2023 Volume 56 Issue 5 Pages 249-255
症例は75歳の男性で,胸部食道扁平上皮癌,内視鏡治療後の肺転移・副腎転移・腹膜播種再発に対し,通院による症状緩和を実施中であった.腹痛・嘔吐を主訴に受診し,腹部CT,上部消化管造影検査にて十二指腸結腸瘻と診断された.絶食・胃管留置・抗菌薬投与による保存的加療にて腹部症状は改善し,一旦経口摂取が可能となったが,1か月以内で腹痛・嘔吐が再燃した.保存的加療に抵抗性の十二指腸結腸瘻と判断し,緩和手術として胃空腸吻合術と右側結腸分離術を併施した.重篤な術後合併症は認めず,術後3か月現在,経口摂取が可能な状態で通院加療中である.胃空腸吻合術と右側結腸分離術は,十二指腸結腸瘻に対する緩和手術として安全性とQOLの観点から有用な術式と考えられた.
A 75-year-old man underwent endoscopic treatment for squamous cell carcinoma of the thoracic esophagus, and then received palliative care for recurrent lung metastases, adrenal metastases, and peritoneal dissemination. He complained of abdominal pain and vomiting, and was diagnosed with duodenocolic fistula after abdominal CT and upper gastrointestinal tract radiography. Abdominal pain and vomiting symptoms were temporarily relieved by conservative treatment with fasting, gastric tube placement and antibiotic administration, and he was able to ingest orally, but the symptoms recurred within one month. We determined that the duodenocolic fistula was resistant to conservative treatment, and gastrojejunal anastomosis and separation surgery of the right-sided colon were performed as palliative surgery. There were no severe complications and the patient was able to eat at 3 months after surgery. This case indicates that gastrojejunal anastomosis and separation surgery of the right-sided colon are useful as palliative surgery for duodenocolic fistula from the perspectives of safety and quality of life.
十二指腸結腸瘻は十二指腸潰瘍,クローン病などの良性疾患や大腸癌などの悪性疾患を原因とするまれな合併症である1)2).治療法は外科的治療が基本であり,患者の状態や病態により根治的な瘻孔切除や姑息的な緩和手術が選択される1)2).今回,我々は保存的加療に抵抗性を示した十二指腸結腸瘻に対する緩和手術として,安全性とQOLを考慮して胃空腸吻合術と右側結腸分離術を同時に行い,良好な術後経過を得た症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
患者:75歳,男性
主訴:腹痛,嘔吐
既往歴:胆管炎・胆囊炎(50歳代,腹腔鏡下胆囊摘出術),水頭症(62歳時,脳室腹腔シャント(ventriculo-peritoneal;以下,VPシャントと略記)留置)
現病歴:胸部上部食道癌cT1N0M0,cStage Iに対し他院で内視鏡的粘膜下層剥離術が実施され,病理組織診断がsquamous cell carcinoma,pT1a-MM,ly0,v0,INFa,pHM0,pVM0であったため,追加治療目的で当院を受診した.CTでは転移所見は認めず,局所治療として手術および化学放射線療法を提示したが,患者の希望にて放射線療法(60 Gy/30 fx)のみを実施した.放射線治療終了後は紹介元の病院で経過観察されていたが,3年後のCTで気管前リンパ節が31×27 mm大に腫大したため,精査加療目的で再度当院を受診された.気管前リンパ節の超音波ガイド下経気管支針生検にてsquamous cell carcinomaが検出されたため,食道癌のリンパ節転移と判断し,S-1併用のもと強度変調放射線治療(46 Gy/23 fx)を姑息的に行った.その1年後,CTにて肺転移・副腎転移・腹膜播種再発を認めたが,本人の希望にて症状緩和ケアのみを行う方針となった.2か月後,腹痛・嘔吐を主訴に救急受診し,腹部CTにて十二指腸結腸瘻が疑われたため,精査加療目的に入院となった.
現症:身長161 cm,体重57 kg(直近1か月で3 kgの体重減少あり),body mass index 22.0 kg/m2,腹部は軽度膨満し,心窩部に圧痛を認めた.また,両下肢に軽度の浮腫を認めた.
Eastern Cooperative Oncology Group(ECOG)-Performance Status:2
Palliative performance scale3):60
血液検査所見:白血球:10,670/μl,Hb:10.6 g/dl,血小板:38.1×104/μl,BUN:37.1 mg/dl,Cr:1.19 mg/dl,TP:6.5 g/dl,Alb:3.2 g/dl,T-Bil:0.82 mg/dl,AST:20 U/l,ALT:14 U/l,LDH:167 U/l,CRP:6.12 mg/dl,CEA:13.6 ng/ml,CA19-9:2.8 U/ml,SCC:2.37 ng/ml
腹部CT所見:十二指腸球部および結腸肝彎曲部に腸管壁の著明な肥厚と周囲脂肪織濃度の上昇,微小腸管外ガス像を認めた.十二指腸球部と結腸肝彎曲部は接しており,一部壁の連続性が不明瞭となっていた(Fig. 1).胃内および下部食道は著明に拡張し,内部に多量の液貯留を認めた.右副腎の腫大と骨盤内に複数の結節影を認め,それぞれ副腎転移と腹膜播種が疑われた.骨盤内に少量の腹水貯留を認めた.

a: Abdominal CT showing a fistula between the second part of the duodenum and the right colic flexure (arrow). b: Abdominal CT showing extraintestinal micro-air bubbles (arrows).
上部消化管造影検査:十二指腸球部より上行結腸への造影剤(ガストログラフィン)の流出を認めた(Fig. 2).

Upper gastrointestinal tract radiography showing leakage of gastrografin from the duodenum into the right colic flexure (arrow).
消化管内視鏡検査所見:穿孔のリスクを考慮して施行しなかった.
入院後経過:絶食・胃管留置による減圧および抗菌薬投与による保存的加療を開始した.腹部症状と炎症反応は速やかに改善し,1週間後より流動食を開始した.その後も腹部症状の増悪を認めず5分粥まで食上げを行い,退院となった.しかし,退院後10日目に腹痛・嘔吐が再燃し,腹部CTにて再び十二指腸結腸瘻孔部の脂肪織濃度上昇および胃拡張を認めたため,再入院となった.再度絶食・胃管留置による保存的加療を行ったが,便汁様の排液を多量に認め,保存的加療に抵抗性と判断し,経口摂取を可能とするための手術加療を行う方針とした.術式は,血行性転移,腹膜播種を伴う食道癌であり,予後が月単位と想定されることや患者のfrailty(脆弱性)を考慮して,根治的な瘻孔切除は行わず,緩和手術として胃空腸吻合術と右側結腸分離術を同時に行う方針とした.
手術所見:VPシャントの外瘻化を行った後,上腹部正中切開で開腹した.腹腔内には多数の播種結節があり,播種結節による小腸狭窄を1か所で認めた.また,骨盤内に少量の腹水貯留を認めた.結腸肝彎曲付近は強固な癒着があり,十二指腸結腸瘻部は確認できなかった.まず,十二指腸への食事流入の遮断を目的として胃の半離断を自動縫合器にて行い,空腸を結腸後経路で挙上した後,胃空腸吻合およびBraun吻合を行った.次に播種による小腸狭窄部を部分切除し,機能的端端吻合で再建した.最後に終末回腸および横行結腸をそれぞれ切離し,終末回腸の口側断端と横行結腸の肛門側断端とを機能的端端吻合にて吻合し,横行結腸の口側断端は粘液瘻として挙上し,手術を終了した(Fig. 3).

Schema showing the configuration of the gastrointestinal tract after gastrojejunostomy and separation surgery of the right-sided colon.
術後経過:麻痺性イレウスを発症したが保存的加療にて改善し,術後10日目より経口摂取を開始した.その後は腹部症状の再燃を認めず,経口摂取も十分可能であり,術後14日目にVPシャントの内瘻化を行った.粘液瘻ストーマのセルフケア手技の習得を待ち,術後28日目に自宅退院となった.術後3か月現在,経口摂取は可能で通院加療中である.
十二指腸結腸瘻はまれな病態で,良性疾患によるものと悪性疾患によるものとに分類される1).良性疾患によるものではクローン病および消化性潰瘍が最も多く,結核や十二指腸憩室が次ぐとされている2)4).その他,結腸憩室や異物穿通,虫垂炎,胆石,膵仮性囊胞破裂,ステント逸脱,加えてアメーバ症や包虫症なども十二指腸結腸瘻の原因として報告されている2)4).近年では制酸薬やピロリ菌除菌の発達に伴い,消化性潰瘍による十二指腸結腸瘻は劇的に減少している5).PubMedにて1966年1月から2022年9月の期間で,「duodenocolic fistula」,「duodeno-colic fistula」,「coloduodenal fistula」,「colo-duodenal fistula」のキーワードで検索を行ったところ,悪性疾患による十二指腸結腸瘻は74例報告されており,原疾患として大腸癌が63例と最も多く,続いて膵癌が3例,十二指腸癌が3例,リンパ腫が2例あり,食道癌の報告は1例のみであった(Table 1).また,医学中央雑誌で1964年から2022年9月の期間で,「十二指腸結腸瘻」,「結腸十二指腸瘻」のキーワードで検索を行ったところ,悪性疾患による十二指腸結腸瘻は27例報告されており,PubMedでの検索結果と同様に大腸癌が最も多く24例あり,残りは十二指腸癌が2例,原発不明癌が1例であった.Reissmanら6)による食道癌の報告例では腹膜播種が十二指腸結腸瘻の原因とされているが,我々の症例では予後やリスクを考慮し,消化管内視鏡検査や瘻孔切除を施行していないため,十二指腸結腸瘻に対する病理学的検討は行えていない.ただし,本症例においても腹膜播種を併発していたため,十二指腸潰瘍のほか,食道癌の腹膜播種巣によって瘻孔が形成された可能性も考えられる.
| Malignant causes | n=74 |
|---|---|
| Colorectal cancer | 63 |
| Pancreatic cancer | 3 |
| Duodenal cancer | 3 |
| Lymphoma | 2 |
| Esophageal cancer | 1 |
| Lung cancer | 1 |
| Unkonwn primary | 1 |
十二指腸結腸瘻では,いずれの原因においても体重減少を伴う下痢や嘔吐,腹痛が見られることが多い4).結腸から十二指腸への逆流により糞便性嘔吐が起こり,また逆流による小腸細菌叢の変化は吸収不良や下痢,電解質異常につながる4).その他,小腸の内容が結腸に入り通過時間が短くなること,胆汁酸と塩化水素酸により結腸粘膜が刺激されることにより下痢が生じるとされている7).本症例では下痢症状はなかったが,嘔吐,腹痛が受診の契機となった.瘻孔部の浮腫による十二指腸の通過障害や,結腸からの十二指腸への逆流が糞便性嘔吐の主な原因であったと考えられる.
十二指腸結腸瘻に対する根治的治療は瘻孔切除であり,瘻孔を形成している十二指腸および結腸を完全切除する術式となる1).ただし,悪性腫瘍が原因の場合や,瘻孔形成部と胆管・Vater乳頭との位置関係により膵頭十二指腸切除術を要する可能性があり,根治的瘻孔切除の適応は限定的になりうる8).Gongら9)によるクローン病の報告では,結腸切除と瘻孔を含めた十二指腸部分切除が行われ,Clavien-Dindo分類Grade III以上の術後合併症が33例中13例あり,そのうち11例で敗血症(腹腔内膿瘍:7例,十二指腸閉鎖部縫合不全:3例,吻合部縫合不全:1例)を併発していた9).背景となる疾患が異なるため,本症例にその結果を外挿することはできないが,担癌状態で予後も限られていることや患者のfrailtyを考慮して,根治的瘻孔切除ではなく姑息的な緩和手術を選択した.
根治手術が困難な場合の姑息的手術として,まず胃空腸吻合術が挙げられる.胃空腸吻合術においては,十二指腸への食事流入の遮断を目的として胃の離断が追加されることがあるが,本症例では十二指腸での通過障害が想定されたため,十二指腸内容物の減圧目的として全離断ではなく半離断術を選択した.
また,瘻孔部の結腸から十二指腸への便の流れを減少させる必要がある場合には,胃空腸吻合術に加えて回腸人工肛門を造設する術式が報告されている1)10).しかし,回腸人工肛門造設術は瘻孔部における便の通過を減らす安全な手段ではあるが,high outputにより脱水や電解質異常を来しやすいことやストーマ管理の負担が大きくなることを考慮し,本症例では右側結腸分離術を追加する方針とした.右側結腸分離術は終末回腸と横行結腸を切離して右側結腸を残したまま分離したのち,回腸口側断端と横行結腸肛門側断端とを吻合し,横行結腸口側断端で粘液瘻を造設する手技であり,後腹膜浸潤を伴う根治切除不能な右側結腸癌に対する姑息的手術として報告されている11)12).本症例では,麻痺性イレウスにより食事の開始時期は遅くなったが,食事開始後は悪心・嘔吐など結腸からの逆流を疑う症状はなく経過し,右側結腸分離術の追加は有効であったと考える.また,粘液瘻の排液量も少ない状態で,ストーマ装具も5日毎の交換で管理できている.1964以降の医学中央雑誌で「十二指腸結腸瘻」,「手術」をキーワードとして検索したかぎり,十二指腸結腸瘻に対して,胃空腸吻合術と右側結腸分離術を併施した報告は本邦初例であった.併存症や低栄養により縫合不全のリスクが高いと想定される場合を除いて右側結腸分離術は安全性とQOLの観点から有用な術式と考えられる.
緩和手術の適応には2か月以上の予後が期待できることが望ましいとされている13).緩和ケア領域ではpalliative prognostic index(以下,PPIと略記)が短期予後予測指標として汎用されており14),本症例ではPPIが2.0であり,11~12週の予後が想定されたため,緩和手術を選択した.もし,長期の予後が期待でき,後治療として化学療法を考慮する場合は根治的な瘻孔切除が推奨されるかもしれない.また,長期の予後が期待でき,保存的加療を希望する場合,瘻孔の自然閉鎖を期待して長期の絶食期間を設けるのも治療選択の一つかもしれない.また,予後が2か月未満と想定され,全身状態により手術適応がない場合,在宅静脈栄養法が治療選択となりえたであろう.いずれにせよ,患者の全身状態や十二指腸結腸瘻の病態,患者の希望などを考慮して治療法を選択する必要がある8).
今回,食道癌の腹膜播種再発を有する十二指腸結腸瘻に対し,胃空腸吻合術と右側結腸分離術を併施した1例を経験した.これらの手術は十二指腸結腸瘻に対する緩和手術として安全性とQOLの観点から有用な術式であると考えられた.
利益相反:なし