抄録
左主気管支膜様部に浸潤が疑われた進行食道癌に対し, 膜様部切除後に広背筋弁の作製に工夫を加えて修復した. 症例は81歳の男性で, 胸部中部食道 (Mt) に3型の腫瘍を認め, 胸部CT検査, 気管支内視鏡検査では腫瘍の明らかな左主気管支への浸潤を示す所見は認められなかった. 手術は, 広背筋弁を温存して右側方切開で開胸し, 腫瘍と左主気管支膜様部との間は剥離が困難であったため左主気管支膜様部を一部合併切除して胸部食道全摘を行った. 先端に皮下脂肪を温存した有茎広背筋弁を作製し欠損した膜様部を被覆した. 陽圧換気時もエアーリークを認めず術後経過も良好であった. 気管支膜様部を切除した食道癌に対して, その再建に皮下脂肪をつけた広背筋弁を用いて修復することは, 術直後からエアーリークを予防し縫合不全を防ぐのに有用な手術法と考えられた.