The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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SPECIAL REPORT
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2022 Volume 55 Issue 11 Pages 729-732

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Abstract

新型コロナウイルス感染症の拡大が,これまで停滞していた医師の働き方改革の推進へとつながっている.その中でも,学会のオンライン化は医師の働き方に大きな変化をもたらした.学会のリモート参加は,自宅に居ながら参加でき,地方からも参加しやすく,移動時間と費用の大きな削減となる.オンデマンド配信は,時間・場所にかかわらず学ぶ機会を得られる非常に有効なツールとなる.また,学会の委員活動など,習慣的に行われていた対面での会議が,現在はほぼ遠隔で行われている.これまで時間的制約により,積極的に学会活動に手を挙げることができなかった女性医師の同分野での活躍推進が期待される.特に子育て中の女性医師にとって,オンライン化はワーク・ライフ・バランスを維持しながらキャリアを形成していく有効なツールとなりうる.この変化を逃さず女性活躍推進へとつなげるための,オンライン学会(ハイブリット形式)の継続を強く要望したい.

はじめに

新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019;以下,COVID-19と略記)の感染拡大により,リモートワークの実施や時差出勤など,多くの人の働き方に変化が訪れた.欧米に比べ,働き方の多様性が定着していなかった日本において,COVID-19は医師の働き方においても大きな変化をもたらし,これまで停滞していた働き方改革の推進へとつながっている.

これまで,女性医師のキャリア支援について,家庭と仕事の両立=Work・Life・Balance(以下,WLBと略記)を中心にさまざまな試みがされてきた.特に子育て中の医師にとっては,モチベーション維持の難しさ,出産後の復職が難しいことなどがキャリア障害として挙げられるが1),その中には遠方の学会参加や時間外カンファレンスの参加の困難性などが含まれている.本稿では,期せずして到来したCOVID-19禍により進んだオンライン化の変化を逃さず,女性活躍推進へとつなげることを期待し,筆者の経験に基づきオンライン化が女性医師活躍推進に果たす役割について述べたい.

子育て期の学会発表の困難性

子育て期の女性にとっての学会発表の困難性の要因は,抄録登録時と発表時の二つに分けて考えられる.

1. 抄録登録時の困難性

抄録を作成するために,自身の研究や臨床の成果が必要であるが,子育て中の医師にとっては絶対的な研究時間の不足が挙げられる.特に育児休暇期間中や,子供が乳児期である場合には時間的制約が大きい.筆者は,所属大学の育児中医師のための研究補助員制度を用い,大学院生に研究の手伝いをしてもらうことで研究時間の確保を行っていたが,リサーチカンファレンスやグループカンファレンスに参加できないことによって,研究の進捗を適宜上級医に相談できず,また周囲の状況を把握できないことがストレスであった.現在,COVID-19禍を経て,医局のオンライン化は大きく進んだ.以前は,当たり前のように行っていた対面での会議は大部分がオンラインとなり,クリニカルクラークシップをはじめとする学生指導もオンラインを駆使した遠隔指導となった.オンライン化の導入にあたっては,さまざまなトラブルを経験したが,現在は設備や知識も増え,結紮講習会などのハンズオンなども遠隔での施行が試みられている.足を運び対面で何かをしなければならないという固定観念は大きく変化し,遠隔で何かを行うことがnew normalとなった.自宅に居ても,職場にいる医師と同様にカンファレンスに参加できること,そしてそれを特別感なくできるようになったことは,大きな働き方改革といえる.研究の成果などの情報をタイムリーに共有し,相手の表情を見ながら相談できることは,周囲との交流の機会を増やし,少なからず疎外感や孤独感の解消に繋がると考えられる.育児中医師の時間的制約をオンライン化が全て解決するとはいえないが,キャリア形成そしてモチベーション維持の一助となりうる.

また,抄録登録時に約半年後の発表時の状況が予測しにくいということも,子育て中の医師にとっては大きなストレスとなる.特に復帰直後や,幼児期は,半年後の子供の状況はもちろんとして,自分や家族の状況を予測することは容易ではない.また,筆者のように地方在住の医師にとっては,朝一番や午後遅い発表時間の場合は宿泊が必要なこともあるため,発表時間が予測できないことも登録の一歩を踏み出せない大きな要因となる.この点に関し,リモート参加できる学会であれば不安は大きく軽減される.さらに,事前登録がありライブ発表がないセッションであれば,子供の急病にも左右されない大きなメリットとなる.現場での臨場感あるライブ討論は学会の重要な要素ではあるが,学会の演題の中にこのようなセッションを残して頂くことは,子育て中の医師にとってキャリア継続の大きな後押しとなる.

2. 学会発表時の困難性

大きな問題は,学会発表当日の子供の対応である.地方からの参加の場合,子供を連れての参加はかなりハードルが高く,筆者もこれまで経験はない.2歳以下であれば交通費は無料であるが,交通機関を乗り継ぎながら道中一人で子供の面倒を見るのは一苦労である.子供が大きくなれば道中の不安は軽減されるが,旅費の問題が発生する.また,自身の発表中の子供の居場所についても,最近では託児所を設置する学会も増えたが,初めての場所で喜んで託児所に行ってくれる子供は多くはない.学会会場で,自身の母親と参加している子供連れの女性医師を見かけるが,そういう事情があるということを広く理解して頂きたい.

単身で学会に参加する場合,国内学会であったとしても,配偶者とのシフトや当直の調整,緊急時のバックアップ,子供の身の回りの準備など,数か月前からさまざまな段取りと多大なエネルギーが必要となる.宿泊が必要となると,残された家族への負担や,子供の気持ちを考えると,学会発表への意欲が罪悪感に負けてしまうというのが自身の経験である.先にも述べたが,学会発表の際にセッションの希望時間が選択でき,セッション内でも発表順番をフレキシブルに変更できるような措置があれば,より子育て中医師にとっては優しい学会となると考える.

3. ハイブリッド学会のメリット

子育て中の医師における,学会参加の困難性を解決するのが,演者・司会のリモート参加を許可するオンライン学会である.場所や時間を問わず,子供の急病にも現地開催に比べ格段に対処がしやすい.特に平日の日中開催であれば,特別な対応なく参加できることが多く,非常に大きなメリットとなる.これは子育て中の女性医師に限定した話ではなく,開業医や医師数の少ない,つまり病院を離れにくい環境の医師にとっても大きなプラスとなる.また,地方在住の医師にとっては移動時間と費用の大きな削減となる.

オンライン学会導入当初はさまざまなトラブルを経験したが,ほぼ全ての主要学会が完全オンラインでの学会開催を経験した今,運営に関しては大きな問題はないといえる.学会のオンライン化に関しては,ポストCOVID-19に向かいつつある現在,さまざまな議論がある.主催者側としては,現地で地元のよさを参加者にアピールしたいという想いや,オンライン化に要する費用の問題も大きい.また,双方向でのディスカッションの熱量や臨場感,交流のしやすさに関しては現地開催に勝るものはないだろう.

オンデマンド配信は,時間・場所にかかわらず学ぶ機会を与えられる非常に有効なツールである.自身の発表ですらハードルが高い子育て中の医師にとって,発表をしない学会に参加することは困難であり,学びの機会は限られている.リモート参加同様に,知識をアップデートしたい,学びたいという意欲があっても困難な状況である医師にとってオンデマンド配信は,大きな助けとなる.各種資格に必要となる学会参加や講習会の参加も,現地参加のみであれば叶わなくても,オンラインであれば参加でき,キャリアの継続が可能となる医師は少なくないであろう.

2020年に発足した消化器外科学会のUnder 40委員会が,40歳以下の会員全体に行ったアンケートでは,今後の学会の希望開催形式について,現地開催のみを望む声は全体の4%と非常に少ない結果であった(Fig. 1).一方で46%が,現地開催に演者・司会のリモート参加を可能とするハイブリッド開催かつ,ライブ配信とオンデマンド配信を行う理想的なハイブリッド形式での開催を希望しており,若手全体の意見としても強くオンライン学会の継続を望んでいる結果であった.

Fig. 1 

Questionnaire about the form of a congress (single choice). The survey targeting the member under the age of 40 was performed by U-40 committee in The Japanese Society of Gastroenterological Surgery (Number of responses: 479 people). *On-demand; on demand broadcasting, Remote; remote participation, Live; live streaming.

現地とオンライン化の両方の利点を生かしつつ,女性医師の活躍推進と,日々過剰労働に追われている若手外科医の負担軽減のためにも,オンライン化を残したハイブリッド形式での学会開催の継続を強く希望したい.

4. キャリア形成とオンライン化

近年,外科においても女性活躍推進の風は大きくなっており,学会における女性管理職や委員に女性を登用しようという動きは実際に形となってきている.一方で,いまだに多くの若手女性外科医の焦点は,子供を持った場合にキャリアアップできるかではなく,キャリアを継続できるかという点にあることからも,将来の仕事とライフイベントとの両立への不安が払拭できていない.同じ境遇を乗り越えたロールモデルを増やすことが必要であり,さらに女性管理職を増やしていくためには,管理職のロールモデルが必要である.ロールモデルが少ない状況の中では,管理職を打診されても重役を担う不安から辞退してしまうという事例も耳にする.女性は完璧に全てをこなそうと考える傾向があり,アメリカでの研究では,男性優位な職場では,女性は自身に課すレベルをより高く,厳しくする傾向があり,自分の能力をより厳しく評価すると報告されている2).また,子どもを持つ女性は,採用や昇進において,同様の能力の男性に比べて,ジェンダー・ステレオタイプによる差別的な評価を受けやすいとされており,若手がそのような環境のもとで育てば,キャリアへのモチベーションを維持できず,チャンスに挑戦する意欲は自然と失われていくと考えられる.つまり,職務を全うできる自信がないと過小評価し,現状維持の志向となる「個人の意識の変容」と,管理職の魅力と実現可能性を醸成する「周囲の環境」が必要である.このような状況を打破していくためには,やはり多様なロールモデルの提示と,女性医師自身がチャンスに挑戦する意欲をサポートする仕組みが必要である.子育て中医師の大きな問題である場所と時間の制約を,オンライン化は大きく打開した.現在,COVID-19禍を経て,多くの学会の委員会活動はWeb会議で行われており,この形式を継続することは今後女性医師の活躍の場を広げ,キャリア形成の大きな後押しとなることは間違いない.

考察

女性医師にとって,まず妊娠・出産は未知の一歩,仕事復帰は次の一歩,そしてそこから大きく踏み出しキャリアを形成することは挑戦である.オンライン化はWLBを維持しながらキャリアを形成していく有効なツールであり,ハイブリッド学会を含めたオンライン化はnew normal時代の女性医師キャリア支援に必須であると考える.

本論文の作成にあたり,アンケート結果の提供を頂きました消化器外科学会Under 40委員会の委員の先生方(慶應義塾大学 松田諭先生,浜松医科大学 阪田麻裕先生,群馬大学 塚越真梨子先生,弘前大学 長瀬勇人先生,山口大学 鍋屋まり先生,岐阜大学 深田真宏先生,長崎大学 松島肇先生,北里大学 鷲尾真理愛先生),消化器外科学会事務局のみなさまに心より感謝申し上げます.

利益相反:なし

文献
 

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