抄録
門脈ガス血症(portal venous gas;PVG)は腸管壊死等の重篤な疾患に認められる予後不良な徴候とされる。一方腸管気腫症(pneumatosis intestinalis;PI)は腸管壁内に多数の含気性小嚢胞が集簇して発生する病態で,これも壊死を含めた腸管損傷に関与する徴候とされる。両者の合併は腸管壊死を示唆する所見と考えられている。今回我々は下咽頭癌の化学放射線療法(CRT)後にPIおよびPVGを来した1例を経験したので報告する。症例は79歳,男性。左頸部腫瘤を主訴に当科を受診し,下咽頭癌(T2N2bM0)と診断した。まず左頸部郭清術を先行してCRT(CBDCA+5-FU×2,RT:70Gy/35fr)を行った。CRT中に嚥下障害を来し,経管栄養となったが嚥下障害の改善は乏しく,CRT終了1ヶ月後に胃瘻を造設した。胃瘻造設翌日に腹膜炎を発症し,数日後骨盤内膿瘍の形成を認めた。抗菌薬投与とドレナージにより改善したため経管栄養を再開したが,その8日後(胃瘻造設後25日目)急激な腹痛,嘔吐を認め,腹部CTでPIおよび広範囲なPVGを認めた。稀ではあるがPI,PVGは頭頸部癌治療の合併症の1つとして留意する必要があると思われる。