人文地理
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それぞれの世界を生きる
本土在住沖縄出身者の多様化する社会的諸実践
山口 覚
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2005 年 57 巻 6 号 p. 585-599

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抄録

日本の都市社会に生きる移動者についての多くの研究は, 複雑な権力関係や厳しい差別的状況に対する抵抗の諸実践を探求するため, 質的方法や民族誌的記述によって著されてきた。これらの研究はいくつかの研究対象や対象地域を示しており, たとえば朝鮮半島や台湾のようなかつて植民地とされていた地域, そして近代日本の周辺地域がそれに当たる。沖縄や本土在住沖縄出身者は地理学者, 社会学者, 歴史学者にとって重要な対象となっている。近代国民国家としての日本への沖縄列島の統合, 日本本土在住沖縄出身者による抵抗の運動などといった問題に関する多くの研究を見ることができる。しかし現在でもいくつかの問題が残されている。
本稿では, 大阪大都市圏におけるある特定の場所, つまり沖縄出身者の集住地区を対象に, 彼ら/彼女らのアイデンティティと日常生活における個々人の諸実践との関係を取り上げる。たとえ他者がその場所を単一のネガティブな場と表象したとしても, ここで言う場所とは抵抗のための一枚岩の場ではなく, 生存のための諸実践の中で場所内外にパーソナル・ネットワークを広げていった個々の住民の複雑なリアリティに関連するものである。少なくともこの事例研究においては, 弱い立場に置かれた個々の人々は生活のために様々な手段を必要としたため, 被抑圧的な状況に対する政治的手段としての沖縄人エスニシティを発現することは困難であった。

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