短部とクリップマーキング先端との3次元的誤差(mm)を評価する.

結果

Fig. 1は左側に豚の実食道内視鏡映像で,右側にCT画像を3次元構築した仮想縦隔映像である.右画面の右下では内視鏡スコープ上の白い帯を検出し,内視鏡挿入長を計測した.内視鏡の挿入移動に合わせて仮想縦隔画像が同期して動いた.誤差は,全マーキング15か所で平均(標準誤差)=32.1(20.9)mmであった.ただし,マーキングからCT撮影の3回全てにおいて,マーキング5か所中最初の2か所までつまり合計6か所の誤差は9.8(6.7)mmであった.

Fig. 1 

The left side is a real endoscopic image of the porcine esophagus, and the right side is a virtual mediastinal image from 3-dimensional CT. A white band on the endoscope scope is detected at the lower right of the right screen and the insertion length of the endoscope is measured. The virtual mediastinal image moves synchronously with insertion of the endoscope.

考察

縦隔という容易にはアプローチできない部位において,食道を介したNOTESは有用と考えられる.しかし,経口内視鏡による食道内から縦隔臓器の位置を把握できるシステムは存在しない.我々は人工知能の深層学習を応用して内視鏡スコープ挿入深度をリアルタイムに把握し,3次元縦隔CT画像と連動させることで実内視鏡下仮想縦隔内映像を得ることができた.ただし,精度はまだ十分ではなく,時間が経過すると誤差が生じた.これは内視鏡スコープ上の白い帯が手などで隠れ,常時認識できないためと推測し修正中である.

今までにない本システムの実現は,系統的な処置を要しない局所における極低侵襲な縦隔内リンパ節診断や摘出,食道癌壁外浸潤の直視下診断,縦隔内腫瘍等の診断的摘出といった縦隔内革新的手術へ飛躍できると考える.

本研究は,公益財団法人 内視鏡医学研究振興財団の助成により行った.

利益相反:なし

文献
 

この記事はクリエイティブ・コモンズ [表示 - 非営利 4.0 国際]ライセンスの下に提供されています。
https://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/deed.ja
feedback
Top