The Japanese Journal of Gastroenterological Surgery
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CASE REPORT
A Case of Splenic Sclerosing Angiomatoid Nodular Transformation (SANT) Resected by Hand-Assisted Laparoscopic Surgery
Saki TakeiToshiyuki MoriyaRyosuke YamagaMoriyoshi YokoyamaKoichiro Ozawa
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2025 Volume 58 Issue 1 Pages 37-44

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Abstract

症例は47歳の男性で,人間ドックで脾腫瘍を指摘され,経過観察されていた.10か月後の造影CTで腫瘍の増大を認め,悪性疾患が否定できず腹腔鏡用手補助下脾臓摘出術を施行した.病理組織学的検査で脾臓のsclerosing angiomatoid nodular transformation(以下,SANTと略記)と診断された.SANTは2004年にMartelらが初めて報告した疾患概念であり,日本では39例の論文報告がある.良性疾患と考えられるがその病態に関しては不明な点が多く,画像診断により確定診断に至るのは困難である.穿刺生検が有用となる可能性は高いが,穿刺困難例においては鏡視下手術は治療選択肢となる.

Translated Abstract

Sclerosing angiomatoid nodular transformations (SANT) are rare neoplasms of the spleen. The patient in this case was a 47-year-old male with SANT of the spleen mimicking another solid splenic neoplasm who was admitted to our hospital for further examination of the splenic tumor. The tumor was diagnosed as an inflammatory pseudotumor or inflammatory myofibroblastic tumor, and hand-assisted laparoscopic splenectomy was performed. A histopathological examination showed that the solid tumor was a SANT of the spleen. Since Martel et al. first described SANT in 2004, 39 patients with SANT of the spleen have been reported in the Japanese literature. SANT of the spleen is a benign tumor, but preoperative diagnosis of SANT remains difficult. Puncture biopsy is likely to be useful, but our case shows that laparoscopic splenectomy is a treatment option in cases in which puncture is difficult.

 はじめに

Sclerosing angiomatoid nodular transformation(以下,SANTと略記)は2004年にMartelら1)によって初めて報告された脾臓の腫瘤形成性病変である.血管腫類似病変であるが,構成する血管成分が単一でない点で真の血管腫と区別される.良性疾患と考えられるが,術前診断は難しく切除が選択される場合が多い.今回,我々は腹腔鏡用手補助下に脾臓を摘出し,SANTと診断しえた症例を経験したので,本邦報告例39例の文献的考察を加えて報告する.

 症例

患者:47歳,男性

主訴:なし(脾腫瘍の精査目的).

既往歴:高血圧,気管支喘息,脂質異常症

家族歴:母:肺癌,大腸癌 父:高血圧

現病歴:2017年10月の人間ドックで18 mm大の脾腫瘍を指摘され経過観察されていた.2018年8月の腹部造影CTで腫瘍径24 mmに増大したため,悪性の可能性も否定しきれず手術目的に当科を受診した.

現症:身長158.6 cm,体重62.5 kg,BMI 24.9 kg/m2.腹部に特記すべき所見はなかった.

入院時検査所見:軽度の貧血を認める他は異常所見を認めなかった.腫瘍マーカーはCEA 1.7 ng/ml,CA19-9 <2.0 U/ml,DUPAN-2 25 U/mlと正常範囲内であった.

腹部超音波検査所見:脾下極に20 mm大の円形腫瘤性病変を認めた.境界明瞭,内部均一,正常脾組織と同等エコーの腫瘍性病変で辺縁に血流シグナルを認めた(Fig. 1).

Fig. 1  Abdominal enhanced CT showed a hypodense mass of 18 mm in diameter in the spleen (a). The tumor diameter had increased to 24 mm after 10 months, and was enhanced in the peripheral portion in the delayed phase (b). Abdominal enhanced MRI showed a splenic mass with central hypodense and peripheral enhancement in the delayed post-gadolinium phase (c). Abdominal US showed a 20-mm low-echo tumor in the spleen (d).

腹部造影CT所見:脾臓から腹側に突出する24 mm大の腫瘤を認めた.動脈相,門脈相では明瞭な低造影で,平衡相では辺縁が脾臓よりやや強く造影され内部に低造影域を認めた(Fig. 1).

腹部造影MRI所見:脾腹側から腹腔内に突出する20 mm大の類円形腫瘤を認めた.正常脾実質より軽度低信号,門脈相までは脾実質と同じ造影効果で,平衡相で脾実質よりも造影効果が軽度増強していた.T2WIでは被膜様構造が疑われたが,造影では明らかでなかった(Fig. 1).

以上の所見から,炎症性偽腫瘍や筋線維芽細胞性腫瘍などの脾腫瘍が考えられた.良性である可能性が高いが増大傾向があること,悪性疾患も否定できないことから腹腔鏡用手補助下脾臓摘出術を施行した.

手術所見:臍部よりカメラポートを挿入した.上腹部正中に7 cmのマーキングをし,その一部と臍左側に12 mmポート,左側腹部に5 mmポートを留置した.途中臍右に5 mmポートを追加した(Fig. 2).左胃大網動静脈,短胃動静脈は超音波凝固切開装置で切離した.腫瘍と脾門部血管の癒着があり,標本の取り出しと脾門部の確実な処理のためにマーキングした7 cm創で開腹し,用手補助下手術へ移行した.脾門部を自動縫合器で2回に分けて切離し標本を切除した.切除した標本は7 cm創から摘出し,左横隔膜下にドレーンを留置して閉創し,手術を終了した.手術時間は2時間37分,出血量は20 mlであった.術後経過は良好であり,術後10日目に自宅退院した.

Fig. 2  Port placement.

病理組織学的検査所見:摘出脾臓重量105 g,30×20×30 mmの赤色調腫瘍であった(Fig. 3).病理組織学的には,線維芽細胞様の細胞増生を認めた.線維性間質による隔壁形成の間に血管腫様結節を多数認めた.線維性間質成分内には多数の炎症細胞浸潤を認めた.免疫染色検査にて血管腫様結節を観察すると,cord capillary(CD34+/CD8–/CD31+),sinusoid(CD34–/CD8+/CD31+),small veins(CD34–/CD8–/CD31+)の異なる3種の血管成分を同時に認め,SANTの診断となった.また,標本中にはIgG4陽性細胞も多数認められた(Fig. 4).

Fig. 3  The resected specimen showed solitary, well-demarcated, and expanding growth (a). Macroscopically, the tumor had axle-like fibrosis and multiple hemangioma-like nodules in the peripheral area, without a capsule (b).
Fig. 4  Microscopically, the tumor was composed of septum with fibrous tissue and hemangioma-like nodules. There were numerous inflammatory cell infiltrates within the fibrotic tissue (a). In immunohistochemistry, the hemangioma-like nodule was positive for IgG4 (b), the normal splenic vascular endothelium was positive for CD34 (c), and the hemangioma-like nodule was more strongly positive for CD34 compared to (c), and vascular hyperplasia was observed (d).

 考察

SANTは2004年にMartelら1)によって報告された脾臓のまれな腫瘤形成性病変である.境界明瞭な単発性腫瘤で腫瘍内部には血管腫様成分が分布し,その構成成分がcord capillary(CD34+/CD8–/CD31+),sinusoid(CD34–/CD8+/CD31+),small veins(CD34–/CD8–/CD31+)の異なる3種類から構成される点で,均一な血管成分で構成される血管腫とは区別される.SANTの病変は非腫瘍性の血管増殖によって変化した赤脾髄とされ2),成因は明らかでないが,赤脾髄の微小循環障害3)やEBウイルス感染に起因するという説4),炎症性偽腫瘍が発生母地となっている説1)がある.

医学中央雑誌で2004年から2023年4月まで「sclerosing angiomatoid nodular transformation」,「脾臓」をキーワードとして検索すると,会議録を除いて39例の報告があり,本症例を加えた40例での検討では男性25例,女性15例で,平均腫瘍径は46 mm(6~110 mm)であった(Table 15)~42).Martelら1)の報告した25例のSANTでは女性17例,男性8例と女性優位であり,この結果が人種や環境因子の関与するものであるのか,病態に関与するものであるのかは不明である.また,今回検討した40例中17例は経過観察されたが15例で増大傾向を認め,これらを含む39例で悪性疾患が否定できず脾臓摘出術が行われた.術式は記載のなかった2例を除いて開腹脾臓摘出術が6例,腹腔鏡下脾臓摘出術が31例(用手補助下5例,脾部分切除1例を含む)であった.本症例も10か月間で6 mmの増大傾向を認めたため,脾臓摘出術を施行した.腹部超音波検査に関して記載があった23例ではいずれも低エコー領域として指摘され,造影CTが施行された39例ではいずれも低造影腫瘤もしくは辺縁から漸増性に造影される腫瘤性病変として描出された.FDG-PETは23例で施行され,17例で集積を認めた.本症例でも超音波検査で正常脾組織と同等の低エコー腫瘤として指摘され,造影CTで辺縁が強く造影される漸増性増強効果のある腫瘤として確認された.標本割面には車軸様の線維化を認めたが,造影CTではこうした線維性隔壁を反映しているとされている“spoke-wheel pattern”は明らかでなかった.

Table 1 Characteristics and diagnostic features of SANT

Median age 49 (30–73)
Sex n (%)
・males 25 62.5
・females 15 37.5
Median maximal diameter 46 (6–110)
US n (%)
・low 23 57.5
・ND 17
CT n (%)
・low 39 97.5
・enhancement from the periphery to the center 11 27.5
・enhancement in the periphery 10 25
・calcification 1 2.5
・ND 1
PET n (%)
・hyperdynamic 17 42.5
・no accumulation 6 15
・ND 17
Strategy n (%)
・surgery at first examination 22 55
・follow-up 18 45
・surgery after follow-up 17
Tumor growth n (%)
・Yes 15 83.3
mean growth ratio 0.72 (0.09–2.2) mm/months
・No 2 11.1
Treatment n (%)
・surgery 39 97.5
Open splenectomy 6
Laparoscopic splenectomy 25
Laparoscopic partial splenectomy 1
HALS-splenectomy 5
・follow-up 1 2.5
IgG4 (immunochemical stain) n (%)
・positive 10 25
・negative 5 12.5
・ND 25

ND: not described, HALS: hand-assisted laparoscopic surgery

SANTの術前診断基準は依然として確立していないものの,齊藤ら23)はSANTの画像診断に有用な所見として,①脾臓の境界明瞭な充実性腫瘤,②MRI T2WIで低信号,③DWIで拡散低下を認めない,④MRI T1WI in phaseでヘモジデリン沈着を示唆する点状低信号,⑤造影の動脈相で辺縁部が正常脾と比較し淡く造影され,門脈相~平衡相での内部の漸増性の造影効果とspoke-wheel patternが挙げられると報告している.本症例ではT1WI in phaseにおける点状低信号やspoke-wheel patternは明らかでないものの,T2WIで低信号,DWIで拡散低下を認めない造影漸増効果のある境界明瞭な充実性腫瘤像を呈しており,この報告に概ね一致していた.

2013年にKimら43)は正常脾と病変部位でのIgG4陽性細胞の比率よりIgG4関連免疫異常の関与を疑う報告を行い,矢野ら29)は日本で初めてIgG4関連疾患包括診断基準を満たすSANTの1例を報告している.今回,我々が集計した本邦の論文報告(Table 1)でも,IgG4について検討された15例中10例で陽性所見を認めていることからIgG4との関連についてはさらなる議論が求められる.本症例も摘出標本の免疫染色検査でIgG4陽性細胞を多数認めIgG4との関連が示唆された.術前血清IgG4測定を施行しておらず,IgG4関連疾患包括診断基準に則った評価は行えなかったが,腫瘤形成性病変や病変部へのリンパ球・形質細胞浸潤と線維化を認める点からもIgG4関連疾患と何らかの関連がある可能性は否定できない.

近年の報告では画像所見からSANTを鑑別に挙げつつも,悪性所見が否定できないことから1例を除き手術が施行されている.いずれの症例でも術後にSANTの病理学的特徴である①周囲との境界明瞭な充実性腫瘤,②多結節性の血管腫様構造,③結節間に隔壁をなす膠原線維増生,④赤脾髄を構成する3種類の血管成分の増生とその混在を満たす22)ことからSANTと診断されている.また,いずれの報告においても転移や再発は認めないことからSANTは良性疾患であるとされている.鑑別すべき疾患として炎症性偽腫瘍,サルコイドーシスなどの良性疾患に加え,悪性リンパ腫,血管肉腫,悪性腫瘍の脾臓転移などの悪性疾患が挙げられる.Katsudaら38)はその画像所見からSANTを鑑別疾患に挙げ,超音波内視鏡下穿刺術(EUS-FNA)で確定診断に至ることで手術を回避し,画像評価による経過観察を行っている.穿刺生検については腫瘍細胞散布のリスクから議論がなされているが,膵癌に対して行われたEUS-FNAの播種リスクは3.8%であり比較的安全に行えるとの報告もあることから44),脾腫瘍に対しても一つの選択肢となるであろう.Van den Eedeら45)は58例のSANTについて検討し,うち2例で穿刺生検によりSANTの診断を得て手術を回避したと報告している.脾生検における合併症率は1.3%であり,出血,気胸,胸水,結腸損傷などが挙げられるが,一方で穿刺生検における感度は87%,特異度は96.4%でありその診断精度は高い46).脾臓摘出術には術後脾摘後重症感染症や血栓塞栓症のリスクが伴うことから,画像ガイド下穿刺生検により診断が可能であれば,不必要な脾臓摘出術を回避できる可能性がある.

本症例では,増大傾向のある脾腫瘍に対して悪性を否定できないことから腹腔鏡補助下脾臓摘出術を施行したが,穿刺生検を施行していれば脾臓を温存できた可能性は高い.穿刺生検が困難な症例においては腹腔鏡下腫瘍生検や核出術,部分切除術といった縮小手術も選択肢となりうるだろう.

謝辞 本症例の診断に関して,ご教示頂きました公立置賜総合病院 病理科 布山繁美先生に深謝いたします.

利益相反:なし

 文献
 

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