日本衛生学雑誌
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低リチウム食が行動に及ぼす影響
小野 哲和田 攻
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1989 年 44 巻 3 号 p. 748-755

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抄録

躁うつ病に対してリチウムが有効である事実はよく知られており,また近年,リチウムのさまざまな薬理作用が報告されるようになった。例えば,リチウム投与によりエンケファリンやガストリンなどペプチドホルモン1,2)やセロトニン3)などの作用が影響を受けることが報告され,その作用機構はその放出やレセプターに影響するものとされている。その他,生体リズムを変化させる事実4,5),白血球増加作用6~8),血圧降下作用9,10),などの報告もある。また薬理作用以外でも,赤血球膜のLi-Na対向輸送において,本態性高血圧者と正常者の間に有意差の認められることが話題になっている11~14)
しかし,血清中リチウム濃度で比較した場合,通常レベル15)の1000倍前後の濃度で上記薬理作用は発現し,これら薬理作用量の数倍のレベルは中毒量である16)。これらのリチウムレベルに関して考えた場合,通常レベルあるいはそのレベル以下における影響についての知見は少なく,現在,リチウムは必須性が不明の元素として分類されている。
しかし,低レベルのリチウムに関する少ない報告のなかで,リチウムの必須性を示唆する報告もある。飲料水中のリチウム濃度と虚血性心疾患による死亡率は負の関係にあるという疫学調査の結果17,18)からVoors18)はリチウムが必須元素であることを推測している。また,妊娠家兎体液中のリチウム濃度の変動と胎児の発育段階を調べた結果からPalavinskasら15)もリチウムの必須性を推測している。しかし,これら推測の根拠となる事実は状況証拠の域を出ていないように思われる。
そこで,リチウムの通常レベル以下における影響を調べるために,まず低リチウム食を作成した。そしてこの低リチウム食をマウスに与え,シドマン法19)に変更,追加を行った我々の方法20)により,低リチウム食が行動に及ぼす影響を調べた。

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