人文地理
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論説
貝原益軒による藩撰地誌の編纂と地理的知識の形成
竹内 祥一朗
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2020 年 72 巻 1 号 p. 1-20

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抄録

本稿は,近世の官撰地誌史上の重要史料である『筑前国続風土記』の編纂過程を検討し,さらにこれと福岡藩政や作者である藩儒・貝原益軒の知的実践との関係を論じ,その成果を近世官撰地誌史に位置づけるものである。まず,『筑前国続風土記』の編纂過程について,日記や藩政史料などを用いて検討した。その結果,『筑前国続風土記』の地理情報は藩の支配機構を回路として収集される一方,益軒独自の書物収集によって蓄積されていたことが明らかになった。また,『筑前国続風土記』編纂を成り立たしめた藩儒益軒の知的実践,とりわけ地理的知識の形成は,参勤交代などの移動と藩の職務の遂行を背景としながら,移動先の各地の特性に応じて展開されていた。特に京都では幕藩体制の枠組みを離れた,儒者や公家からなる独自のネットワークを利用して情報の蓄積が図られていた。最終的に,『筑前国続風土記』は型式や政策との関係の点で,官撰地誌史上の17世紀と18世紀の間に適切に位置づけられることを確認し,さらに益軒の考えや配慮に由来する『筑前国続風土記』の個性は19世紀以降の地誌編纂に継承されていくことを指摘した。

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© 2020 一般社団法人 人文地理学会
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