抄録
成熟児を出産した健康な授乳婦117名の分娩後5または6日の母乳中IgA濃度を測定し,当日の母乳分泌量を乗じてIgA一日分泌量とし,周産期および妊娠後期の食生活要因との関連を調べた。周産期項目では年齢,出産回数,在胎期間,出生身長および体重,児の性,死産および流早産経験,妊娠中や分娩時の異常の有無;食生活項目では各食品群,蛋白質源食品および嗜好品の摂取頻度,妊娠前と較べた食事量について,まず項目毎に各群間でIgA量の平均値を比較した。次に,それらの項目の中から平均値の相違が比較的大きかった13項目を説明変数,IgA量の多い,普通,少ないの3群を外的基準として,数量化分析II類を適用した。
1.IgA量3群の正判別率は比較的高かったことから,IgA量に周産期および食生活要因が関与していることが示された。
2.IgA量に影響を与える比較的大きな要因として,周産期要因では年齢,在胎期間,出産経験があげられ,IgA量は,年齢20歳代が30歳代より初産が経産より多く,在胎期間が41週以上では38-41週より少なかった。また,男児では女児よりIgA量が多い傾向が認められた。
3.IgA量は,妊娠前と較べた妊娠後期の食事量が少ない,動物性蛋白質食品の摂取頻度が少ない場合に最も多く,「食事量」や「蛋白質頻度」が多い場合に次に多く,「食事量」が妊娠前と同じ位,「蛋白質頻度」が普通位の場合に最も少なかった。また,塩干魚の摂取頻度が多い場合IgA量は多かった。妊娠後期の食事量が妊娠前より少ない,蛋白質食品の摂取頻度が少ない場合母乳中のIgA量が多かったことについては,妊娠中毒症,流早産傾向などの異常状態がIgA量により大きく関与したためと考えられた。