日本消化器外科学会雑誌
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症例報告
繰り返す腸閉塞に対して手術が奏効した成人腸管逆回転症の1例
田口 大輔津田 雄二郎高 正浩上田 正射中島 慎介谷田 司松山 仁池永 雅一中井 弘山田 晃正
著者情報
キーワード: 腸管逆回転症, 成人, 腸閉塞
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2022 年 55 巻 4 号 p. 269-275

詳細
Abstract

症例は78歳の女性で,5年前から反復する十二指腸閉塞に対して15回の保存的加療歴があった.今回も腹痛,嘔吐を主訴として受診し,CTで腸管逆回転症による十二指腸の走行異常と,十二指腸空腸曲での閉塞を認め,腸閉塞の診断で緊急入院した.腸閉塞を発症する頻度が増加しており,手術加療の方針とした.術中所見から,反復する腸閉塞の原因は腸管逆回転症による腸間膜のねじれと,それに伴う十二指腸空腸曲の圧迫が原因と考えられた.十二指腸空腸曲を周囲組織から剥離し十分に授動後,十二指腸の回転異常に伴う走行異常を整復し手術を終了した.経過は良好で,術後約1年再発なく外来で経過観察中である.腸管逆回転症は腸回転異常症の1型であり,まれな先天異常である.自験例は十二指腸が逆回転,結腸が正常回転した型の腸管逆回転症であった.腸管逆回転症を背景とした繰り返す腸閉塞に対し,手術が奏効した1例を経験したので報告する.

Translated Abstract

The patient was a 78-year-old woman who had experienced duodenal obstruction fifteen times in the last 5 years. She visited our hospital with complaints of abdominal pain and vomiting. Abdominal CT showed duodenal obstruction and an abnormal position of the duodenum due to reverse intestinal malrotation. She was immediately hospitalized and conservative therapy succeeded in resolving the intestinal obstruction. However, the frequency of duodenal obstruction increased and she requested surgery to prevent recurrence of the symptom. Therefore, we decided to perform an operation during a period of hospitalization. Intraoperative findings indicated that the cause of duodenal obstruction was distortion of the mesentery caused by reverse intestinal malrotation that compressed the duodenal jejunum. The tissue surrounding the duodenal jejunum was exfoliated to allow mobilization and the abnormal position of the duodenum was shifted to normal. The patient was discharged without complications several days after the operation. She has been followed up as an outpatient and has had a good postoperative course without recurrence for more than one year. Reverse intestinal malrotation is a rare congenital anomaly. Our case was the type in which the duodenum rotates in reverse, while the colon rotates normally. We report this case as an example of a good prognosis after surgery for prevention of recurrence of duodenal obstruction in a patient with reverse intestinal malrotation.

はじめに

腸管逆回転症は腸回転異常症の1型であり,まれな先天異常である1).今回,我々は腸管逆回転症を背景とした約5年間の病悩期間を伴う繰り返す腸閉塞に対し手術を行い,良好な経過を得た1例を経験したので報告する.

症例

患者:78歳,女性

主訴:腹痛,嘔吐

現病歴:5年前から十二指腸閉塞を発症するようになり,15回の入院,保存的加療歴があった.手術は希望されず毎回保存的治療で軽快しており,自宅では食事量を減らし,低残渣の食事のみ摂取するなど再発予防に努めて生活していた.

嘔気,腹痛を自覚し,嘔吐を繰り返したため,翌日当科を受診し,腸閉塞の診断で緊急入院した.

既往歴:十二指腸閉塞,虫垂炎術後(30歳代時,交叉切開法),人工膝関節置換術後,うつ病

家族歴:特記事項なし.

入院時現症:身長150 cm,体重38 kg,body mass index 16.9 kg/m2,るい痩を認めた.体温36.6°C,血圧93/50 mmHg,脈拍78回/分.腹部平坦,軟,臍上部に軽度の圧痛を認めた.

血液検査所見:白血球4,060/μl,CRP 0.06 mg/dl,BUN 29.7 mg/dl,クレアチニン 0.72 mg/dl,他特記すべき異常を認めなかった.

腹部造影CT所見:胃,十二指腸は食物残渣の貯留により拡張していた.十二指腸水平部は上腸間膜動脈(superior mesenteric artery;以下,SMAと略記)の腹側に位置し,十二指腸空腸曲は腹側から背側へ向けて走行しており,腸回転異常症による腸管の走行異常が示唆された.十二指腸空腸曲付近で腸管径の急激な変化を認めた(Fig. 1A~C).腸管の造影不良や,腹水貯留は認めなかった.

Fig. 1 

Enhanced abdominal CT showed dilation of the stomach and duodenum. The horizontal part of the duodenum was located anterior to the SMA (arrow), which suggested intestinal malrotation. At the duodenal jejunum, the caliber changed significantly (arrowheads). A: axial plane, B: coronal plane, C: sagittal plane.

入院後経過:入院当日に経鼻胃管留置した.腹痛,嘔気は早期に軽快した.入院2日目に排便を認め,腹部レントゲンで腸閉塞を疑う像がないことを確認して食事を再開した.しかし,入院4日目に腸閉塞解除後の腸管の走行などの精査を目的として腹部造影CTを施行したところ,十二指腸閉塞の再発を認めた.十二指腸閉塞発症の頻度が増加しており,苦痛が大きく,本人が手術を希望されたため,手術を施行する方針とした.入院5日目にイレウス管を十二指腸に留置し,完全静脈栄養を開始した.入院8日目に腹部単純CTを施行すると,イレウス管先端は閉塞部を越えて先進しており,閉塞は解除されていることが確認された.入院後12日目に手術を施行した.

手術所見:上腹部正中切開で開腹した.創直下に十二指腸を認め,十二指腸水平部はSMAの腹側を走行し(Fig. 2),十二指腸空腸曲以外は周囲組織に固定されておらず,可動性は良好であった.結腸の走行は正常であった.横行結腸を腹側へ引き上げると小腸間膜がねじれた状態となっており,小腸間膜,右側結腸間膜の背側を小腸が走行していた(Fig. 3).口側小腸を十二指腸までたどり小腸間膜を翻転させて牽引し,次に小腸を肛門側へ回盲部までたどっていくと回盲部は後腹膜と癒着しておらず,小腸間膜の背側から導出された.十二指腸空腸曲が白色の索状組織を伴い周囲組織と固定されていた(Fig. 4).繰り返す十二指腸閉塞の閉塞機転となったと考えられた部分であり,可及的に周囲組織との癒着を剥離することが通過障害の改善につながると考え,同索状物を切離し,十二指腸空腸曲を授動した.また,十二指腸空腸曲付近の可動性不良も腸閉塞の原因となりうると考え,同部位から肛門側20 cmほどの空腸にかけて,同様に腸間膜間の膜状の癒着を認める部分を可及的に剥離し,十二指腸空腸曲周囲の腸管の可動性を良好にした(Fig. 5).切開を加えた腸間膜に癒着防止剤を貼付し,閉創して手術を終了した.

Fig. 2 

Intraoperative findings: The horizontal part of the duodenum (arrowheads) was located in front of the SMA.

Fig. 3 

Intraoperative findings: The mesentery of the small intestine was twisted, and the small intestine was located behind the mesentery of the ascending colon.

Fig. 4 

Intraoperative findings: A fibrous band (arrowhead) and ligament were found around the duodenal jejunum.

Fig. 5 

Intraoperative findings: We exfoliated and separated the fibrous band and ligament around the duodenal jejunum to allow the duodenal jejunum to be mobilized.

術後経過:術後3日目に食事再開した.経過は良好で,嘔気嘔吐なく安定して経過し,術後8日目に退院とした.術後に施行したCTでは,腸管逆回転症による腸管の走行異常は整復されており,十二指腸水平部がSMAの背側を走行していることが確認された(Fig. 6).

Fig. 6 

Enhanced CT after the operation showed that the horizontal part of the duodenum (arrowheads) was located posterior to the SMA (arrow).

現在術後約1年が経過し,外来で経過観察を行っているが,腸閉塞を発症することなく経過している.術前はるい痩を認めたが,食事が十分にとれるようになったことで体重は標準体重まで増加した.

考察

腸回転異常症は胎生期における腸管の回転および固定の異常に起因する先天異常である.腸回転異常症の発生頻度は5,000~20,000人に1人とされており,その1型である腸管逆回転症は全腸回転異常症の4~6.5%とまれな疾患である1)2).自験例は十二指腸が逆回転し結腸は正常回転したIIC型の腸回転異常症と考えられた3).腸回転異常症のほとんどが新生児期に発症し,全症例のうち約80%は生後1か月以内に症状を呈するとされ,成人発症例は全症例の0.2~0.5%とまれであるとされる4).しかし,腸管逆回転症に関しては,成人発症が75%以上を占めるとの報告もある5)6).本症例は73歳時に初めて腸閉塞を発症し,その後5年間にわたって腸閉塞を繰り返し発症した.当初は本人が手術を拒否したため,手術を行わず保存的治療を繰り返してきたが,徐々に腸閉塞発症の頻度が多くなり,短期間で症状を繰り返すようになったため本人希望もあり手術に踏み切った.症状発症の頻度が増加した原因としては,内臓脂肪が減少したことにより腸間膜の厚みがなくなり,急峻な腸間膜の捻転や,十二指腸空腸曲の圧迫が生じやすくなったことや,閉塞を繰り返した結果,腸間膜に形成された癒着が強固になってきたことなどが考えられた.

自験例は右側結腸間膜の背側の空間を小腸が走行していた.発生の過程で中腸の右半分(十二指腸空腸脚)が逆回転し,左半分が正常に回転した結果,右側結腸間膜の背側に小腸がとらわれ,右側結腸間膜が後腹膜と癒合しなかった結果として正常では認めない腔が形成されたと考えられる.腸回転の異常により正常ではみられない腸間膜のねじれが生じており,十二指腸で通過障害を生じる原因となっていたと考えられる(Fig. 7).結腸間膜の背側の腔に小腸が走行している状態は一見ヘルニアのようにも見えるが,生来その空間を腸管が走行しているだけなので,ヘルニアと呼ぶべきではないと指摘されている7)

Fig. 7 

The abnormal duodenum location was thought to be caused by intestinal malrotation in which the duodenum rotated in reverse (A), while the colon rotated normally (B) during the course of development. These events caused distortion of the mesentery and duodenal jejunum obstruction (C).

自験例では手術により通過障害の再発なく良好な経過を得られ,術中に意図した結果ではなかったが,術後のCTで十二指腸の走行異常が整復されていることが確認できた.SMAと十二指腸空腸曲の間の索状組織(トライツ靭帯に相当する組織と考えられる)を切離し十二指腸空腸曲を授動したこと,手術操作中に正常回転方向へ腸間膜を牽引しねじれが整復されたことの結果と考えられた(Fig. 8).一般的にLadd手術は,①中腸軸捻転がある場合は軸捻転を解除すること,②Ladd靭帯を切離すること,③十二指腸と結腸の間の腸間膜を開いて上腸間膜動脈の根部を広く確保すること,④十二指腸から小腸を右側に,結腸を左側に配置すること,という内容となっており8)9),本手術はLadd手術とは異なる術式であったと考える.本手術においては十二指腸近傍に索状の結合組織と腸間膜同士の癒着を認め,十二指腸空腸曲の授動のためそれらの切離を行ったが,Ladd靭帯に相当する異常靭帯は指摘できなかった.IIC型の腸管逆回転症の報告例は少なく,医学中央雑誌(1964年~2021年)およびPubMed(1950年~2021年)で「腸管逆回転症」,「reversed intestinal rotation」をキーワードとして検索したところ,同様の経過をたどった症例報告は確認できなかった.本症例は腸閉塞を繰り返すIIC型の腸管逆回転症症例において,前述の手術が有効であることを確認できた1例であり,今後類似症例の治療に際し一助となる経験であったと考える.

Fig. 8 

Surgical procedure. ① Abnormal location of the small intestine. ② The small intestinal mesentery was turned 360° counterclockwise. ③ We exfoliated and separated the fibrous band and ligament around the duodenal jejunum, so that the duodenal jejunum could be mobilized. ④ The small intestinal mesentery was rotated 180° clockwise to fix the abnormal small intestine location and distortion of the mesentery.

腸管逆回転症はまれな疾患で,腸閉塞を生じた場合に診断,治療方針の決定に難渋することがある.今回の経験から腸管逆回転症の一部の型では十二指腸空腸曲周囲の固定を剥離し十分な授動を行い,先天的に形成された腸間膜のねじれを解除することにより通過障害の発生を防止できることが示唆された.

利益相反:なし

文献
 

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