2025 Volume 58 Issue 4 Pages 216-225
症例は66歳の男性で,2020年3月上行結腸癌に対し腹腔鏡下結腸右半切除術を施行した.遅発性縫合不全による腸管皮膚瘻を認め,同年5月吻合部切除術を施行した.病理検査で瘻孔の近傍に播種を認めたため,上行結腸癌同時性腹膜播種と診断した.同年12月胃癌に対し幽門側胃切除術を施行した.その際小腸と小腸間膜に播種を認めたため同時に切除した.2022年8月に施行したCTで,小腸近傍に14 mm大の結節を認めた.2か月で20 mmに増大し,FDG-PET/CTでも異常集積を認めたため腹膜播種再発と診断し,開腹下小腸部分切除術を施行した.腫瘍は小腸内に認め,漿膜外への露出は明らかではなく,腹膜播種ではなかった.病理学的に腫瘍は小腸壁内から内腔に露出したと考えられ,組織像は上行結腸癌に類似し,上行結腸癌の孤立性小腸転移と診断した.2度の腹膜播種切除後に孤立性小腸転移を認めた症例はまれであり報告する.
A 66-year-old man underwent laparoscopic right hemicolectomy for ascending colon cancer in March 2020. An enterocutaneous fistula developed postoperatively due to delayed anastomotic leakage, which required anastomotic resection in May 2020. Pathological findings revealed peritoneal dissemination in the vicinity of the fistula, leading to diagnosis of synchronous peritoneal dissemination of ascending colon cancer. In December 2020, the patient underwent distal gastrectomy for gastric cancer. Peritoneal dissemination was observed in the small intestine and mesentery, which were resected at the same time. CT performed in August 2022 revealed a 14-mm nodule near the small intestine, which had increased to 20 mm within two months. FDG-PET/CT showed abnormal accumulation, suggesting recurrent peritoneal dissemination. The patient underwent partial resection of the small intestine, but the tumor found in the small intestine was not peritoneal dissemination histopathologically. The tumor histology was consistent with that of the original ascending colon cancer, leading to diagnosis of isolated small intestinal metastasis. We herein present this case as a rare example of isolated small intestinal metastasis after two resections of peritoneal dissemination of colon cancer.
大腸癌の小腸転移は①播種性②脈管性(血行性,リンパ行性)③管腔内経由の三つの転移形式があり,多くは播種性転移である1).また,小腸以外に他臓器転移のない孤立性小腸転移について厳密な定義はないが,工藤ら2)は病理所見において①原発大腸癌の病理所見と類似していること,②明らかな小腸粘膜内癌の所見がないこと,③原発大腸癌や播種性転移巣からの連続性浸潤がないことの3所見を大腸癌の孤立性小腸転移の条件として挙げている.これに従うと,大腸癌の孤立性小腸転移は脈管性(リンパ行性,血行性)転移である.頻度が低い転移形式のため,その臨床像や適切な治療法はいまだ不明な点が多い.今回,2度の腹膜播種切除後に孤立性小腸転移を認めた上行結腸癌の1例を経験したので報告する.
症例:66歳,男性
主訴:腹部膨満感
既往歴:特記事項なし.
現病歴:2020年3月に上行結腸癌に対し腹腔鏡下結腸右半切除術を施行した.消化管再建は体腔外で機能的端々吻合を施行した.進行度分類はtub1,Ly1,V1,pT4aN1aM0,pStage IIIbであった.明らかな合併症を認めず退院し,患者の希望により術後補助化学療法を行わなかった.退院後に発生した小開腹創の創感染が改善しないため同年5月にCTを施行した.その結果,創部の皮下組織に認められた液貯留は腹壁に接する吻合部に連続していたことから(Fig. 1),遅発性縫合不全による腸管皮膚瘻と診断し,吻合部切除術および小腸人工肛門造設術を施行した.術中肉眼的には播種結節を認めなかったが,ホルマリン固定後の切除標本において瘻孔を形成する回腸の漿膜面に播種結節を認めた(Fig. 2).初回手術から一連の治療経過と考えられたことから,上行結腸癌同時性腹膜播種と診断し,進行度分類はpT4aN1aM1c,pStage IVcに変更した.同年8月に人工肛門を閉鎖した.同年12月に施行した上部消化管内視鏡検査で異時性に胃癌を認めたため,開腹下幽門側胃切除術および胆囊摘出術を施行した.術中にTreitz靭帯より250 cm肛門側の小腸漿膜面と小腸間膜表面に2か所の播種結節を認めたため,同時に小腸部分切除術および播種結節摘出術を施行した.病理診断では,胃癌は0-IIa+IIc型,tub1,Ly0,V0,pT1bN1M0 pStage IBであった.播種病変のHE染色による病理組織像は上行結腸癌と類似し,免疫染色検査ではcytokeratin(以下,CKと略記)7(–),CK20(++)であったことから上行結腸癌の播種性小腸転移と診断した(Fig. 3).術後CAPOX+bevacizumabによる化学療法を行ったが,末梢神経障害が強くなり,明らかな再発所見がないことを確認して6コースで終了した.その後再発なく経過していたが,2022年8月に術後フォローアップ目的に施行したCTで,胆囊摘出部に接する小腸の近傍に14 mm大の結節性病変を認めた.病変の経時的な変化を評価するため,2か月後に検査を施行した.



現症:身長173 cm,体重73.4 kg.腹部は平坦・軟であり,圧痛を認めなかった.
血液生化学検査所見:腫瘍マーカーはCEA 3.9 ng/ml,CA19-9 16.4 U/mlと基準値内であった.
腹部CT所見:結節性病変は20 mmへ増大傾向を認めた(Fig. 4).

FDG-PET/CT所見:CTで認めた結節性病変にSUV max 13.1の集積を認めた(Fig. 5).

この時点では上行結腸癌の腹膜播種再発と診断した.単発であったことと播種による通過障害が疑われる腹部膨満感を訴える頻度も多くなっていたため播種結節摘出術を予定した.
手術所見:幽門側胃切除術の手術創に沿って上腹部正中切開で開腹した.上腹部の腹壁に広範囲に小腸・結腸の癒着を認めた.胆囊摘出部および腹壁に癒着する小腸を認め,同小腸内に20 mm大の腫瘍を触知した.周囲に明らかな腹膜播種を認めず,術前に腹膜播種と診断していた病変はこの小腸腫瘍であると判断した.癒着剥離による腸管損傷の危険を考慮して剥離範囲は必要最小限としたため,吻合部や空腸起始部から腫瘍までの距離は測定できなかった.肝実質の一部および癒着した腹膜ごと腫瘍を剥離したのちに,小腸部分切除術を施行した.手術時間は3時間32分,出血量は96 mlであった.
切除標本所見:腫瘍は30×25 mm,2型,小腸腫瘍は腸間膜対側を中心として2分の1周性に認め,粘膜面に露出しており,原発性小腸癌との鑑別を要した(Fig. 6).

病理組織学的検査所見:HE染色では中心部壊死を混在した粘液貯留を認め,初回手術時の上行結腸癌切除標本の組織像に類似していた(Fig. 7).また,漿膜と腫瘍との境界は明瞭であり,病変の主座は粘膜下層以深で粘膜を押し上げるように内腔側へ伸展する所見であった(Fig. 8).免疫染色検査ではCK7(–),CK20(+)であった(Fig. 9).これらの所見を総合して上行結腸癌の孤立性小腸転移と診断した.



術後経過:術後合併症を認めず,術後7日目に退院した.退院後腹部膨満感は改善した.化学療法は患者の希望により行わず,術後1年3か月現在無再発で経過観察中である.
本邦における大腸癌治癒切除後の初回再発部位の中で,小腸は「その他(4.8%)」に含まれ,頻度の低い再発部位である3).また,結腸・直腸癌の腹膜播種に対して腫瘍減量手術を行い5年以上の長期生存を得た206例の特徴に関する多施設コホート研究では治療後に孤立性再発した81例の中で孤立性小腸転移再発は認めず,腹膜播種の治療後に出現することもまれと考えられる4).本報告は,大腸癌孤立性小腸転移が腹膜播種の治療後にも出現する可能性があり,腹膜播種との鑑別が難しいことと診断的治療としての手術が治療の選択肢になる可能性を示した.
医学中央雑誌にて「大腸癌」,「小腸転移」をキーワードとして1903年から2023年の期間で検索したところ(会議録を除く),本邦における異時性孤立性小腸転移を切除した症例(吻合部再発および骨盤内リンパ節再発を伴う症例は除く)は自験例を含め21例であった(Table 1)2)5)~22).年齢の中央値は68歳,小腸転移発見の契機は,腹痛や嘔吐などの臨床症状が15例,貧血や腫瘍マーカー上昇などの検査異常が7例であった(重複例を含める).術前診断では腸閉塞が11例,小腸腫瘍(原発性または転移性)が9例,腹膜播種再発2例,その他が2例であった(重複例を含める).小腸腫瘍と診断した9例のうち4例と,腹膜播種再発と診断した2例でFDG-PET/CTが施行され,いずれも腫瘍部に異常集積を認めていた.このように孤立性小腸転移に特異的な症状や診断方法はなく,術前に診断するのは困難なことが多いと考えられる.過去の報告では大腸癌術後に臨床診断上腹膜播種が疑われ切除した結果,デスモイド腫瘍,異物肉芽腫,消化管外アニサキス症,落下胆石や原発性小腸癌と診断されている症例も散見される23)~28).その多くの報告で術前CTの他にFDG-PET/CTなどの追加検査が行われている.いずれの疾患も画像的特徴は腹膜播種と類似しており鑑別は困難とされているが,腹膜播種を疑った場合の鑑別診断として留意する必要がある.自験例では腹膜播種の切除後の再発であったことから今回の病変も腹膜播種の再々発と考えたが,大腸癌の治癒切除後に消化器症状を有し画像検査で小腸に接する腫瘍を認める場合は前述の報告に挙げられている疾患に加えて孤立性小腸転移を鑑別診断に含める必要があると考えられた.FDG-PET/CTは孤立性小腸転移の診断には寄与しなかったが,過去の報告11)と同様に自験例でも腫瘍の局在,個数の情報に有用であった.治療について,大腸癌治療ガイドライン2022年版には肝臓・肺・脳転移以外の血行性転移に対しても切除が考慮されるが,他臓器転移が多く薬物療法や放射線療法が適応されていることが多いと記載されている3).また,原発巣治癒後の腹膜再発について,切除の有効性は明らかではなく,全身性疾患の一環という観点から薬物療法を実施するようコメントされている3).転移性小腸腫瘍に対する腸管切除については症状のコントロール目的に検討し,無症状例に対する切除の有用性は明らかではない29).Table 1に示す孤立性小腸転移の過去の切除例については,腸閉塞の治療や診断的治療として手術を選択したものが多い.自験例では術前は腹膜再発と考えたが,病変の関与が疑われる消化器症状があることと病変は1か所で過大侵襲とならず切除可能と考えたことから病変の切除を選択した.結果的に,病変の切除が孤立性小腸転移の診断的治療となった.腹膜再発を疑った時点で薬物療法を行う可能性もあるが,孤立性小腸転移を鑑別診断に含めることで診断的治療として手術が治療の選択肢になると考えられた.手術により術前訴えていた腹部膨満感は改善し,過去の多数の報告と同様に有症状の孤立性小腸転移の切除はQOLの改善にも寄与しうると考えられた.小腸切除後の術後補助化学療法は患者の希望から行わなかったが,過去の報告で施行の有無を記載されているものでは11例中6例行っていた.大腸癌治療ガイドライン2022年版にも肝転移以外の再発巣切除後の術後補助化学療法は弱く推奨されており3),症例に応じて検討する必要がある.孤立性小腸転移の術後経過について,過去の報告では原発大腸癌手術から小腸転移再発までの期間の中央値は29か月であり,小腸転移切除後の生存期間は,約半数の症例で2年以上であった.自験例では原発大腸癌手術から孤立性小腸転移再発までの期間は29か月と過去の報告と同様であった.孤立性小腸転移の切除が予後の改善に寄与するかは,経過観察期間が短いため現時点では不明であるが,腹膜播種再発病変の切除と合わせると初めの診断から3年以上の生存が得られており,総合的な予後延長につながる治療選択肢の一つとなる可能性がある.
| Case | Author | Year | Age | Sex | Primary tumor | Metastasis of small intestine | ||||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Location | Depth | Histology | The site of distant metastasis | Duration from the first surgery (months) | Diagnostic opportunity | Preoperative diagnosis | Diagnostic modality | Adjuvant chemothrapy | Prognosis | |||||||
| Months after the surgery | Survival | |||||||||||||||
| 1 | Kaneko5) | 1994 | 72 | F | T | ss | tub2 | none | 33 | abdominal pain | bowel obstruction | intraoperative findings | ND | 62 | alive | |
| 2 | Yamamoto6) | 1997 | 76 | M | S | ss | tub2 | none | 108 | abdominal distension | bowel obstruction | small intestinal radiography | ND | 13 | alive | |
| 3 | Niwa7) | 2003 | 69 | F | T | ss | tub2 | none | 36 | appetite loss, vomiting | bowel obstruction | intraoperative findings | Yes | 11 | alive | |
| 4 | Ozawa8) | 2006 | 62 | M | D | ss | asc | none | 4 | melena | small intestinal tumor* | enteroscopy | ND | 14 | alive | |
| 5 | Aoyanagi9) | 2008 | 64 | M | S | se | muc | none | 31 | tumor marker elevation | small intestinal tumor | CT, FDG-PET/CT | Yes | 60 | alive | |
| 6 | Nakau10) | 2008 | 68 | F | S | ss | tub2 | liver | 25 | tumor marker elevation, abdominal pain, abdominal distension | small intestinal tumor, bowel obstruction | CT, FDG-PET/CT, small intestinal radiography | Yes | 13 | alive | |
| 7 | Kudo2) | 2009 | 64 | F | A | ss | tub2 | none | 13 | abdominal pain, vomiting | small intestinal tumor | colonoscopy | ND | 44 | dead | |
| 8 | Kudo2) | 2009 | 56 | F | C | se | tub2-por | none | 3 | abdominal pain, vomiting | bowel obstruction | unknown | ND | 12 | alive | |
| 9 | Katsurada11) | 2010 | 76 | F | R | ss | tub2 | none | 20 | tumor marker elevation | small intestinal tumor | FDG-PET/CT | Yes | 39 | alive | |
| 10 | Kinoshita12) | 2010 | 68 | F | S | si | tub2 | none | 39 | abdominal pain, vomiting | small intestinal tumor, bowel obstruction | CT, small intestinal radiography | ND | 9 | alive | |
| 11 | Hashimoto13) | 2010 | 92 | F | A | si | por | none | 6 | abdominal pain | bowel obstruction | CT, intraoperative findings | ND | 11 | alive | |
| 12 | Yamaguchi14) | 2011 | 82 | F | S | se | tub1 | none | 62 | anemia, tumor marker elevation | small intestinal tumor | small intestinal radiography | No | 38 | dead | |
| 13 | Sakai15) | 2014 | 61 | F | S | se | tub1 | none | 15 | closure of stoma | none | intraoperative findings | ND | 75 | alive | |
| 14 | Watanabe16) | 2015 | 77 | M | C | ss | tub2 | none | 36 | abdominal pain | small intestinal penetration, retroperitoneal abcess | CT | Yes | 71 | dead | |
| 15 | Miyake17) | 2016 | 87 | F | R | si | tub2 | none | 29 | vomiting | small intestinal tumor, bowel obstruction | CT | No | 19 | alive | |
| 16 | Nasu18) | 2016 | 75 | F | S | ND | ND | none | ND | anemia, abdominal pain, leg edema | bowel obstruction | CT | ND | 8 | alive | |
| 17 | Furuya19) | 2018 | 69 | M | A | ss | muc>tub1 | none | 24 | abdominal pain, vomiting | bowel obstruction | CT | ND | ND | alive | |
| 18 | Suzuki20) | 2019 | 64 | F | C/A | se | tub2-muc | none | 51 | anemia | small intestinal tumor | CT, FDG-PET/CT | No | 30 | alive | |
| 19 | Uejima21) | 2020 | 63 | M | R | ss | tub2 | none | 33 | anemia, tumor marker elevation | peritoneal recurrence | CT, FDG-PET/CT | No | 33 | alive | |
| 20 | Matsuki22) | 2020 | 68 | M | T/D/D | ss | tub2 | none | 6 | nausea, vomiting | bowel obstruction | CT, small intestinal radiography | Yes | ND | alive | |
| 21 | Our case | 66 | M | A | se | tub1 | peritoneum | 29 | abdominal distension | peritoneal recurrence | CT, FDG-PET/CT | No | 15 | alive | ||
Abbreviations: T, transverse colon; S, sigmoid colon; R, rectum; D, descending colon; A, ascending colon; C, cecum; ND, not described
*Small intestinal tumor includes small intestinal cancer or small intestinal metastasis
原発大腸癌治療時に遠隔転移を有する症例は自験例を含め4例であった.そのうち同時性腹膜播種を有するのは自験例だけであった.大腸癌治療ガイドラインの2019年版からは大腸癌の腹膜播種はP2症例まで過大侵襲とならない切除であれば原発巣と同時に切除することを強く推奨されている30).そのため,大腸癌の同時性腹膜播種切除例は今後増加することが予想される.そのような症例においても,孤立性小腸転移再発は起こり,腹膜播種との鑑別が必要なことに留意し,再発巣切除が診断的治療として考慮され,QOLの維持や予後向上に寄与する可能性がある.
利益相反:なし