2025 Volume 58 Issue 1 Pages 1-8
症例は70歳の男性で,嚥下時痛を主訴に当院へ紹介受診し,上部消化管内視鏡検査で胸部中部食道に半周性の1型腫瘍を認めた.生検にて食道扁平上皮癌の診断となるも精査を拒否した.9か月後,経口摂取困難にて受診し,CTで胸部上部中部食道に巨大な腫瘍を認め,食道扁平上皮癌UtMt,1型,cT3br,N1(No. 106 recR),M0,cStage IIIB(食道癌取扱い規約第12版)の診断となった.術前化学放射線療法の後,手術の方針とした.術前治療により腫瘍は縮小を認め,胸腔鏡下食道亜全摘後縦隔経路胃管再建を施行した.病理診断は食道肉腫UtMt,1型,ypT3,N0,M0,ypStage IIBであった.術前治療により扁平上皮癌成分が消失したと推測され,当初の診断と合わせ食道癌肉腫の診断となった.食道癌肉腫に対する術前化学放射線治療の報告は少ないため報告する.

A 70-year-old male was referred to our hospital with a chief complaint of odynophagia. Esophagogastroduodenoscopy revealed a semicircular type 1 tumor in the middle thoracic esophagus. A biopsy confirmed the diagnosis of esophageal squamous cell carcinoma, but the patient initially declined further evaluation. Nine months later, the patient presented with difficulty in oral intake, and a CT scan identified a large tumor in the upper and middle thoracic esophagus. The patient was diagnosed with esophageal squamous cell carcinoma (UtMt, type 1, cT3br, N1 [No. 106 recR], M0, cStage IIIB, based on the 12th edition of the Japanese Classification of Esophageal Cancer). Following neoadjuvant chemoradiotherapy, surgical resection was planned. The neoadjuvant chemoradiotherapy reduced the tumor size, and the patient subsequently underwent thoracoscopic subtotal esophagectomy with gastric tube reconstruction via the posterior mediastinal route. The final pathological diagnosis was esophageal sarcoma (UtMt, type 1, ypT3, N0, M0, ypStage IIB). We speculate that the squamous cell carcinoma component was eradicated by the preoperative treatment, resulting in a final diagnosis of esophageal carcinosarcoma. We report this case as an example of esophageal carcinosarcoma treated with neoadjuvant chemoradiotherapy.
食道癌肉腫は食道悪性疾患の中でも0.5~2.8%1)2)と比較的まれな腫瘍である.治療は切除可能と判断されれば,食道癌に準じリンパ節郭清を伴う食道根治術が標準治療となっている.症例数が少ないため,食道扁平上皮癌のように,周術期化学療法のレジメンやコース数,放射線療法などに関してはエビデンスが得られていない状態である.今回,巨大な食道癌肉腫に対し術前化学放射線療法(chemoradiotherapy;以下,CRTと略記)が奏効し,切除しえた症例を経験した.食道癌肉腫に対する術前CRTの報告は少ないため報告する.
患者:70歳,男性
主訴:嚥下時の背部痛
既往歴:なし.
併存症:なし.
現病歴:嚥下時の背部痛を主訴に近医を受診し,消化器内科へ紹介となった.上部消化管内視鏡検査で切歯列より24~28 cmに内腔に突出するI型腫瘤を認め,生検にて食道扁平上皮癌の診断となった.患者に精査を勧めるも拒否,終診となった.9か月後,食事摂取困難を主訴に当院救急外来を受診,食道癌による通過障害にて食事摂取困難となり,消化器内科に入院した.画像検査にてUtMt,type 1,cT3br,N1(No.106recR),M0,cStage IIIB(食道癌取扱い規約第12版)の食道扁平上皮癌の診断となった.手術加療を目的に,消化器内科より一般外科へ紹介された.巨大な腫瘍であり,気管膜様部が腫瘍に圧排され扁平化していたが,明らかな気管浸潤は認めなかった.cT3brと診断し,術前CRT後,可能ならば手術の方針とした.術前CRTとしてfluorouracil+cisplatin(以下,FPと略記)療法(fluorouracil:700 mg/m2,cisplatin:50 mg/m2)を3週間間隔で2コース施行され,放射線療法は,両側鎖骨上を含め食道入口部から食道全体を照射野として,41.4 Gy/23 fr施行された.軽度の腎機能低下を認めたためシスプラチンは減量した.この術前治療中に,Grade 2の放射線性食道炎を認めたが,その他重篤な有害事象は認めなかった.術前CRT中に通過障害は解消され,食事摂取が可能となった.一度自宅退院とし,術前CRTから4週間の期間をあけて手術を行う方針とした.
再診時身体所見:体重60 kg,身長170 cm.
再診時血液検査所見:Hb 10.0 g/dlと軽度の貧血を認め,Cre 1.08 mg/dlと軽度腎機能障害を認めた.SCC 33.0 ng/dlと上昇を認めた.その他特記所見なし.
上部消化管内視鏡検査所見:初診時は切歯列より24~28 cmにわたり,12時から3時方向を基部とする内腔に突出する腫瘤性病変を認め,スコープ通過可能であった(Fig. 1a).再診時は切歯列より22 cmから白苔を伴う巨大な腫瘤性病変を認めスコープは不通過であった(Fig. 1b).術前CRT後,腫瘤は縮小し,スコープ通過可能となった(Fig. 1c).

病理検査所見:初診時の生検では異形細胞がシート状に配列する扁平上皮癌を認めた(Fig. 2).

CT所見:胸部上部食道から胸部中部食道に,長径14 cmの巨大な腫瘤を認めた.腫瘤による気管膜様部への圧排を認め,気管支は軽度扁平化していた.No. 106 recRリンパ節が9 mmと軽度腫脹を認めリンパ節転移陽性と判断した(Fig. 3a, b).PET-CTは撮影していないが,CT上,明らかな遠隔転移は認めなかった.術前CRTが奏効し,腫瘍は径8 cmまで縮小を認めた.臨床的治療効果判定はpartial responseであった.No. 106 recRリンパ節径に変化は認めなかった(Fig. 3c, d).

気管支鏡検査所見:治療前の気管支鏡検査では気管膜様部が腫瘍により圧排される所見を認めたが,明らかな癌の浸潤は認めなかった(Fig. 4).

術前CRT後のCTにて切除可能と判断し,胸腔鏡下食道亜全摘3領域郭清後縦隔経路胃管再建を施行した.手術時間581分.出血量235 gであった.病理学的検査では,切除検体に扁平上皮癌成分は認めず,大型多核化した異型の強い腫瘍細胞のびまん性増生を認め,食道肉腫の病理診断となった.腫瘍は固有筋層を超えて外膜まで達していたが,リンパ節転移は認めなかった.術前CRTにより扁平上皮癌成分が消退し,肉腫成分のみ残存したものと推測された.術前の生検結果と合わせ,食道癌肉腫ypT3,N0,M0,ypStage IIB,の最終診断となった.残存した肉腫成分に対する組織学的治療効果判定はGrade 2相当であった(Fig. 5a, b).

術後経過はClavien-Dindo分類Grade 2の肺炎を認めたが,経過は比較的良好であり,術後14日目に退院となった.術後はSCC 2.5 ng/dlと低下,現在術後30か月経過し無再発生存中である.
食道癌肉腫は食道悪性腫瘍のうち0.5~2.8%1)2)と比較的まれである.食道癌取扱い規約第12版には,「間葉系性格を有した紡錘形ないしは多形性腫瘍細胞を伴う癌腫」と定義される.肉眼的所見ではしばしば細い茎を有した隆起性病変を形成し,組織学的に基部から連続する上皮内に扁平上皮癌を伴っていることが特徴である3).内腔に突出する腫瘤を呈するため比較的早期に通過障害や嚥下時痛などの症状を認める.本例のように,肉眼的所見や内視鏡下生検では食道癌肉腫の診断に至らず,食道扁平上皮癌として治療を行い,術後の病理結果で食道癌肉腫の最終診断となった症例も存在する.また,治療は,食道扁平上皮癌においては周術期治療のエビデンスを認めるが4),食道癌肉腫においては症例数が少ないため周術期治療についてエビデンスのある治療は存在しない.手術に関してはIyomasaら2)は癌成分のリンパ節転移の可能性があり,食道扁平上皮癌に準じたリンパ節郭清を伴う食道癌根治術が必要であると報告している.
ときに食道癌肉腫は巨大な腫瘍を呈することがあり,主腫瘍部の局所コントロールが必要と判断された場合,本例のように術前CRTも選択肢の一つとなる.食道癌肉腫に対する術前化学放射線療法について2000年から2023年の期間で医学中央雑誌にて「食道癌肉腫」,「術前化学放射線療法」,PubMedにて「esophageal carcinosarcoma」,「neoadjuvant chemoradiotherapy」をキーワードに検索したところ,13例の報告を認めた5)~12).その13例に自験例1例を含めた14例において,年齢,性別,生検での診断,cTNM分類,術前化学療法のレジメン,術前放射線療法の放射線量,腫瘍径の変化,臨床的治療効果,組織学的治療効果,病理診断について検討を行った(Table 1).年齢の中央値は65歳であり,男性が12例,女性が2例であった.生検では5例が扁平上皮癌,9例が食道癌肉腫と診断された.cTNM分類については13例記載があり,深達度についてはcT4が1例,cT3が8例,cT2が2例,cT1が2例であり,リンパ節転移については記載のあった全ての症例でcN(+)と診断された.術前化学療法のレジメンについては12例記載があり,FP療法が9例,S1+cisplatinが1例,S1単剤が1例,etoposide+cisplatinが1例であった.術前放射線治療の放射線量については12例記載があり,その中央値は40.8 Gyであった.腫瘍径の変化については5例記載があり,1例では変化が見られなかったものの,4例では著明な縮小が得られた.臨床的治療効果判定については12例記載があり,partial responseが10例,stable diseaseが1例,progressive diseaseが1例であった.pTNM分類については12例記載があり,pT4が1例,pT3が2例,pT2が2例,pT1以下が7例であった.組織学的治療効果判定については5例記載があり,Grade 2が4例,Grade 1が1例であった.また,術後病理診断については12例記載があり,食道癌肉腫が8例,食道肉腫が2例,食道扁平上皮癌が2例であり,それぞれ術前の生検結果と合わせて食道癌肉腫の最終診断となっている.
| No | Author | Year | Age/Sex | Biopsy pathological diagnosis | cTNM | Chemotherapy | Radiation (Gy) | Tumor diameter (mm) | Clinical response | ypTNM | Histological response | Pathological diagnosis |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | Okuda5) | 2005 | 57/M | SCC | T3, N2, M1 | FP | 30 | No change | SD | T4, N2, M1 | * | carcinosarcoma |
| 2 | Kumano6) | 2008 | 57/M | SCC | T3, N2, M0 | FP | 40.4 | 100→15 | PR | T1b, N0, M0 | * | carcinosarcoma |
| 3 | Zuiki7) | 2009 | 50/M | carcinosarcoma | T3, N1, M0 | FP | 40 | 80→30 | PR | T1b, N2, M0 | * | SCC |
| 4 | Zuiki7) | 2009 | 66/M | SCC | * | FP | 40.8 | 80→35 | PR | T1b, N0, M0 | * | sarcoma |
| 5 | Kuo8) | 2010 | 68/M | carcinosarcoma | T3, N1, M0 | * | * | * | * | * | * | * |
| 6 | Kuo8) | 2010 | 45/M | carcinosarcoma | T4, N1, M0 | * | * | * | * | * | * | * |
| 7 | Kobayashi9) | 2010 | 68/M | carcinosarcoma | T3, N1, M0 | S1+cisplatin | 40 | * | PR | Tis, N0, M0 | Grade 2 | SCC |
| 8 | Kobayashi9) | 2010 | 64/M | carcinosarcoma | T2, N1, M0 | FP | 38 | * | PR | T1a, N0, M0 | Grade 2 | carcinosarcoma |
| 9 | Katsuya10) | 2017 | 67/F | carcinosarcoma | T1b, N1, M0 | FP | 50.4 | * | PR | T1b, N0, M0 | Grade 1 | carcinosarcoma |
| 10 | Katsuya10) | 2017 | 73/F | carcinosarcoma | T2, N1, M0 | FP | 41.4 | * | PR | T1b, N0, M0 | Grade 2 | carcinosarcoma |
| 11 | Yamauchi11) | 2022 | 65/M | SCC | T3, N1, M0 | FP | 60 | * | PD | T2, N0, M1 | * | carcinosarcoma |
| 12 | Yang12) | 2022 | 70/M | carcinosarcoma | T3, N1, M0 | S1 | 44.94 | * | PR | T2, N0, M0 | * | carcinosarcoma |
| 13 | Yang12) | 2022 | 62/M | carcinosarcoma | T1, N1, M0 | EP | 47.08 | * | PR | T3, N0, M0 | * | carcinosarcoma |
| 14 | Our case | 70/M | SCC | T3br, N1, M0 | FP | 41.4 | 140→80 | PR | T3, N0, M0 | Grade 2 | sarcoma |
SD: stable disease, PR: partial response, *: unknown, SCC: squamous cell carcinoma, EP: etoposide+cisplatin
深達度において,食道癌肉腫は隆起が大きく,巨大な腫瘍を呈することがあるが,大きさの割に深達度は浅いことが多い13).もともとのCTや内視鏡での診断よりも深達度が浅い可能性があるため,術前CRTがT因子のダウンステージングにどれだけ寄与するかは不明である.今回検討した症例では腫瘍径について記載のあった5例のうち4例では腫瘍径が大幅に縮小し,そのうち3例では病理学的にT因子のダウンステージングが得られた.病理学的にダウンステージングが得られていることは患者にとっても良いのはもちろんであるが,腫瘍径の縮小は手術操作性に大きく寄与し,巨大な食道癌肉腫の周術期治療として術前CRTはやはり一つの選択肢になると考えられる.
リンパ節転移に関しては食道癌全体でも術前診断を正確に行うことは難しいとされており14)15),食道癌肉腫でも同様である.また,肉腫成分と癌成分が混在する癌肉腫の転移リンパ節の組織は,肉腫成分より癌成分の転移が多いとされている13)16).Table 1において,13例でcN(+)と診断されているが,そのうちypN(+)と診断されたものは2例であり,1例は転移成分について記載なし,1例は扁平上皮癌のリンパ節転移であった.
また,術前CRTの組織学的治療効果に関しての報告は少なく,Table 1で示すように5例のみの報告であったが,Grade 2が4例と比較的良好な治療効果を認めた.橋本ら17)が本邦での食道癌肉腫に対する術前化学療法による組織学的治療効果に関して報告しており,明記されている9例のうち6例ではGrade 1,3例ではGrade 0の効果判定であった.本例では,扁平上皮癌成分が消失していた.残存した食道肉腫に対する組織学的治療効果判定がGrade 2であり,肉腫成分に対しても治療効果を認めた.さらに,Zuikiら7)や,Kobayashiら9)の報告では術前診断が食道癌肉腫であったが,扁平上皮癌の術後病理診断となった症例があり,こちらでも肉腫に対するCRTの治療効果を認めている.
以上のように,食道癌肉腫に対する術前CRTは臨床的,組織学的に治療効果を認め,奏効割合が高いと推測される.また,術前CRTは扁平上皮癌成分,肉腫成分いずれにも治療効果が期待でき,巨大な食道癌肉腫に対して術前CRTは周術期治療の選択肢の一つになると考えられる.本例は食道扁平上皮癌の術前診断で術前CRTを行ったが,食道癌肉腫の術前診断であったとしても,手術を行うためには局所のコントロールが必要であると判断し,FP療法を用いた術前CRTを行ったと考えられる.しかし,症例報告は少なく,さらなる症例の検討が必要である.
利益相反:なし