直腸肛門部の悪性黒色腫の1切除例を経験したので報告する. 症例は67歳の男性で, 排便後の出血と腫瘤脱出を主訴として来院. 内視鏡検査にて歯状線直上に青黒い色調の隆起性病変を認め, 生検で悪性黒色腫と診断された. 腹会陰式直腸切断術・D3郭清を施行. 鼠径部リンパ設郭清は施行しなかった. 腫瘤は27×35×15mmで黒色調を呈し, 周囲粘膜に色素のしみだしと色素斑を認めた. 大腸癌取扱い規約に準じれば, P0H0M (-) N (-), mp, ly0, v0, ow (-), aw (-), stage 1であった. 術後化学療法は施行しなかった. 術後約1年2か月経過した現在, 再発の徴候は認めない. 本疾患はその予後が極端に不良のために治療方針に関して議論が分れているが, 本症例では積極的な手術的治療が有効であったと思われる. また, 主病変から離れて存在した色素斑部にも腫瘍細胞の進展を認めたため, 腫瘍周囲の色素変化の注意深い観察と, 十分な距離をとった積極的な手術の重要性が示唆された.