抄録
はじめに:中咽頭癌は亜部位により異なる放射線感受性を示すことが知られており,腫瘍の存在部位により異なる治療指針が求められるが,本邦ではその治療指針について厳密には規定されていない。本報告では,2000年3月から2009年3月までに当科で初回治療を行った中咽頭扁平上皮癌99例の治療成績をもとに,中咽頭癌の亜部位別の治療指針につき検討した。
方法:全症例につき5年全生存率(Overall Survival:OS),5年死因特異的生存率(Cause-specific survival:CSS)を,Kaplan-Meier生存曲線を用いてretrospectiveに検討した。また,Stage I,II群とStage III,IV群の5年CSSを検討した。初回治療別に手術群と放射線,化学療法ないし放射線化学療法を行った群(放射線,化学療法群)に分類し,各群の5年CSSを検討した。さらに亜部位別に,側壁型,上壁型はStage I,IIとStage III,IVの各群について初回治療別の5年CSSを検討した。前壁型および後壁型は初回治療別の5年CSSを検討した。
結果:全症例での5年OSは50%,5年CSSは59%であった。Stage I,II群と比較してStage III,IV群は有意に予後不良であった。初回治療別では手術群は33例,放射線,化学療法群は66例で,5年CSSはそれぞれ76%,52%であった。側壁型Stage I,II群の5年CSSは90%で,初回治療別にみると手術群100%,放射線,化学療法群83%だった。側壁型Stage III,IV群の5年CSSは63%で,初回治療別には手術群87%,放射線,化学療法群55%だった。上壁型Stage I,II群の5年CSSは85%で,初回治療別にみると手術群100%,放射線,化学療法群66%だった。上壁型Stage III,IV群の5年CSSは50%で,初回治療別には手術群75%に対して,放射線,化学療法群では5年生存率が得られなかった。前壁型,後壁型は初回治療の別に関わらず,5年観察できた例がなかった。
まとめ:側壁型,上壁型の手術群の予後は良好であり,手術症例の選択は妥当であったと考えられる。主に側壁型で,より低侵襲な口内法切除の適応拡大が今後の検討課題の一つである。一方で,放射線・化学療法群の治療成績に課題があり,併用化学療法のレジメンの変更やNACの導入が治療成績の向上に必要と考えられる。