日本消化器外科学会雑誌
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進行胃癌に対する大網網嚢温存手術適応の可能性-手術侵襲, 術後合併症および手術成績からみた検討
藤田 淳也塚原 康生池田 公正赤木 謙三菅 和臣秦 信輔福島 幸男柴田 高北田 昌之島野 高志
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2003 年 36 巻 8 号 p. 1151-1158

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抄録

本邦では進行胃癌に対する標準術式として大網網嚢切除が行われているが, この手技の臨床的意義を評価したevidenceは未だ存在しない. 今回, 当院で切除を受けた進行胃癌症例を大網網嚢温存群と切除群に分け, 手術侵襲, 術後合併症, 再発形式, および遠隔成績をretrospectiveに比較しその妥当性を検討した. 対象および方法: 1996~2001年に切除を受けたT2, T3胃癌症例188例, 生存に関する検討では1991~2001年の286例を対象とした. 手術侵襲: 手術時間, 出血量, 術翌日の血中アミラーゼ値を両群間で比較した. 手術成績: 術後在院日数, 術後合併症, 再発率, 再発形式, および術後生存率を比較した. 結果: 両群間の進行度の比較では切除群に進行した症例が多く背景に偏りが認められた. 手術時間, 出血量, 術後血中アミラーゼ値は切除群で高かった. 術後合併症ではイレウスの発生率が切除群で有意に高く, イレウスに手術治療を要した症例も多かった. 術後の癌再発形式, 再発率, ステージ別5年生存率は両群間に有意差は認められなかった. 考察: 大網網嚢切除術は温存術に比べて手術侵襲が大きく術後合併症の頻度が高いと考えられた. いっぽう再発形式, 再発率, 術後生存率は両群間で差は認められず, 大網網嚢切除のメリットは見出されなかった. 今回の検討は, 現在まで慣習的に行われてきた網嚢切除を再考するひとつの手がかりになるものと考えられる.

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